経済戦争どこ吹く風
 2018年7月に勃発した米中両国による貿易戦争は両国が相互に制裁関税を発動して泥沼化しており、解決の目途は一向に立っていない。

経済戦争どこ吹く風
 2018年7月に勃発した米中両国による貿易戦争は両国が相互に制裁関税を発動して泥沼化しており、解決の目途は一向に立っていない。

 米国東部時間9月1日午前0時1分に、米国のトランプ政権は中国からの輸入品に対する制裁関税の「第4弾」を発動した。その対象は2720億ドル分の中国製品だが、2段階方式を採って、9月1日からは3243品目(1120億ドル分)の関税を、12月15日からは555品目(1600億ドル分)の関税を、各々10%から15%へ引き上げるというものだった。

 これに対し、中国政府も9月1日に米国からの輸入品に対する制裁関税「第4弾」を発動したが、その対象は米国製品750億ドル分で、米国と同様に9月1日と12月15日の2段階方式を採り、各々現行の関税率に5~10%上乗せするというものだった。

 そして、米国と中国の両国が相互に制裁関税「第4弾」を発動する9月1日を遡ること5日前の8月27日、中国・上海市で米国に本社を置く会員制倉庫型卸売・小売チェーンの「コストコ(Costco、正式名称:Costco Wholesale Corporation)」が中国における第1号店を開店したのだった。

 この上海市に開設されたコストコの中国第1号店を以下「上海コストコ」と呼ぶ。コストコの中国語名称は正式には“開市客”と言うが、別称の“好市多”と呼ぶこともあり、どちらかと言うと“好市多”の方が一般的で使用頻度が高いように感じられる。

 さて、上海コストコが開店したのは上海市の中部に位置する閔行区の朱建路235号という場所で、長寧区と閔行区にまたがる上海虹橋国際空港から北西に直線で6キロメートルの距離にあり、地図で調べると住所が近い朱建路301号には私立の「上海シンガポール国際学校(Shanghai Singapore International School)」閔行校舎がある。

 上海コストコは4階建ての建物で、1階は商品売場(面積:1.4万平方メートル)、2~4階が駐車場で自動車1100台を収容可能となっている。

 2019年8月末時点で、日本にはコストコが26店舗あるが、その中で売り場面積が最大なのは千葉県千葉市美浜区にある幕張倉庫店(1.57万平方メートル)であり、2番目は宮城県富谷市にある富谷倉庫店(1.47万平方メートル)で、3番目は福岡県糟屋郡にある久山倉庫店(1.3万平方メートル)であるので、上海コストコの売り場面積は日本でも3番目に位置する大きさである。

 上海コストコの営業時間は9:00~21:30であり、販売品目は大別して27種類、4000件の商品、コストコ会員の年会費は299元(約4485円)で、日本の4400円とほぼ同じである。

 なお、コストコへ行った経験があれば分かると思うが、コストコの食品や日用品はどれもサイズが大きく、量が半端でなく、大家族でないと消費できない程の分量がある。但し、その価格は市場価格より大幅に安く、魅力的であることは疑いのないところである。

むさぼり倒す中国人客
 一方、コストコの会員になると、「2大保証」を享受することができる。コストコの紹介文には2大保証として次のような記載がある。

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商品保証 :万一ご満足いただけない場合、商品と引き換えに、代金を全額返金します。(但し、家電製品だけは返品期限は90日間)
年会費保証:コストコのシステムやサービス内容にご満足いただけない場合、有効期限内であれば解約し年会費を全額返金します。(但し、退会から1年間は再入会不可)
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 コストコの主会員は会員カードを提示すれば非会員を2名まで同伴できるし、主会員と同じ住所に住む18歳以上の家族には家族会員として家族カードが1枚発行されるが、家族カードも非会員を2名まで同伴できるので、会員カードと家族カードを提示すれば主会員と家族会員を含めて最大6名が商品売場へ入場できる。

 なお、会員カードは世界共通で、世界に782カ所(2019年9月2日時点)あるコストコの倉庫店へ入場可能であるが、世界中の会員数は約9580万人(2018年12月14日時点)である。

 以上が上海コストコの概要であり、コストコの基礎知識だが、メディアが報じた上海コストコ騒動はこんな感じだ。

 (1)上海コストコが開店する8月27日より以前に、コストコへ年会費を納入して会員となった人数は数万人を突破していたという。開店日の8月27日は火曜日で平日であり、開店は午前9時からであるにもかかわらず、上海コストコの周囲には朝早くから長蛇の列が出来ていて、その先頭は商品売場への入場口にある電動シャッター前で今か今かと開店の時を待っていた。この日、コストコは通常9時からの開店時間を30分早めたので、時刻が8時30分になり、電動シャッターが巻き上げを開始すると、列の先頭にいた人々は我先にとシャッターとフロアーの隙間に潜り込んで商品売場へ走り込み、多くの人達がそれに続いた。

 (2)8時半の開店から40分後の9時10分頃に上海コストコへ車で到着した人によれば、その時すでに駐車場は満杯で、11時前には商品売場は人で溢れる状態となり、各所に配置された保安係は客の入場制限を行う必要性に迫られた。また、上海コストコの外側では係員が「駐車場はすでに満杯で、3時間待ちが必要です(The parking lot is full. It takes three hours to wait)」と書かれたプラカードを掲げて駐車待ちの自動車に注意を促していた。なお、当日、コストコ周辺における車の渋滞は延々3キロメートルにも及んでいたという。

 (3)開店当日に入場口の電動シャッターが動き始めると、我先にと商品売場へ走り込んだ人々の中には酒類売場へ直行した人たちがいた。上海コストコが事前に目玉商品の公告を出していたからかと思われるが、そうした人たちは1498元(約2万3000円)という市場価格の半値で売られていた飛天印のマオタイ酒(貴州省の焼酎)の争奪戦を演じ、当該マオタイ酒は開店からわずか20分間で売り切れとなった。後日、あるネットユーザーがネットに書き込んだところによれば、彼は家族6人で4時間を費やして初日に開店と同時に入場し、マオタイ酒を12本、1人1本の制限が付いていた「五糧液(四川省の焼酎)」を6本購入し、その他に雑多な食品を購入したという。彼は同日夜にマオタイ酒6本と五糧液4本を転売して合計1万3800元(約20万7000円)の利益を上げ、コストコの年会費、駐車料金、食品代金を差し引いて1万2000元(約18万円)をわずか半日で稼ぐことに成功したという。

 (4)上述した酒類以外では、米国のKitchen Aid社のスタンドミキサー(Stand Mixer)7580型を例に取ると、コストコの価格は4999元(約7万5000円)であるのに対して、ネット価格は7499元(約11万2500円)であり、たとえ販売促進価格でさえも6499元(約9万7500円)なので、その差は1500元(約2万2500円)もある。東芝のスチームオーブンレンジA7-320D型は、コストコでは3599元(約5万4000円)だが、ネットショップでは5399元(約8万1000円)であり、家電量販店の蘇寧電器が販売キャンペーンを行う時の価格でも4399元(約6万6000円)である。フィリップスの75インチテレビはコストコでは1万1999元(約18万円)だが、ネットショッピングの“京東商城”が誇る主力店では1万3999元(約21万円)で、2000元(約3万円)もの差がある。

 (5)開店の午前8時30分から2時間が過ぎた頃には商品売場は客であふれて立錐の余地もない状態に陥り、買い物を終えて会計を待つ客がレジの前に延々と並び、その横にはレジに並ぶ客を誘導する係員が「レジの行列は2時間待ちです」と書かれたプラカードを掲げて客に忍耐を求めていた。しかし、商品売場の混乱に危険を感じたコストコは急きょ午後の営業を停止することを決断し、次のような通告を掲示して商品売場の外で入場を待つ人々に理解を求めた。すなわち、「尊敬する会員の皆さん、今日は。売場の通行が人の波で滞っているので、さらに良い買い物環境を提供するために、本日8月27日の午後は商品売場の営業を見合わせます。何卒入場をご遠慮ください」という内容の掲示だった。

 (6)突然の営業見合わせの通告を受けて、炎天下で長時間にわたり入場を待っていた人々の中には強引に入場しようとして保安係と衝突した人も複数いたが、コストコは午後の営業休止を強行した。商品売場が収容能力を超えた客数で危険な状態に陥っていたことが午後営業休止の理由ではあるが、それとは別にコストコ側が予想だしなかったことが発生していたことも理由の1つであった。


押し寄せる不道徳行為

その理由は9月1日付で多数のメディアによって報じられたが、次のように中国人会員の低い民度に起因するものであった。

 ・食品売場にはプラスチックの容器に入った寿司の詰め合わせや菓子のマフィンが売られていたが、悪質な客は寿司を数個つまみ食いしたり、マフィンを1口食べたりした後に、その容器を元の商品棚へ戻して知らん顔で立ち去っていた。

 ・牛乳や冷凍の鶏肉といった生鮮食品がその売場から離れた場所に多数放置されていることが判明した。購入しようと当該商品を商品棚から持ち出したが、その後に購入を止めて、近くの商品棚や床に放置していったものと考えられる。冷凍鶏肉はパッケージが破れて肉汁が流れ出ていた。生鮮食品でなければどこに放置しても大した問題にはならないが、生鮮食品である以上は品質上の問題が発生しないように客も協力すべきだが、そうした意識は全般的に低いように思えてならない。

 ・商品売場内で子供が尿意を催した親の一部は混雑している状況下でトイレへ行くことは困難と判断し、売場の各所に設置されている金属製ごみ箱の上に子供を持ち上げて小便をさせたのだった。公共の場所で子供に小便をさせることは、今なお中国国内でよく目にする光景だが、コストコの様な会員制チェーンストア内でも平然と小便をさせるという非常識さは驚きである。これは小便だったから良かったのであり、困ったことにそれが大便になる可能性も否定できないのである。

 こうした不道徳な行為はネット上に証拠写真が掲載されているので、否定できない事実だが、これらの行為が上海コストコにとっては想定外の事で面食らったであろうことは想像に難くない。
 
上海コストコ開店2日目の8月28日、コストコの駐車場は午前7時には満車となり、9時の開店待ちの客が行列を作っていた。100元(約1500円)を費やしてタクシーで到着して、早朝4時半から行列に並んでいるという人もいれば、照り付ける太陽の高温に耐えられず行列から離れる人もいた。

 この日、コストコは商品売場内の入場者数を2000人までに限定する入場制限を発表し、売場内の混乱を防止すると同時に保安係による監視を強化して不道徳行為の防止を図った。

自殺行為だったのか

8月31日付の香港紙『蘋果日報(Apple Daily)』によれば、8月30日までの時点で上海コストコの会員数は10万人を突破したという。上述したように上海コストコの年会費は299元(約4485円)なので、上海コストコは開店からわずか4日間で2990万元(約4億4850万円)の年会費を獲得したことになる。

 ところが、中国メディアによれば、開業から5日目の8月31日になると、状況が一変して上海コストコの商品売場にある退会窓口に多くの人々が行列を作り、担当係員は昼食を取る時間すらない有様だったという。

 それは、上海コストコが開店記念に特別価格で提供した、飛天印マオタイ酒や五糧液などの目玉商品が売り切れとなり、その他の商品も開店の優遇価格から通常価格(それでも他所より安価だが)に戻ったことに起因するものだった。

 退会窓口に並んだ人々に理由を尋ねたところでは、バスを乗り継ぎ、数十元のバス代を支払って上海コストコに到着したが、商品売場へ入場するのに何時間も行列し、ようやく入場したら目玉商品はすでに売り切れで、買いたい商品も見当たらず失望したという者や、コストコの商品は高価格・高品質で自身の生活レベルでは手が届かないとする者もいたのである。

 台湾コストコは1997年に第1号店を高雄市に開設してから20年以上の歴史を持ち、2019年9月2日時点の倉庫店数は13カ所に上っている。

 その台湾のネットユーザーは上海コストコが上述した「商品保証(不満足な場合は商品と引き換えに全額返金する)」を標榜することに懸念を提起し、中国人を相手にそのような商品保証を行うことは自殺行為であるとネットに書き込んだ。

 これには多くのネットユーザーが同感を表明し、「中国人が食品の大半を食べてから不満だとして返金を要求すれば、それを真似る者は次々と現れ、最後はコストコが中国人の全てを養うことになりかねないのではないか」と結論付けたのだった。

 最終的にコストコが中国人の全てを養うなどということは有り得ないが、9月1日付の全国紙『毎日経済新聞』はコストコの最高財務責任者(CFO)であるリチャード・ガランティ(Richard Galanti)とのインタビュー記事を掲載した。

 それによれば同氏はコストコが2020年末から2021年初旬頃までに上海で2番目の倉庫店を開設することを計画しているし、将来的には中国のその他の地域にも倉庫店を開設することになろうと述べたという。

 文頭に述べたように、米中貿易戦争は持久戦の様相を呈しており、打開策を暗中模索している状況で、終結の目途はおろかどのように決着するかは予想が付かない。そうした状況下の中で、米国企業として上海市に1号店を開設したコストコの決断は果たして吉と出るのか、凶と出るのか。

 その成功の可否はトランプ大統領の政策次第でどのようにも変化するが、コストコが全中国人を養うことにさえならなければ、発展の可能性は大きいように思えるのである。

北村 豊

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190913-00067114-gendaibiz-cn&p=4


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