いわゆる“元徴用工“を巡る問題で、“司法の判断には介入できない“としてきた韓国政府が19日、「日韓の企業が拠出する財源で元徴用工らに補償する」という新たな案を日本政府に提示した。しかし菅官房長官は「韓国の国際法違反の状態を是正することにならず、この問題の解決策にはならないと考えている。韓国の要求提案は全く受け入れられない」、河野太郎外務大臣も「この提案は受け入れられない」と拒否。韓国の金報道官は「韓国政府は最高裁の判決を尊重し、被害者の苦痛を癒し、未来志向の日韓関係の必要性を考え、この問題を慎重に扱っている」と訴えた。

 これまで日本政府は1965年の日韓請求権協定で徴用工の補償などの問題は解決済みだというスタンスを取っており、韓国の最高裁判決に基づき原告側が日本企業の資産を現金化する手続きに入ったことを受け、先月には仲裁委員会設置のための必要な委員を任命するよう韓国側に求めていた。しかし、期限の18日を過ぎても韓国側からの回答はなく、28日から行われるG20での日韓首脳会談も見送る流れになっていた。そこで韓国側は19日になり、この新たな提案を受け入れれば協議に応じると逆提案をしてきたのだ。

 ネット上では「今の韓国政府は常軌を逸している」「図々しいにも程がある! 韓国政府に払った金で保障すれば済む話」「お金を個人に払わず、インフラにまわしたのは自分たちの選択だよね!」「国交断絶でいいんじゃない」など、韓国側の対応を非難する声が多数あがっている。

今回の提案について、恵泉女学園大学の李泳采教授は「司法の判断は尊重せざるを得ないという立場で一貫していた韓国政府だが、被害者による裁判がさらに増えていく可能性もあり、立場を示す必要があるのではないかと言われてきた。去年10月の判決から7か月が経ち、苦悩の様子も見えるが、それなりに現実的だと思われる提案を出したと思う」と話す。

 「例えば判決の出た新日鉄と三菱以外の企業でも被害者はいるが、まずは2つの企業の被害者だけを救済するとしているし、日本政府の責任なのか、企業の責任なのかという点については企業の問題だということを示した。さらに日本企業だけでなく、韓国企業も一緒に基金を作るという言い方をしている。お金に関しても、歴史問題とは別に、個人に対する慰謝料という言い方をしている。今まで日本側が要求してきた、あるいは日本側が受け入れやすいような案にしていることは確かだ。被害者の中には“まず謝罪をして欲しい“とか、“再発防止のため歴史教科書に載せてほしい“といった要求も当然出ているし、韓国社会の中には“他の膨大な被害者はどうするのか“といった反発もある。しかしそうした意見は受け入れなかった。判決の出た被害者は高齢者で、2企業の株をお金に換える準備も出てきているので、なんとか救済のために日韓政府で知恵を絞ろうというような判断だ。選挙も控えている日本としては議論の時間が必要だろうし、簡単に“これで良い“とは言えないと思う。仲裁委員会や国際司法裁判所で議論する過程も必要だと思う。しかし、まずは日韓で協議をする必要がある。しかし日本企業から見れば、金額として1人1000万円くらい。韓国企業も出すので500万くらいになる。今後、韓国やグローバルで営業をしないといけない中、戦犯企業とレッテルを貼られていれば身動きが取れない。今後の様々な利益を考えると、日本政府も検討しないといけない。長期的に見れば受け入れやすい案であることは確かだ」。

 また、「65年の日韓条約は、戦争被害を受けた者の外交権を代弁して、国と国同士で解決していく、というものだった。しかし日本政府も80年代半ばまでは個人の請求権を抹消することはできないんだという立場だった。今回の件に関しても個人請求権は生きているということにはなっている。また、65年に韓国政府が代弁したのは、日本企業による未払の給料に関するものだった。しかし今回の問題は、労働環境の中で精神の病気になってしまったり、トラウマになってしまって、寝たきり状態になってしまったといったことに対するもの。慰謝料請求の裁判のときも、それが65年の条約の中には含まれていなかったという解釈が当事者や日本の弁護士グループにもそれがあった。しかし日本の裁判では全て解決済みだとして棄却されてしまっていた。それは韓国でも同様だったが、ようやく最高裁で認められた。個人個人に対する企業の賠償の問題は中国と日本企業の中にもあったが、これらは認められている」と指摘。「日本と単純に比較するのは難しいが、ドイツは戦後処理の中でハンガリーや旧ソビエトなど、約10か国以上の約170万人に個人的な補償をしている。アメリカの場合も、20万近くの日系人たちを抑留したことについて、レーガン大統領、ブッシュ大統領が謝罪をした事例がある。日本も歴史に対して向き合うということを、曖昧にしてきてしまったため、こうしてまた話が戻ってきてしまう。当事者たちの最期が近づいている中、これほど成熟した国がその要求を無視していいのか。個人の人生、人間の安全保障という感覚から考えて、最後にもう一歩進むべきなのか。まさに日韓の市民社会のあり方が問われている」と訴えた。

 一方、元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川惠司氏は「今回の提案は、基本線としては前から言っていることだなと思うし、やはり日本側としては条約で決まったものをまたやるということは、条約の有効性そのものがなくなってしまうのではないか、国際関係が無茶苦茶になってしまうではないか、というもの。これは当然だと思う。韓国が結んでいる条約について、相手国の裁判所が無効だと言ったら、無効にしてしまうのか。そういう問題だと思う。基本的には条約は守っていくべきだし、韓国国内問題として、韓国政府が対応すべきことだ」と話す。

 「1965年の条約は包括的で完全かつ最終的に解決したと言っているわけだがら、それは当然個人のことも含めているただ、李先生のおっしゃることも確かで、日本の外務省も一時期は個人請求権を認めるという立場だった。でも逆の立場で見れば、日本人が朝鮮半島に残してきた膨大な財産について請求したら、韓国は払わないといけないということ。そういうことがあるから、ある意味で両国が握って、一段落着けたということ。また、膨大な数の被害者というが、既にない企業もたくさんある。それらについてはどうするのかという問題も出てくるはずだ。日本はドイツやアメリカのように強制収容所を作ったわけでもないし、レベルがちょっと違う。それを韓国の世論は一緒くたにしているし、自分たちと日韓の歴史や事実関係を調べていかないと、にっちもさっちもいかない」。

 その上で前川氏は「結局、日韓関係の最後はお金の問題になってくる。また、日韓関係を見ていると、今回の問題も慰安婦の問題も、みな発信源は日本。日本の運動家が韓国の被害者を探し出し、裁判やデモをするといったスタイル。決して韓国国内で声が上がって始まった運動ではない。今になって、なぜ文在寅大統領がこういう球を投げてきたのか。それは南北関係、米朝関係頼りだった文在寅政権の問題がある。習近平氏は韓国に来ないで北朝鮮に行ってしまったし、金正恩氏も会ってくれないということで、政権に求心力がなくなりつつある。これを取り戻すために、日本に対してこういう球を投げたということだ。だから文在寅大統領としては、今度のG20で安倍総理とは会わない方がいい。その方が“日本は冷たい“という批判ができるからだ。一方、日本は外交交渉が非常に下手だ。韓国の提案はそういうビーンボールみたいなものだから、すぐに答える必要はないし、むしろ2、3日放っておいて焦らすとか、ちょっとコツンと打ってファールにして転がせばいい。そういう外交が日本はできない」とも話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190621-00010017-abema-kr&p=2


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