「誰なのこのおじさん! キモい!」
「新興宗教!? ヤバすぎでしょ!」
古田新太大島美幸に似てるかも!」
「今年のハロウィン仮装ぶっ飛びナンバーワン!」

ハロウィン直前の日曜となった10月26日の夜7時、東京・渋谷駅ハチ公像前──。50~60人の謎の集団が、いきなり習近平・中国国家主席のお面をつけて出現。あまりにシュールな光景に一帯が騒然にとなった。

今日は渋谷で「光復香港」

突如、渋谷に降臨した大勢の“習近平たち”。

彼らは忠犬ハチ公像を囲み、思い思いのポーズで集合写真撮影に興じた。その姿にギョッとしながら、通りがかりの市民が足を止めては彼らの異形をスマートフォンのカメラで収めていく。ただ悲しいことに、ほとんどの若者はお面の人物が誰なのか知らないようだ。やがて“習近平たち”は隊伍を組み、群衆に揉まれながらスクランブル交差点を駆け足で何度も横断するフラッシュモブを繰り広げた。
一行の目印となったのは、空にたなびく「光復香港、時代革命(取り戻せ香港を、今こそ革命を)」の旗だ。そして彼らを先導するのは、ヘルメットやガスマスクで完全武装した若者たち。その姿は香港で連夜、警察との仁義なき戦いを繰り広げているデモの参加者そのもので、この一夜限りのパフォーマンスには、在日香港人たちが「離れていても僕らの心は香港とともにある」と呼び掛けるメッセージが籠められていた。

ちなみにホンモノの習近平国家主席は先ごろ、インドを公式訪問。10月11日にはモディ首相と連れ立って南部のタミル・ナードゥ州を訪れたが、その際、チェンナイにあるアーウィン・スクールの生徒約2000人が一斉に習近平のお面をかぶって習の訪問を歓迎したことが報じられた。
インドのお面に「言外の含み」などは無く、習近平と中国へ純粋(!?)に媚びるための演出だったようだ。とはいえ教職員に言われるがまま習のお面を装着した生徒は皆、無表情だったに違いない。何より写真からは違和感しか伝わってこない。

ハチ公像前の「習近平大集合」をしきりにスマートフォンで撮影していた宮城県出身の大学院生(25)は「インドのニュースをネットで見たばかりだから驚いた。一見、習近平愛をアピールしているようでいて素顔はさらさず、実はものすごく習を拒否しているようにも受け取れるのが深い…」と語る。

「覆面禁止法」へのアンチテーゼ

無事にパフォーマンスを終えたあと、発起人グループに属するというウィンキー・チャン(24)とロク・ウォン(30)に話を聞いた。元教師だったウォンは留学中。ウィンキーはウェブアプリケーションのエンジニアとして働いている。

「ハロウィンに合わせて香港市民にエールを送る活動をしようと誰かが思い立ったのは、1週間ほど前かな。当初はメッセージを書いたプラカードを掲げながら行進するシンプルなデモを考えていた。ただそれではカタいし、とても政治的」(ウィンキー)

「そうではなく、誰でも気軽に参加できて遊び心のあるパフォーマンスとして思い立ったのが、習近平のお面大集合だった。香港政府が10月5日に施行した、デモでマスクやゴーグルの着用を禁じた荒唐無稽な悪法『禁蒙面法(覆面禁止法)』に対するアンチテーゼの意味もある」(ロク)
といっても「習近平大集合」のパフォーマンスは、主導する組織もなければ明確なリーダーも存在しない。

ウィンキーやロクたちは、高い機密性を売りとするロシア発のチャットアプリ「テレグラム」を使って仲間を募り、何となく作業を分担しながら本番当日、ハチ公像前で初めて“リアル”に顔を合わせたという。リーダー不在のまま有志がテレグラムを介し、密に連携しつつテキパキ役割分担していく姿は、本家・香港のデモ隊とまったく同じ構図だ。

彼らによると、多くの日本在住香港人はデモに直接コミットできないもどかしさを抱えつつ、フェイクニュースの入り交じった玉石混交のネット情報に翻弄され、鬱々とした日々を過ごしている。そして「日本のメディアでは、香港情勢に関する報道の割合がどうしても低くなりがち……」という不満も抱えている。

「だからこうやって香港人同士が一体化できるイベントを行うのは、精神衛生上もいい。何より、香港人だけでなく多くの台湾人や日本人が飛び入り参加してくれて胸が熱くなった。『習近平たち』を見たことがきっかけで日本人が香港問題に関心を向けてくれれば、香港人も決して孤独ではないこと実感できる」(ウィンキー)

「日本の警察は守ってくれる」

ただ正直なところ、取材前は彼らがトラブルに巻き込まれないかどうか気掛かりだった。

香港人が海外で香港のデモを支持する集会を行えば、必ず中国人の嫌がらせが入る。日本でも8月17日、香港政府の出先機関・香港経済貿易代表部(東京都千代田区)前に数百人の在日香港人が集まり、香港警察の暴力に抗議する集会を開いた。そこに中国人40人ほどが乱入。オープンカーのスピーカーから大音量で中国国歌を流しながら香港人を痛罵し、両者は一触即発となっている。
実際、筆者がハチ公像前に戻ってウィンキーとロクに話を聞いている間も、じっとこちらを睨みつけながらジリジリにじり寄ってくる不気味な男の姿が……。不測の事態を避けるため、われわれが素早く場所を移すひと幕もあった。

「確かに、普通話(プートンフア、いわゆる北京語)で話している中国人たちが遠巻きにしていたが、恐らく観光客。特に害は無かった。ただ10月1日にこのハチ公前広場で香港人が小さな抗議集会を開いたとき、見知らぬ中国人がやって来てゴキブリを撒く嫌がらせをした。香港警察がデモ隊を『曱甴(ガザ:ゴキブリ)』呼ばわりしていることに掛けたのだろう」(ロク)

習近平大集合」のパフォーマンス中も、日本の警察官が一行に密着。「危ないからもっと旗を下げて!」「人が増えてきたから移動してくれる?」「駆け足で横断しないと危ないよ!」などとしきりに声を掛け、場が乱れぬよう一行を巧みに誘導していた。パフォーマンスを半ば強制的に終わらせたのも警察官で、リーダーと目されたウィンキーは終了後、2人の私服警官からたっぷり事情聴取を受けている。

「香港警察の容赦ない暴力が脳裏に焼き付いているせいかもしれないが、日本の警察官は我々を排除するのではなく、トラブルに遭わないよう守ってくれているようにすら感じた。一部の届け出が不十分で警察を苛立たせてしまった点だけは反省点。日本社会特有の根回しをもっとしっかりするべきだったかな」(ロク)

ウィンキーもロクも、香港の混乱が早く収束するよう願っているのは言うまでもない。だが仮に「次回」があるとすれば、より大胆で奇想天外な彼らのパフォーマンスに期待できるかもしれない

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191031-00000003-courrier-int&p=3

クーリエ・ジャポン


PDF