【激動 安全保障の危機】

 誰の目にも「北朝鮮の非核化」は絶望的であることは明らかであろう。米国の「対北朝鮮政策の失敗」の責任の大半は、ドナルド・トランプ大統領本人にある。つまり、金正恩キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に対し、異常に甘い態度を示し、政治的パフォーマンスだけの米朝首脳会談を繰り返し、在韓米軍の撤退を軽々に発言し、米韓合同演習を「挑発的で金がかかりすぎる」と放言し、次々と中止した。

 トランプ氏は、「北朝鮮の非核化が進捗(しんちょく)していない」という批判に対して、「北朝鮮はロケットを発射していないし、核実験もしていない。日本はハッピーだし、アジア全体がハッピーだ」とツイートしたが、極めて不適切だ。

 なぜならば、北朝鮮の核兵器は破棄されることなく存在し、弾道ミサイルも廃棄されず、各種の新型ミサイルの発射実験が続いているからだ。トランプ氏は、第2回の米朝首脳会談(2019年2月、ベトナム・ハノイ)以降も続く、北朝鮮の度重なる短距離ミサイルの発射(=これは明らかな国連決議違反である)を「問題ない」と認めてしまった。

安倍晋三首相は、トランプ氏に対し、「北朝鮮の短・中距離弾道ミサイルは日本の脅威である」と説得したはずだ。日本にとって北朝鮮の核ミサイルは依然として脅威であり、ハッピーな状況ではなく、最悪の状況だ。

 トランプ氏は当初、最大限の圧力による「力による平和」を朝鮮半島で実現すると公言していた。17年当時、核・ミサイルの実験を繰り返す北朝鮮に対し、「すべての手段がテーブルの上にある」と正恩氏を脅し、恐怖心を与えていた。

 それが、18年に入ると、「最大限の圧力という言葉は嫌いだ」と発言し始め、準備不十分なままに第1回の米朝首脳会談の開催(18年6月、シンガポール)を受け入れてしまった。

 その後、第2回および第3回(19年6月、板門店)の首脳会談を行ったが、首脳会談の目的が「北朝鮮の非核化」からどんどん離れていってしまった。それにもかかわらず、第4回目の首脳会談を模索しているが、北朝鮮から拒否されるという悲惨な状況だ。

 トランプ氏の対北朝鮮政策の失敗の教訓は何か。

 北朝鮮のように「力を信奉する国」に対しては、「最大限の圧力路線」が最も有効で、不用意な首脳会談などを行ってはいけないということだ。

 日本としては、北朝鮮の核・ミサイルの存在を前提とした防衛態勢を構築するしかない。その際に、米国の核の傘には依存するが、弾道ミサイル防衛の一層の充実、敵基地攻撃能力の保持などは避けては通れない。

 ■渡部悦和(わたなべ・よしかず) 元陸上自衛隊東部方面総監、元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー。1955年、愛媛県生まれ。78年、東京大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、第28普通科連隊長(函館)、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。13年退職。著書・共著に『日本の有事-国はどうする、あなたはどうする?』(ワニブックスPLUS新書)、『言ってはいけない!? 国家論』(扶桑社)など。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191129-00000003-ykf-int&pos=2

夕刊フジ


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