【ソウル=桜井紀雄】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の最側近、チョ・グク法相の疑惑に揺れる政局の風向きが変わりつつある。検察に警告した文氏の発言に呼応し、検察を糾弾する数十万人規模のデモが発生。文政権と与党はこれを盾に勢いを取り戻しつつある。それに対抗して3日にはソウル中心部で文氏退陣を求める数十万規模のデモが行われるなど、国論の二分が鮮明になった。

 最高検は1日、ソウル中央地検など3カ所を除く各地検の特捜部を廃止するといった組織改革案を発表した。9月30日にチョ氏から検察改革に関する報告を受けた文氏が「検事総長に指示する。国民から信頼される権力機関になる案を早急にまとめてほしい」と注文したことを受けた対応だ。

 文氏は「検察改革を求める国民の声が非常に多い」とも指摘。尹錫悦(ユン・ソクヨル)総長率いる検察は、わずか1日で対案を提出し、文氏に“恭順の意”を示した。チョ氏の妻への3日の聴取でも報道陣の目を避けて出頭させるなど、配慮を見せた。

 文氏や政権側が「国民の声」というのは9月28日のデモが念頭にある。チョ一家への捜査がやりすぎだとの批判を受け、検察に「節制」を求めた文氏の発言が27日に発表されたこともあり、文氏支持層がソウル中央地検周辺に集結。「チョ・グク守護」と検察糾弾を訴えた。主催者発表の200万人は誇張とみられるが、2016年に朴槿恵(パク・クネ)前大統領の退陣を求めたデモ以来の規模となり、文氏支持層の結束力を見せつけた。

 朴被告を捜査した当時、尹氏を英雄視した文支持層が、今度は尹氏の罷免を叫ぶ皮肉な状況を生んだ。

 デモを主導した「検察改革司法積弊清算汎国民市民連帯」は当初、日本の輸出管理厳格化に抗議して結成された組織だ。複数の韓国紙によると、文氏支持層を中心に、日本とのけんかは引き受けるという意味で「闘犬国民運動本部」と名乗り、日本製品の不買や「NO 安倍」を訴えてきたが、チョ氏の疑惑が拡大すると、同連帯を称してチョ氏擁護デモにくら替えした。

 8月末には、日本大使館前でチョ氏支持を叫ぶデモが行われるという不思議な光景も現れた。チョ氏はネットで反日的な書き込みを繰り返したこともあり、反日デとは親和性があったようだ。ただ、反日デモを主導していたメンバーがチョ氏擁護に忙殺される中、反日デモは下火になっている。

 一方、チョ氏支持派の巻き返しに危機感を抱いた高齢の保守層を中心にした数十万人が、祝日だった3日にソウル中心部に結集し、チョ氏の辞任や文氏の退陣を求めるデモを展開。文氏によるチョ氏の法相任命強行と疑惑をめぐる捜査は、韓国社会の根深いイデオロギー対立に拍車を掛けている。


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