日本で、外国人労働者の受け入れ拡大が4月から始まった。新たな在留資格「特定技能」が創設され、単純労働への就労者が増えることになる。お隣の国、韓国では先行して外国人労働者を積極的に受け入れてきた。2004年に導入された「雇用許可制」では、政府の直接関与で悪質なブローカーを排除し、外国人労働者の待遇改善で成果もあった。一方、雇用主によっては劣悪な労働条件も残り、失踪者も多くいるという。韓国の外国人労働者の現状を追った。(文・写真:澤田晃宏/Yahoo!ニュース 特集編集部)

妹は9200ドル払って日本に行った
ソウル中心部からバスに乗って約1時間。ソウルの南方約50キロに位置する華城(ファソン)市に入る。高層ビルが立ち並ぶソウル市内とは風景が一変し、コンビニやコーヒーショップさえ見当たらない。代わりに目に入るのが、食料品店やレストランの看板に書かれた東南アジアの国々の国旗だ。華城市には自動車や電子部品などの工場が林立し、多くの外国人が勤める。週末になると周辺で働く外国人労働者が市の中心部に集まってくるという。

そんな町の一角にあるベトナム料理専門のレストランで、ベトナム北中部クアンビン省出身のレ・コン・ルックさん(26)に出会った。ルックさんは2018年12月から華城市内の自動車部品工場で働いている。ルックさんが渡航を考えた時期は、技能実習生として日本に来るベトナム人も多かった。日本で働くことは考えなかったのか。ルックさんはこう話した。

「日本は手数料が高いし、給料も安い。妹は9200ドル(約100万円)の手数料を払って日本に行きましたが、ほとんど貯金はできない。日本にいる妹を韓国に呼びたい」

ルックさんが韓国で働くために払った手数料は約630ドル(約7万円)だという。なぜ、こんなに大きな差があるのか。移民政策に詳しい薛東勲(ソル・ドンフン)全北大学教授が解説する。

「韓国は1991年に日本の技能実習制度をモデルに『産業技術研修生制度』を導入し、単純労働分野の外国人の受け入れを始めました。しかし、研修とは名ばかりで、実態は『労働者』でした。人権侵害や悪質なブローカーによる中間搾取、不法滞在者の増加が問題となり、韓国は2004年に単純労働分野の外国人を労働者として受け入れる『雇用許可制』(EPS)を導入しました。透明性が確保されているとして、国際労働機関(ILO)からも高く評価されています」
雇用許可制は、韓国政府が協定を結ぶ16カ国から、一定の枠内で外国人の非熟練労働者を受け入れる仕組みだ。製造、建設、農畜産、漁業など5業種で、ここ最近は年間5万~6万人を受け入れている。

自国民の仕事が奪われないよう、まずは韓国人を対象に求人を出し、2週間経っても採用できない場合に限って、外国人が採用できる。最低賃金など韓国国民と同等の労働関係法が適用され、退職金や賞与もある。現在、この制度で約27万5千人の外国人が働いている。

採用はすべて国と国の機関同士で行われるため、企業は海外まで行く必要はない。政府が提示した名簿から労働者を選ぶ。あっせん業者やブローカーが入り込むことはできず、ピンハネもなくなり、労働者の負担は軽くなった。

雇用許可制なら約10年働ける
ルックさんが持参した給与明細を見せてくれた。働き始めて半年のルックさんの手取り給与は約15万円だった。最低賃金に近い金額だが、納得しているという。寮と食事が無償で提供されているからだ。

日本では寮などが準備されていても、住居費として給与から天引きされるケースが多い。住居費を引いた技能実習生の手取り賃金は多くが10万円前後だろう。それと比べると、ルックさんの待遇は良い。多額の借金をして日本に行った妹と違い、借金もない。

華城市のもち工場で働くベトナム・ホーチミン出身のマイ・ティ・ゴ・ヅルさん(29)は、韓国で通算9年6カ月働いている。当初、韓国の雇用許可制の在留期間は3年だったが、段階的に延長され、現在は最大4年10カ月だ。継続して5年以上住むことが韓国の国籍取得の条件の一つになっているため、一時的な出国が求められる。ただ、条件が合えば、再び4年10カ月、最大9年8カ月働くことができるのだ。

ヅルさんはそのほぼ全期間を働いたことになる。どれだけ稼いだかを聞いてみた。

「最初の4年10カ月で稼いだお金は、家族が抱える借金の返済でなくなりました。2回目の入国後に稼いだお金でホーチミンに家を買いました。これが5000万ウォン(約500万円)くらいで、今は残り1000万ウォン(約100万円)の貯金があります」

あと数カ月働いたら「ベトナムに帰り、ホーチミンに買った家の一角で何か商売を始めようと思っている」とヅルさんは話した。

外国人がいなければ工場が止まる

華城市内に工場を持つ溶接機器メーカー「OBARA KOREA」を訪ねると、管理部のイ・ジェホン部長はこう言い切った。

「外国人労働者を、安い人件費で働く人材として考えたことはありません」

同工場には約180人が勤務し、そのうち32人が雇用許可制で働く外国人だ。工場から徒歩5分の場所にある専用寮に案内された。一つの部屋を2人で利用する。住居費は無償だという。

住居だけではなく、勤務時に社員食堂で提供される食事も無償だ。それだけではなく、休日も1日3食、実費相当で提供しているという。

なぜ、ここまで厚遇なのか。制限はあるが、雇用許可制で働く外国人には転職が認められている。雇用主の承認があれば年1回、合計3回まで転職できるのだ。有能な人材を確保するためには、それなりの待遇を雇用主は用意しなければならない。

イ部長は言う。

「寮や食事の無償提供は他社も実施しています。当社では年に2回、社内イベントを実施したり、年末には700万~800万ウォン(約70万~80万円)のボーナスを支給したりしています。本人が希望すれば、1カ月程度の長期休暇も認めています」
同社の社員食堂で出会ったミャンマー出身のイエ・リン・チョさん(31)が、「社内イベント」について教えてくれた。

「前回は2泊3日のスケジュールで南の島に行き、水上スキーなどを楽しみました。ペンションに泊まり、夜はみんなでバーベキューをしました。費用は全部、会社負担です」

給料は夜勤手当や残業代を加えれば、300万ウォン(約30万円)を超えることもあるという。住居費などは無償だから、手取りで25万円以上ある。ボーナスを加えれば、年収400万円を超える。日本の技能実習生では考えられない額だ。イ部長が話すように「安い人件費で働く人材」ではない。

これだけの待遇を準備すれば、韓国人でも働きたいという人が出てくるのではないか。しかし、イ部長はこう話すのだ。

「外国人が担当するのは、金属を溶かして鋳型に流し込む作業です。夜勤もあり、危険も伴う作業です。韓国人からの応募はないに等しく、仮にあったとしても、すぐに辞めていきます。外国人は残業があっても、むしろ喜んで働いてくれます」

カメラの精密部品などを製造する協診正孔(ヒョプジンジョンゴン)では、9人の外国人が働く。同社にも専用寮があり、食事も無償提供している。給料も残業代を含め、300万ウォン(約30万円)程度と待遇はいい。ソ・ガブス社長はこう話す。

「韓国人もハングリー精神がなくなったのか、夜勤でも頑張って稼ぎたいという人がいない。外国人がいなければ、工場が止まってしまいます」

移民労組は「雇用許可制反対」

ただ、雇用許可制で働く外国人が皆、このような待遇で働いているわけでもない。

新元号・令和が始まった5月1日。メーデー(労働者の日)だったこの日、ソウル市庁周辺を街頭行進する労働組合の人々のなかに、移住労働者労働組合の組合員たちの姿があった。現在、雇用許可制で働く外国人を中心に、組合員は約500人。彼らが持つプラカードにはこう書かれていた。

「Abolish EPS! Achieve work permit system!」 (雇用許可制を廃止し、労働許可制を!)

「Free Job Change!」(転職の自由を)

なぜ、雇用許可制に反対なのか。記者が訪問した会社の話をすると、ネパール出身で、移住労働者労働組合・委員長のウダヤ・ライさん(42)はこう説明した。

「取材に対応するような『いい会社』は全体の2割程度でしょう。雇用許可制の外国人労働者を受け入れる大半の会社は従業員数30人に満たない小さな会社で、まだまだ劣悪な環境にあります。もし、雇用許可制が素晴らしい制度なら、失踪者も出ません」

韓国の不法滞在者の数は約35万5千人。査証免除や観光ビザで入国して違法に滞在するケースが多いと見られるが、雇用許可制で入国した外国人も、年間約9500人(2018年)が新しく不法滞在者になっている。

失踪せざるを得ない環境であれば、転職をすればいいのではないか。ライさんは「雇用許可制が当初の姿から変わってきている」と話す。

「特に李明博政権時に、労働契約が単年ではなく、最長3年になり、雇用主の立場が強くなりました。転職には雇用主の許可が必要で、認められなければ、黙って働くか、失踪するしかありません。1年であれば劣悪な環境でも我慢して、転職に望みをつなぐことができましたが、3年となると難しい。3年後に雇用延長できるのも、元いた会社に限られるため、長く働きたい外国人は自分の意見を言いづらいのです」

仮に雇用主が転職を認めても、以前は国の機関である雇用福祉プラスセンターが転職先を10社程度紹介してくれたが、現在は1社ずつだという。雇用主もそれを知っているから、強気になる。外国人は3カ月以内に仕事が見つなければ、帰国しなければならない。複数社の面接を受ける時間はなく、実質、選択肢はないという。

「失踪する外国人が後を絶たない」
外国人労働者を支援する仕組みはないのか。韓国政府は全国35カ所(委託含む)に労働相談や語学教育などを実施する外国人労働者支援センターを設置している。そのうちの一つ、議政府(ウィジョンブ)外国人労働者支援センターに足を運んだ。

年間の予算は7億ウォン(約7千万円)。16カ国に対応する相談員が配置され、外国人労働者の職場での暴行や転職希望などの相談に乗っている。

週に約350人からの相談があるという。相談チーム長のリュ・ジホさんによると、相談全体の約6割は給料の遅配や過少支払い、退職金の不払いなどのお金に関する相談だ。次に多いのが、転職を希望しても雇用主が応じてくれないなど、転職に関する相談。それが全体の約3割を占める。

その他、暴力や暴言などのトラブルもある。トラブルを起こす企業には、決まった特徴があるとジホさんは話す。

「社員が10人以下の個人商店のような会社です。農林や畜産など、労働法をきちんと守らないケースが多い。労働者が転職を願い出てもそれに応じず、そのため、失踪する外国人が後を絶たないのです」

「これ以上、外国人を雇用できない」
産業研修生時代から外国人を採用する安山(アンザン)市内のプラスチック工場を訪ねた。匿名を条件に経営者が取材に応じた。外国人労働者の給与明細を記者に示しながら、こう話した。

「雇用許可制は100%間違っている。韓国人と同等の待遇にしなければならないとするが、言葉も話せず、仕事も一人前ではない労働者となぜ同等なのか」

給与明細に記された外国人の月額給料は300万ウォン(約30万円)近い。専用寮を準備し、食事も無償で提供しているという。

「製造業は3年でようやく一人前。それまでは投資。韓国人はそこから何十年と働き、会社に利益を出してくれる。外国人はこれまで雇用許可制で100人以上受け入れてきたが、4年10カ月で帰国し、再び延長して働きたいという人はいない。最低賃金が急激に上がっており、これ以上、外国人を雇用できない」

日本でも4月から非熟練労働者を受け入れる在留資格「特定技能」を新設し、受け入れが始まっている。韓国の雇用許可制に学ぶべく、先出の薛東勲(ソル・ドンフン)全北大教授のもとには、多数の日本政府関係者も訪れた。

ソル教授は「雇用許可制は雇用主に優しい制度に変わってきている」と韓国の課題を指摘し、日本の新制度に注目する。

「韓国では永住権を認める制度はあるが、試験に合格できるのは年間300人程度。実質不可能に近い。一方で、家族の帯同を認めた日本の特定技能2号は、海外で働きたい外国人にとって、大きな魅力になるでしょう。国家間で人材獲得競争が起こるなか、韓国の雇用許可制にもいい影響を与えるかもしれません」

※本稿では1ドル=110円、1ウォン=0.1円、1ドン=0.005円としています

ここに引用文が入ります。

https://news.yahoo.co.jp/feature/1423


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