「4000億匹」のバッタの大群が中国に迫る…?

 「4000億匹のバッタの大群がインド・パキスタン国境から中国に迫っている」
2月19日、中国国営中央テレビが展開する国際放送局はこう報じた。

【写真】衝撃的なバッタの「大喰い」シーン…! しかも、危険マップを見ると…!

 新型コロナウイルス・パンデミックにより世界中の社会と経済が大混乱に陥る中、もう一つの危機がアフリカ大陸で発生し、中東、南アジアを超えて、中国にまで迫っている。この危機の正体は、サバクトビバッタというバッタが引き起こしている蝗害(こうがい)だ。

 蝗害とは、夥しい数のバッタが作物を食べ尽くしてしまい、人間が食糧難に陥る問題のこと。2019年6月にアフリカ東部で大量発生したサバクトビバッタは紅海とペルシャ湾を超え、イランに上陸。そのまま東へと移動し、中国付近まで到達している。

 蝗害は、人類の歴史において、度々発生が確認されており、蝗害自体はそれほど珍しいものではない。だが今回、規模が尋常でない。

 観察されている記録では、今回サバクトビバッタは1平方キロメートルあたり4,000万匹にまで繁殖し、1日で35,000人分の農作物を食い尽くしているというのだ。すでに「過去70年間」で最悪の被害に…

 国連食糧農業機関(FAO)によると、今回の蝗害は、人類史上最悪の規模にまで発展した。すでに発生源のアフリカ東部を中心に3,500万人もの人が食糧難に陥り、被害地域は今も拡大を続けている。

 
とりわけ被害が甚大なのは、東アフリカのケニア、エチオピア、ソマリア。上記のFAOの危険マップでも、危険度が最も重大な「Dangerous」になっている。エチオピアとソマリアでは、蝗害被害が過去25年間で最悪の状態。ケニアでも過去70年間で最悪の被害を及ぼしている。

 次の「Serious」ステータスにある国は、ジブチ、エリトリア、イエメン、オマーン、イラン、パキスタン。他にも、ウガンダ、南スーダン、スーダン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、イラク、アフガニスタンも「Threatened」ステータスにあり、脅威に晒されつつある。

 蝗害被害が出ている国では、政府が殺虫剤を陸上及び上空から大量に散布するという対抗手段に出ている。だが、被害国には発展途上国が多く、政府に十分な対応力やノウハウがない国も多い。

 そのため、国連食糧農業機関(FAO)には、蝗害対策専用チームが設置されており、すでに各国政府に対し、資金や殺虫剤、散布のための航空機の手配等で協力している。

中国は「10万羽のガチョウ」で迎撃…!?

 それでもサバクトビバッタは増え続けている。サバクトビバッタは、パキスタン国境から中国にも「侵攻」を開始。中国政府は3月、パキスタンとの国境付近にガチョウ10万羽を配備し、「迎撃体制」に入った。サバクトビバッタを捕食することで数を減らす算段だが、効果は未知数だ。

 サバクトビバッタは、毎日、自分の体重と同量の植物を食べる。大人になると2gにもなり、毎日2g消費する。食べるものは、米、とうもろこし、大麦、牧草、サトウキビ、綿、野菜、バナナ、雑草まで何でも食べる。食べる部位も、葉、茎、花、果実、種子、樹皮まで構わず食べてしまう。極めて雑食性が高く、大量発生すると、周囲の植物に著しいダメージが生まれる。

 蝗害は、人類史上、何度も歴史の中に登場している。中国では、サバクトビバッタの親戚に当たるトノサマバッタが蝗害の原因となり、何千年もの間、社会を食糧難に陥れてきた。イナゴよりも恐ろしいバッタの群れ

 中国語でトノサマバッタは「飛蝗」と書く、この「蝗」は日本では「いなご」と読むため、いなごが蝗害を引き起こしていると思っている人も多い。だが、実際にはイナゴは、トノサマバッタとは生物学的には異なる種で、トノサマバッタは蝗害を引き起こすが、イナゴは蝗害の原因にはならない。

 旧約聖書にもサバクトビバッタによる蝗害は登場する。「出エジプト記」によると、イスラエル人が、かつて古代エジプトで奴隷状態にあった時代、神がイスラエル人を救出するために、エジプトにもたらした十種類の災害「十の災い」をもたらしたという。その一つが「蝗(バッタ)を放つ」だ。

 ここで疑問が湧く。どうしてサバクトビバッタは、常にではなく時折、大量発生して蝗害を引き起こすのだろうか。メカニズムが謎すぎる…!

 サバクトビバッタは、通常は「おとなしい」存在だ。サバクトビバッタは砂漠地帯に、トノサマバッタは草が密集してない草原地帯で、一匹一匹が単独行動で生活している。移動距離も短い。

 成虫は卵を生み、孵化してから翅のない「ホッパー(Hopper)」と呼ばれる姿になり脱皮を複数回繰り返す。やがて「成虫(Adult)」になると翅が生えて飛べるようになる。そして交尾し卵を産み、死んでいく。こうして平和裏に一生を終える。この状態のことを生物学では「孤独相」と呼ぶ。

 だが、25mm以上の雨が約2ヶ月降り続くと繁殖しやすい状態になり群れが自然と生まれる。そしてその群れの中から、通常の緑がかった色はなく、茶色っぽい色の個体が登場してくる。この個体は「群生相」と呼ばれる厄介なやつだ。

 孤独相の個体は、互いに離れようとするのに対し、群生相の個体は、互いに近づき群れを好む。体も、翅が長く、足が短く、長距離移動が得意になり、雑食性が増し食欲も旺盛になる。

 そして、約5日おきに50~100の卵を産み、それらが一斉に群生相の状態で孵化し、また成長して50~100個の卵を産む。こうして一気に巨大な群れになっていく。

 そしてこのように生物としての特徴が一変することを「相変異」と呼ぶが、サバクトビバッタもトノサマバッタもこの相変異を持つ生物なのだ。どういうメカニズムで相変異が起こるのかはまだよくわかっていない。

風に乗って1日に100km移動することも

 生物学者は、群生相サバクトビバッタについて、翅(はね)のない「ホッパー」期の状態を「バンド(Band)」、翅の生えた「成虫」期の状態を「スワーム(Swarm)」と呼んで区別している。バンドの状態でも、1日200mから1700mも移動する。理由は定かでないが、同じ方角に進む習性がある。

 スワーム状態では、翅があるため、さらに移動距離が長くなる。日の出とともに体を地面の熱で暖めてから飛び立ち、そのまま日が暮れるまで飛び続ける。しかも風に乗って一定の方向に飛ぶ習性があり、なんと1日で100km以上移動するケースもある。

 この長距離移動を、何百万、何千万という大群が、巨大な層を形成して一斉に移動する。日暮れになると着陸し、一晩かけてそこにある植物を食べ尽くしていく。この状態が、旱魃期が到来するまでずっと続く。これが蝗害となる。

 現在パキスタンまで到達したサバクトビバッタは、今後どこまで進むのだろうか。サバクトビバッタは、高度は海抜2,000mまで上昇することが出来るが、それ以上は気温が低すぎ、上昇できないとされている。そのため、山脈地帯より先には行かないと考えられている。

 世界気象機関の資料によると、サバクトビバッタの到達限界は、「Limit of invasion area」に書かれている線になる。なので、中国大陸や日本列島には到達することはなさそうだ。

コロナと蝗害のダブルパンチで食糧危機が加速

 だからと言って安心もしていられない。蝗害被害国では現在、新型コロナウイルスと蝗害抑止の二正面作戦を強いられている。新型コロナウイルスによる外出制限で農作物の生産は減少する中、サバクトビバッタによって作物が消失していっている。

 インドは、農業大国であり、輸出もしているが、インドでの被害は世界各国の食糧サプライチェーンにも影響を与えかねない。同様に東アフリカや中東では、食糧不足が政情不安や社会不安にもつながるおそれもある。

 蝗害被害の将来については、さらに悪い知らせがある。今回、アフリカ東部で巨大な群生相が発生した背景には、気候変動も関係していると言われている。アフリカ東部では、過去5年間、産業革命以来の気温に達した。さらに2019年10月から12月まで例年の4倍もの降水量を記録し、サバクトビバッタを繁殖させるのに最適な自然環境となってしまった。

 FAOによると、対応に追われる各国から1.5億ドル(約160億円)もの支援要請があったが、各国政府や企業、財団からの資金拠出が1.1億ドル(約120億円)集まり、なんとか殺虫剤を巻き続け、食糧支援物資を送り続けることができている。

 しかしアフリカ東部では3月にも大量の雨が降り、最悪のケースでは、殺虫剤対策を続けない限り、今から20倍にも個体数が増えるという予測もある。1平方キロメートル当たりの生息数は4,000万匹だったのが、今や8,000万匹にまで増えた。インドやイランに移った群れでも、群生相の個体が続々と生まれてくる可能性もある。
 
人類はすでに、未曾有の事態が複数同時発生するという時代に突入している。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200503-00072070-gendaibiz-int&p=3

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