【AFP=時事】迫害、飢饉(ききん)、内戦などから逃れた難民の大半は、一つのことを夢見ている。それは、いつの日か故郷に帰ることだ。だが、海面上昇によって何億人もが住む場所を追われると──科学者らによると、ほぼ確実に現実となる──帰れる望みはない。


地政学に関わる環境問題の専門家で、ベルギー・リエージュ(Liege)にあるヒューゴ観測研究所(Hugo Observatory)の所長を務めるフランソア・ジェメン(Francois Gemenne)氏は、AFPの取材に「海面上昇に関しては、帰郷という選択肢のない人口移動になる」と語った。

 世界の海洋の水位は1900年以降で15~20センチ上昇しており、これは気候変動の直接的な影響とされる。最近まで、海水の体積が増大するのは水温上昇に伴う海水の膨張が主な原因だったが、今日では、氷河からの融解水と、特にデンマーク領グリーンランド(Greenland)および南極大陸の氷床からの融解水が主な要因となっている。

 22日に発表された国連(UN)の報告書によると、海面の上昇速度も加速しており、この10年で過去100年間の3倍近くに増大しているという。

 2100年までに海洋がどれほど高く上昇するかは、主に地球温暖化がどのくらい進行するかによって決まる。

 AFPが確認した国連「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」報告書の草案によると、人類が世界の気温上昇幅を産業革命前の水準から2度未満に抑えても、海水面は約50センチ上昇するという。地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定(Paris Agreement)」では、気温上昇2度未満を要となる目標に掲げている。

 温室効果ガス排出を抑制する取り組みが不十分で気温が3~4度上昇すると、海面の上昇幅は1メートル近くに達する可能性が高い。これほどの海面上昇が起こると、沿岸部の多くの巨大都市では大規模破壊が発生するとともに、多くの島国が居住に適さない状態になる。

■海岸線に位置する都市の大半は消失
 さらに、氷床は今後数百年にわたって質量を失い続けるため、将来的には、この何倍もの悲惨な影響がもたらされると、科学者らは警告する。

 IPCC報告書の草案によると、22世紀には海面上昇速度が現在の年間3.6ミリから年間数十センチにまで100倍も急加速する可能性が高いという。

 米気候研究機関クライメート・セントラル(Climate Central)の最高経営責任者(CEO)と主任研究員を務めるベン・ストラウス(Ben Strauss)氏が主導した研究によると、たとえ気温の上昇幅を2度に抑えても、最終的には2億8000万人が現在居住している地域を水没させるほどの海面上昇が起こるのは避けられないという。

 壊滅的な被害が起きる可能性──今日すでに明白に表れているが──は主に熱帯暴風雨の急増によってもたらされる。

「2度の温度上昇は、結果として4.5メートル以上、おそらく6メートルの海面上昇につながる」と、ストラウス氏はAFPの取材に語った。

「現在の世界各地の海岸線に位置する都市の大半を消失させるには、これで十分だ」

 IPCCの報告書に情報を提供しているストラウス氏は、現在沿岸に位置する多数の主要都市で、気温が2度上昇することで最終的に水没する地域に都市人口の何%が居住しているかを推定した。

■どの区域は犠牲にしていいか、場所のトリアージが必要に
「比較的小規模の集団が移住するだけで政情不安が引き起こされている現状を考えてみてほしい」と、ストラウス氏。「将来は、海が陸地を浸食しているという理由で何千万もの人々が移動することになると考えると、ぞっとする」 

 2度の気温上昇によって、人口500万人以上で最終的に現人口の20%以上が住む家を追われるとして挙げられている都市は、例えば以下のような所だ。バングラデシュのボリシャル(Barisal、38%。以下、現人口における割合)とチッタゴン(Chittagong、42%)、中国の香港(31%)、淮安(Huaian、42%)、江門(Jiangmen、55%)、南通(Nantong、72%)、台州(Taizhou、67%)、インドのコルカタ(Calcutta、24%)とムンバイ(Mumbai、27%)、日本の名古屋(27%)と大阪(26%)、ベトナムのハノイ(Hanoi、28%)とホーチミン(Ho Chi Minh City、45%)、ナイジェリアのラゴス(Lagos、23%)、フィリピンのマニラ(Manila、26%)、タイのバンコク(Bangkok、42%)。

 ヒューゴ観測研究所のジェメン氏は、「国や自治体は、どの区域を堤防や土手で保護するのか、どの区域は犠牲にしてもいいのか、トリアージ(優先順位)を決めなければならなくなる」と話した。

ここに引用文が入ります。


PDF