日本では2019年4月25日に1ドル=112円40銭をつけた後、円高方向に進んでいる一方、韓国では対円、対米ドル相場でウォン安が進んでいます。一時約2年8カ月ぶりの1ドル=1200ウォン台をつけました。


 円とウォンで見ても、現在は100円=1100ウォン前後と、100円=1000ウォン台から明らかにウォン安が進んでいます。韓国を訪れる日本の旅行者にとってはウォン安のメリットは受けられそうですが、金融市場にとってはむしろ、大きなデメリットとなってしまう可能性があります。

 なぜ、一段の韓国ウォン安が世界経済の不安定度を高めてしまう可能性があるのでしょうか? 今回は、ウォン安になった時に市場でよく言われる韓国の短期の対外債務や外貨準備高による信用不安云々の話ではなく、貿易分野での対外政策の視点から見ていきたいと思います。

■世界各地での「異常事態」が「常態化」? 

 8月から9月に入り、世界では異常とも言える事態が頻発しています。香港では「逃亡犯条例改正案」をきっかけとするデモが過激化し、8月31日には、当局が集会とデモ行進の両方を認めない中で、路上で火を放ったり、政府庁舎に火炎瓶を投げつけるなどのデモ行進が発生する異常事態となりました。

 一部の香港の中高・大学生は9月2日から授業のボイコットを始めるなどデモ収束の出口が見えず、先行き不透明感も強まっていました。こうした混乱が続く中、香港政府は4日にようやく逃亡犯条例改正案の撤回を認めましたが、依然として混乱が尾を引きそうです。

 南米のアルゼンチンでは、大統領の予備選挙で予想を上回る得票率差によるマウリシオ・マクリ大統領の敗北を受け、8月12日には、株価、債券、通貨ペソがそろって暴落する「トリプル安」が発生しました。アルゼンチンを代表する株価指数であるメルバル指数は、8月9日の高値から9月3日の安値まで約48%も急落するなど異常事態となりました。

これだけではありません。アメリカでも8月14日、10年物国債の利回りが2年物国債利回りを約12年ぶりに下回る長短金利の逆転(逆イールド)が生じ、先行きの「景気後退(リセッション)」を想起させたことで、NYダウ工業株30種は800ドル以上、急落しました。また、9月1日、トランプ政権は約1100億ドル(約12兆円)相当の中国製品への追加関税を発動する一方、中国もただちに報復関税を発動し、さらに2日にはWTOに提訴するなど、米中貿易戦争が一段とエスカレートしてきました。

 その後、10月上旬に米中閣僚級貿易協議が再開する見通しとなって株価はやや持ち直しているものの、関税引き上げ合戦、通貨切り下げ競争で最終的に世界大戦に突入した1930年代を彷彿させるような異常事態となってきています。

 欧州では、8月21日のドイツ30年債入札で利回りが初のマイナス圏となるとともに、8月28日、政治的混乱の渦中にあるイタリアの10年国債までもが1%の節目を割り込み、過去最低を記録するなど「債券バブル」の様相を呈する異常事態となっています。

 また英国では議会が4日、欧州連合(EU)からの離脱延期を政府に求める法案を賛成多数で可決しました。これに反発した英ボリス・ジョンソン首相は、国民の信を問うとして総選挙を提案しましたが、離脱延期法案成立を優先したい野党の大半が解散動議に棄権し、必要な賛成が得られず英政局の混迷は当面続きそうです。

 そうした中、地理的に日本の目と鼻の先である韓国でも、8月に入り、日本政府が元徴用工問題を背景に韓国を輸出管理の優遇対象国(ホワイト国)から除外する一方、韓国側は日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄通告を行うなど、貿易、安全保障での日韓の枠組みに亀裂が入る異常事態になってきています。

 このように足元、世界のマーケットでは異常とも言える事態が相次いでいますが、もし、ここから韓国ウォン安が一段と進行すれば、どんな事態が予想されるのでしょうか。

■米中の覇権争いのさなか、韓国は何をしている? 

 筆者は、米中貿易摩擦が激化する中、ここから一段と韓国ウォン安が進めば、サムスングループなど韓国のハイテク企業がウォン安で一息つき「漁夫の利」を得ようとすることで、米ドナルド・トランプ大統領の「虎の尾」を踏み、各国を巻き込んで、貿易紛争がエスカレートする事態になる可能性を危惧しています。

大国間の覇権争いの側面が強い米中貿易摩擦において、アメリカは将来、ハイテク分野をけん引すると思われる中国国有企業に難癖をつけながら圧力をかけ、ハイテク分野でアメリカの優位性を保とうとしています。

 特にAI(人工知能)、自動運転など将来の成長分野に欠かせないと言われる「半導体」や「5G」関連の競争力維持には両国ともひときわ注意を払っているように思います。そうした米中ハイテク企業の覇権争いのさなか、足元の円高圧力は日本のハイテク企業にとって競争力を低下させる要因になる一方、ウォン安の進展は、サムスン、SKハイニクス、LGなど韓国のハイテク企業グループの輸出競争力を相対的に高めることになります。

 2018年には韓国の全輸出金額約6000億ドルのうち、半導体が概ね1267億ドルを占める(韓国貿易協会)など、韓国企業の外需依存・ハイテク依存度は高いと言えます。グローバル景気の減速下、ウォン安を背景とした韓国ハイテク企業の輸出競争力の向上や次世代の設備投資余力をもたらすことで、日米中のハイテク企業に対して競争優位を生み出す可能性もあります。さらに韓国ハイテク企業は第3国であるベトナムを活用し、米中貿易摩擦の悪影響をうまく回避しているように見えます。

具体的な事例を挙げてみましょう。

■サムスンがベトナムの輸出に大きく寄与している現実

 足元、対米輸出・貿易黒字が問題視されつつある中、ベトナムの2018年の全輸出額(約2500億ドル)のうち、約25%(約600億ドル)の輸出が韓国のハイテク企業であるサムスン・ベトナムによるものだと言われています。サムスン電子はこの数年で中国の深圳や天津工場を閉鎖するなどしながら、中国からベトナムの拠点に積極的にシフトしてきました。

 2019年に入り、ベトナムの対米輸出の伸びは拡大してきており、大統領選挙を来年に控える米トランプ大統領にとって、米国民の雇用を守り、大国としての覇権を維持することを旗印に、中国だけでなく、韓国およびベトナムとの貿易紛争をぼっ発させる可能性も捨てきれません。

 以上、見てきたようにここからさらにウォン安が進めば、韓国のハイテク企業は、アメリカの覇権を揺るがしかねない次世代のハイテク投資に一段と乗り出す恐れがある・・・・・・。これらが、トランプ大統領の逆鱗に触れ、韓国やベトナムも巻き込んだ広範囲の貿易紛争を引き起こしてしまうリスクがあるというわけです。

 こうした可能性を、今のマーケットはどこまで織り込んでいるのでしょうか? 日韓の安全保障や、韓国の文在寅大統領の側近の問題だけでなく、投資家はこういったリスクをしっかりと認識しておく必要があるでしょう。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190910-00301938-toyo-bus_all&p=3


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