韓国の文在寅大統領は8日、日本の輸出規制についてまたも糾弾した。「結局、日本は国際社会で信頼を失い、日本企業も需要を失い被害をこうむることになる。日本は不当な輸出規制措置を1日も早く撤回するべきだ」と、輸出規制は徴用工問題の報復だとして、日本を非難する姿勢を崩さない韓国。

 一方、日本政府は輸出規制を行っている3品目の中の1品目について、規制強化後初めて韓国へ輸出許可を出したことを明らかにした。世耕経済産業大臣は「厳正な審査を経て、安全保障上懸念がない取引であると確認できた最初の案件について、すでに輸出許可を付与している」と説明。つまり、日本の輸出規制は徴用工の報復ではなく、軍事転用可能な製品や技術の審査を安全保障上の観点から行っているという姿勢を改めて示した。

そんな中、北朝鮮がこの2週間あまりで数度のミサイルを発射。再三にわたり「米韓軍事演習の中止」を求めているにも関わらず、韓国は5日から予定通り米韓合同軍事演習を実施した。さらに7日、韓国は在韓米軍の駐留費増額でアメリカと合意したとトランプ大統領が発言した。

 文大統領といえば、南北融和を掲げ3度に渡る南北首脳会談で金委員長と親交を深めてきたはずだった。5日の会見でも「南北がともに努力していく時、非核化とともに歩む。韓半島の平和とその土台の上に共存共栄を成し遂げることができるだろう」と述べている。

韓国国内では、日本製品の不買運動や日本関連のイベントの中止が続く。さらに、ソウル近郊の京畿道では、議会が一部の日本製品に「戦犯企業」ステッカーを貼る条例案を提出する動きがある。ソウル市内の観光客も行きかう繁華街には「日本製品不買」「日本旅行中止」の旗が掲げられたが、わずか6時間ほどで撤去された。撤去の理由は市民からの反発。大統領府が運用するサイトには撤去を求める声がおよそ2万件寄せられたという。韓国政府と国民の間に一部ズレが生じているのだろうか。

 文大統領は今後どこへ向かうのか。8日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、上武大学教授で経済学者の田中秀臣氏とジャーナリストの崔碩栄(チェ・ソギョン)氏とともに議論した。

■不買運動、人的交流の中断による影響は
 日韓関係悪化により懸念される、「不買・ボイコット」「人的交流の中断」「芸能」の経済損失。すでに影響は出ているのだろうか。

 不買運動やボイコットについて、崔氏は「日本と韓国のマスコミが“損する人、得する人”とフォーカスを当てて、例えば日本のビールや文房具、車メーカーなどの売上が落ちるだろうと。そして、韓国でそれを売っている店やスーパーの売上も落ちるということが中心になっているが、私が思うに一番損するのは韓国の消費者だ。韓国の消費者が日本の文房具や電化製品を買うのは、日本が好きだからではなく“この品質でこの値段ならこれがいい”という合理的な判断だと思う。しかし、今はマスコミが煽ったような雰囲気で、社会的な同調圧力によって日本製品の購入を控えるとなっている。ということは、消費者は合理的な判断でものが買えなくなり、それより品質は落ちるが安いもの、もしくはもっと高いものを買うことになるので、結局一番損するのは韓国の消費者」との見方を示す。

一方、人的交流の中断について田中氏は「短期的には韓国政府の頭に血が上っていると思ってしまうが、長期的には心配していない。むしろ、韓国国内の経済を立て直した方が良いと思う。韓国の人たちの生活水準を上げて、豊かになって日本にまた来てもらうということを期待している。日韓は同じ自由貿易体制を担っているので、仲がいい方がwin-win。安全保障の国際レジームに韓国も日本と同時に入っていて、それを破壊することは韓国にとっては自殺行為なので絶対あり得ないと思う」と指摘した。

 また、崔氏は日本で働く韓国人に影響が出てくるのではとし、「韓国では海外で就職を目指す人が結構いる。その中で日本も人気がある方で、日本語の堪能な優秀な人たちが日本で就職先を探すということはある。報道にあるような不買運動などは、日本で仕事を探す韓国人の若者にとってはすごく迷惑。例えば、会社の備品購入の担当者だとしたら、『あの人は合理的に考えるのではなく、何か問題があると国や原産地で選ぶのでは』と見られる。そういう意味では、日本で仕事をしている韓国人たちは肩身の狭い思いをすると思う」と危惧。

 では、芸能面で何か影響は出ているのだろうか。田中氏は「韓国に行っている日本のアイドルたちがバッシングを受けることを心配している。ネットなどではそれを匂わす情報があるが、今のところは表面化していない。やはり政治と文化は密接な部分があって、一歩間違うと文化も政治の問題になる。BTS(防弾少年団)も、Tシャツの柄が原爆の“キノコ雲”だとして問題になった。韓国にいる日本のアイドルが『日本の製品がいい』とか、日本製だと知らずに『これ愛用しています』と言った時に叩かれないか」との懸念を示した。

■文政権の外交姿勢に“ブレ”?
 日韓関係が悪化した現在の状況は、文政権の暴走のようにも捉えられる。一方で、政権の支持率は5割を超えており、崔氏は「韓国の大統領は『日本に負けない』という宣言をした。韓国人は『韓国が日本にいじめられている』というイメージを持っている人がほとんど。韓国がいじめられて“かわいそうな存在”になると、同情を得てそれが支持になる。つまり、被害者になると支持を得る」と説明する。

 崔氏によると、文政権に批判的な保守メディアも、日本と対峙する時は文政権を支持するという。また、韓国政権に関する話題として、「与党の研究所で作った報告書が流出した。韓国では来年の4月に総選挙があるが、報告書の内容がびっくりするもので『日本との緊張状態もしくは対決する状況が続けば、来年の総選挙には与党が有利になる』と。これに野党が『日本との緊張関係を作ったのはわざとなのか。来年の選挙のためなのか』と反発した。あくまでも疑惑だが、そういう疑惑が起きても仕方がない内容だった。つまり、今の政権にとって日本に強い姿勢を見せることが国民にはアピールになる」と明かした。

 文政権の外交姿勢には一貫性がないとの見方もある。北朝鮮に対しては「南北の経済協力」を強調しつつも、北朝鮮が中止を求める米韓合同軍事演習を続行。またアメリカに対しては、在韓米軍の駐留経費の増額で合意したとし、高官が「GSOMIA(日韓秘密軍事情報保護協定)」の解消を示唆するなどしている。

文政権の“ブレ”に崔氏は「アメリカとの友好関係は維持したいという考えはあると思う。それは好きだからではなく、北朝鮮の経済制裁のキーを持っているから。仲が悪くなると、アメリカの北朝鮮に対する政策にも悪影響が出るので、今まで通りの関係は維持したい。仲裁している立場としては両方との関係が良くないと駄目。アメリカから武器を買うとなると、北朝鮮は非難したり警戒したり『戦争の準備をしているのか』という話になるが、これは北朝鮮ファーストの行動で、文大統領の中では矛盾していない。アメリカが好きだから武器を買うのではなく、米朝の関係を考えた上でアメリカとの友好関係を維持しようという意図だと思う」との見解を示した。

 一方、田中氏は「文大統領の北朝鮮愛は強いが、北朝鮮は文政権を重要視していない。文大統領が考えているような、北朝鮮と韓国の連邦制のような統一といった枠組みは断固拒否だろう。やるならせいぜい、従来型の経済特区のように部分的な規制緩和をして、貿易を中心に盛り上げていこうという程度の限定的な狙い。あとは国家の安全保障として『アメリカも北朝鮮の体制を認めてくれ』ということで韓国を利用しようというところ」と韓国の片想いに近いと指摘。

 崔氏は「文大統領が本当に北朝鮮のことを考えているのか、金正恩政権のことを考えているのかは疑問だ。例えば、北朝鮮の平壌に文大統領が行った時、大きいスタジアムでマスゲームなどをやる。それは北朝鮮からの脱北者の話によると『家にも帰れない。水も飲めない』とすごく苦労するそうだ。結局、国民を動員して苦しめているが、それを見て『感動しました』というようなことを言った。それは本当に北朝鮮の人権などを考えている大統領の発言なのか」と疑問を呈した。

■南北統一は「漠然とした希望」
 南北統一について、韓国と北朝鮮はどのように捉えているのだろうか。

 韓国国民の立場について、崔氏は「具体的には考えていなく、夢みたいに『そうなればいいな』という程度だろう。私が学生の時代は反共産主義教育だったので統一に反感が多かったが、今の教育内容は『北朝鮮とは同じ民族なので仲良くしましょう』みたいなものが多い。しかし、実際の北朝鮮政策での支持率などでは、若い世代はあまり北朝鮮を好きとは言えない雰囲気。なぜかというと、今の10代後半~20代は就職ができなくて、北朝鮮のことを考えている余裕がないから。政府に対しては、まず自分たちのことを何とかして欲しいとの思いが強いと思う」との見方を示す。

 また、田中氏は「若年失業率が2桁近い水準で高止まりしている。文政権の財政金融政策は手詰まりで、世界中で各国が金融緩和競争をやり始めているが、韓国がそれをやるとキャピタルフライトといって資金が国外に逃げてしまうことを恐れているので、なかなか大胆な金融緩和ができない。一方で財政政策も限界がきている。例えば、最低賃金の保証や公務員の給料を上げるといった政策がすべて裏目に出た。むしろ、新しく労働市場に入る若者の権利を逆に奪ってしまって、それが若年失業率の高止まりにつながる悪循環になっている」と指摘した。

では、北朝鮮側はどのように捉えているのか。崔氏は「それも漠然とした希望だと思う。北朝鮮の情報は脱北者からの情報しかないので、統一したいといった希望自体あまり聞かない」とし、「(南北で)同じ民族であることは間違いないが、60年くらい離れていて、ほとんど情報交流がない状態で同じ民族というイメージがない。中国や日本、アメリカとは少なくとも友だちができることもあるが、(北朝鮮とは)時代が違って話ができないような存在だ」と述べた。

 直近、北朝鮮は短距離ミサイルを数度発射するなど活発な動きを見せているが、韓国国内では「びっくりするほど皆気にしていない」という。「平和ボケしているところもあるが、マスコミも大きく報じていない。どちらかというと今話題になっているのは不買運動など日本との関係。(ミサイルの内容も)報じてはいるが、報道の時間を見ると、日本に関する報道の方が長い」と崔氏。

 田中氏は「世界経済の減速がより明らかになってくるのが秋口くらい。そこで韓国経済の減速がより鮮明になってくると、それを打ち消す形で日本叩きがよりクローズアップされる可能性が出てくる。一説では8月15日がピークのように思われているが、僕は秋から冬が重要だと思う」と警鐘を鳴らした。
(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190810-00010008-abema-kr&p=4


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