表だって手を貸せない日本
アメリカ政府は20年近く前に台湾に潜水艦(通常動力潜水艦)8隻を供与すると約束したにもかかわらず、通常動力潜水艦を自ら建造できないため、その約束を果たせないでいる。

ついに台湾当局は、アメリカを当てにして待つだけでなく、自らの手で建造する方針に転じた。しかし、最先端かつ特殊技術の固まりである高性能潜水艦を造り出すには、それなりのノウハウが必要で、潜水艦建造の経験がない台湾には、極めて難事業になる。

そこで、かねてより是が非でも台湾海軍に新鋭潜水艦を装備させ、中国海軍への圧力を強化しようと考えている米海軍や米シンクタンクの対中警戒派には、日本の世界最高レベルの潜水艦技術を何らかの形で台湾に授けることができないか、と考える人びとも少なくない。

実際のところ、安倍首相が陣頭指揮を執ってオーストラリアに新鋭潜水艦の売り込みを図ったようには、台湾に売り込むことは考えられない。もちろん、売り込もうとすれば、台湾当局は飛びついてくることは間違いない。

しかしその場合、日本の潜水艦建造メーカーである三菱重工業、川崎重工業とそのグループ企業は、中国と中国の息がかかった国々でのビジネスを全て失うことになりかねない。したがってこのような“正攻法”は完全に非現実的なオプションになる。このため、なんとか別の方法で日本側の協力を得る方策はないものか、と考えることになる。

「日本のメーカーを退職した技術者に、台湾が第三国の企業経由でコンタクトしている」といった情報が取り沙汰されたこともある。しかし、日本で最高の軍事機密を扱う潜水艦建造メーカーの、機密情報や関係者に関するガードは、米軍関係者の間では防衛省よりも強固かもしれないと見られている。メーカーにとっては、一つの情報漏洩でビジネス全体が立ち行かなくなる恐れがあるからだ。実際、台湾当局者が日本の潜水艦建造技術にアクセスした形跡はないと米軍関係者たちは見ている。

もちろん対中強硬派の人びとといえども、水面下で日本と台湾の潜水艦建造関係者が直接コンタクトすることの危険性は十二分に認識している。そのため、「中国側に文句を言われないような体裁と仕組み」を作って、日本の技術を台湾の潜水艦(IDS)建造あるいは、アメリカによる台湾への潜水艦供与(台湾が国産方針を打ち出したからと言って、アメリカ政府が潜水艦供与の約束を取り消したわけではない)に生かせないかという議論もなされている。あくまで私的な議論ではあるが。

米国に設計会社を設立するアイデア
その一つに、アメリカに通常動力潜水艦の設計開発に特化した会社を設立する、というアイデアがある。すでにトランプ大統領は、アメリカの国防に危害を加えない限りでは、アメリカ企業が台湾の潜水艦建造に協力することを許可している。したがって、アメリカ企業である新会社が台湾に技術協力することは可能である。

そして、この新会社に日本の潜水艦建造に関係する有能な技術者たちを雇い入れる。もちろん、日本人としてではなく上院議員の推挙などの特例措置でアメリカ国籍を与え、アメリカ市民として雇用するのだ。これでアメリカ企業の、アメリカ人技術者による、潜水艦設計開発業務になり、中国政府が日本政府や日本のメーカーに圧力をかける根拠はなくなる。

設計が完了した潜水艦は、台湾で完成させてもよいし、アメリカ国内の造船所(これも新規に設立してもよい)で建造してアメリカ政府の武器輸出プログラムに基づいて台湾に供与しても、その両者を併用してもかまわない。アメリカで建造するとなると、アメリカの雇用確保にもつながり、トランプ政権にとっては妙案になる。

もちろん日本の潜水艦関係技術者たちが、簡単にアメリカ市民となってアメリカに移り住み、新たな潜水艦の開発に従事するのかというと、そうは事は運ばないとは思う。だが、移民国家のアメリカ人の発想からすると「日本の技術者たちは、日本の倍以上の収入を得て、日本より広い家に住めて、日本より環境の良い仕事場を与えられれば、アメリカに移り住むのも悪くない。何といっても、台湾の潜水艦戦力強化は、結局は日本の安全にもつながると考えるにちがいない」ということになるのだ。

八方美人的な外交は破綻する
そもそも日本政府は、「台湾の防衛は日本の防衛」などと述べることはあっても、台湾に具体的に手をさしのべようという努力を欠いている。それは、在米の台湾軍関係者たちと日本当局者たちの接触状況を見れば一目瞭然である。

もちろん潜水艦建造に限らず、台湾防衛に何らかの形で日本が協力するということは、少なくとも軍事面においては中国に対抗姿勢をとることを意味する。実際、国際社会からすると過剰に見えるほど首相自らトランプ大統領を“おもてなし”して日米同盟に頼っているのに、「日本は中国とは軍事的に対抗する気はない」と言っても通らない。

何といっても、安倍政権が頼るトランプ政権、そしてアメリカ連邦議会も、軍事的には中国と対決する姿勢を堅持している。日本が、そのアメリカの軍事的庇護を受け続ける限りは、中国と軍事的に対抗せざるを得ないのだ。

アメリカには、日米同盟こそが日本外交の根幹であると強調する。中国には、憲法第九条の平和主義を盾に、中国に軍事的に対抗することなどあり得ないと理解を求める。そして台湾には、台湾の政治的独立維持は日本の安全保障に欠かせない、と理想だけを述べて具体的には何の手も貸さない。

このような外交姿勢は、国際社会ではあまりにも手前勝手で八方美人的な姿勢とみなされ、誰にも相手にされなくなってしまうであろうと危惧する。(軍事社会学者・北村淳)

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