香港国家安全法の衝撃

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 21世紀の地球を、新型コロナウイルスという未曽有の危機が襲い、人類は丸く協力してこの危機に立ち向かうと思いきや、さにあらず。むしろウイルス禍をきっかけに、「米中2大国」の「新冷戦」に、一直線に向かいつつある――。 【写真】コロナ危機で、じつは日本が「世界で一人勝ち」する時代がきそうなワケ  今回、両国がエキサイトしている直接のきっかけは、中国が全国人民代表大会(5月22日~28日)の最終日に、「香港特別行政区の国家安全を維持する法律制度と執行メカニズムの確立・健全化に関する決定(草案)」を可決したことだった。ずいぶん長たらしい名称だが、これは国家安全法を近く香港に向けて定めるということだ。  国家安全法とは、習近平政権が2015年7月1日(奇しくも香港返還18周年記念日! )に中国国内で施行した、中国国内の安全を守るための法律である。全7章84条からなるが、例えばこんな規定が定められている。  〈(第7条)国家の安全を維持し、憲法と法律を順守し、社会主義法治の原則を堅持する。  (第11条)中国の主権と領土の完備は、侵犯と分割を許さない。国家主権の維持、統一と領土の完備は、香港・マカオの同胞及び台湾同胞を含む全中国国民の共同の義務である。  (第15条)国家は中国共産党の指導を堅持し、中国の特色ある社会主義を維持する。(中略)国家はいかなる国への謀叛、国家分裂、煽動叛乱、転覆、もしくは人民民主専制政権を煽動転覆しようとする行為をも防止、制止し、法に基づいて懲罰する。  (第77条)公民及び組織は、下記の国家の安全を維持、保護する義務を履行せねばならない。  1.憲法、法律法規の国家安全に関する規定の順守 2.国家の安全に危害を及ぼすことにつながるものの即時報告 3.国家の安全に危害を及ぼす活動の証拠を知った際の実直な提供 4.国家の安全活動に利すること、もしくはその他の協力の提供 5.国家の安全機関、公安機関及び関係する軍事機関に対する必要な支持と協力の提供 6.知り得た国家機密の保守 7.法律、行政法規規定のその他の義務 〉  このように、同様の法律を持たない日本から見ると、かなり「おっかない」法律なのである。  今回、この法律を、「2047年まで『一国二制度』(中国大陸は社会主義で香港は資本主義)を貫く」としている香港特別行政区にも適用させるということだ。

賛成2878票、反対1票、棄権6票

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 中国から見ると、1997年にイギリスから返還された香港と、1999年にポルトガルから返還されたマカオは、二人の息子のような存在だ。ところが「長男」(香港)は聞き分けの悪い劣等生で、「次男」(マカオ)は親に従順な優等生なのである。  例えばマカオでは、返還10年後の2009年に、マカオの安全規定(マカオ特別行政区基本法第23条)を定め、後の中国の国家安全法と符合させている。ところが香港では、2003年に香港特別行政区が同様の法律を定めようとしたところ、50万人デモが起こり、頓挫してしまった。それどころか、董建華(Dong Jianhua)初代行政長官が、この責任を取って辞任するという事態に発展した。  香港特別行政区基本法の第23条では、こう定めてある。  〈 香港特別行政区は、自ら法律を定めて、いかなる国家への謀叛、国家分裂、煽動叛乱、中央人民政府の転覆及び国家機密を窃取する行為を禁止せねばならない。外国の政治組織・団体が香港特別行政区において政治活動を行うことを禁止する。香港特別行政区の政治組織・団体と外国の政治組織・団体が関係を作ることを禁止する 〉  ここで言う「自ら法律を定めて」ということを、香港特別行政区政府(林鄭月娥長官)がいつまでたってもできないから、代わりに中央政府が定めてしまおうというわけだ。  5月28日の全国人民代表大会での議決は、賛成2878票、反対1票、棄権6票だった。これだけの中国国内での強烈な締め付けにもかかわらず、反対を表明する代表が1人、棄権という「消極的反対」に回る代表が6人いたことは意外だった。  もしかしたら、香港特別行政区から来た代表者かもしれない。あるいは、新疆ウイグル自治区かチベット自治区の代表者だろうか。一応、秘密投票になっているが、押しボタン式なので、実は誰がどういう投票行動を示したかが分かるという説もあるだけに、勇気ある行為である。

「香港制圧」に向けた第一歩

 なぜ中国は今回、ここまで急いでこの議決を行ったのか。  よく言われているのは、香港で9月に立法会選挙を控えているので、それまでに香港国家安全法を制定し、選挙に備えようとしているということだ。この法律を整備すれば、何らかの理由をつけて「合法的に」民主派候補者、及びその支持者の動きを制圧できるというわけだ。  昨年11月の香港区議会議員選挙(地方選挙)では、北京政府が民主派の支持を甘く見て、「民主派」389議席対「建制派」(親中派)60議席と、民主派の圧勝に終わった。もしも同様のことが9月に起こったら、香港議会が「憲法」に相当する香港特別行政区基本法さえ改正し、香港独立を果たしてしまうと、北京政府は危機感を募らせているのだ。  ある中国共産党関係者は、次のように語る。  「自宅の庭で一年間も暴れまわっている不穏分子を、これ以上、看過することはできないということだ。これはどの国であっても同様だろう」  だが、民主派の側に立つ香港人の知人たちに聞くと、いくつかの興味深い指摘をした。  「昨年6月から香港で起こった大規模なデモには、実は少なからぬ中国大陸の学生たちが混じっていた。彼らが香港のデモにわざわざ参加した理由は、香港の民主化に共鳴したということもあるが、いずれ中国大陸でも同様のデモを起こしたいと考えているからだ。  今年に入って新型コロナウイルスの影響で、中国は未曽有の不景気に見舞われている。特に、製造業のメッカである(香港に隣接した)広東省では、失業者が街に溢れている。彼らは北京政府に、強烈な不満を抱いている。  つまり、香港のデモを許せば、この先それが広東省に飛び火するリスクが高いと北京政府は見ているのだ。北京政府が本当に恐れているのは、香港よりもむしろ中国大陸でのデモ拡散だ」  「北京政府が本当に見据えているのは、香港ではなく台湾だ。『香港制圧』は近未来の『台湾制圧』のワンステップなのだ。  台湾は、新型コロナウイルスの人口10万人あたりの感染者数と死亡者数で、世界最低に抑え込んだ。こうしたことから、5月20日に始まった2期目の蔡英文政権は、圧倒的な支持を得て、独立志向を強めている。これに北京政府は危機感を強めていて、何とか手を打たねばということで、まずは香港を平定しようということなのだ」  それぞれ説得力のある意見である。いずれにしても、中国が「香港制圧」に向けて、大きな一歩を踏み出したことは間違いない。

飛んで火に入る夏の虫

 だが、このことが「虎の尾」を踏んでしまった。米ドナルド・トランプ政権が、ここぞとばかりに攻勢を強めたことだ。  新型コロナウイルス騒動が起きる直前の1月15日、米中は第1段階の貿易交渉に合意した。中国は向こう2年で、2000億ドル分のアメリカの農産物などを購入することになった。  私は以前からこのコラムで指摘しているが、いまのトランプ政権には、中国政策に関して、二つのグループが存在する。一つは、貿易不均衡の是正を重視する「通商強硬派」で、代表格はトランプ大統領だ。  もう一つは、「中国は21世紀のソ連である」として、中国の社会主義体制そのものを弱体化しようとする「軍事強硬派」で、代表格はマイク・ペンス副大統領だ。なおマイク・ポンペオ国務長官は、これら両派に属している。  過去3年半近くのトランプ政権は、この両派のどちらの発言権が強いかで、対中政策を変化させてきた。今年1月の合意は、「通商強硬派」の側が中心になって進めたものだった。トランプ大統領にしてみれば、貿易交渉で中国を屈服させたら、11月の大統領選挙で有利になると考えたわけだ。実際、第1段階の合意後、アメリカの株価は上昇を続けた。  ところが3月に入って、思わぬ誤算が起こった。新型コロナウイルスがアメリカに蔓延し、5月31日現在で、感染者数171万4671人、死者10万3605人も出したことだ。  アメリカ労働省の5月28日の発表によると、5月23日までの1週間に新たに申請された失業保険の件数は212万3000件で、非常事態宣言を出した3月中旬以降の10週の合計は、4000万人を突破した。これは失業率25%にあたり、世界恐慌の最悪期の1933年の統計に匹敵する。  こうなると、世界恐慌中の1932年の大統領選挙で、共和党のハーバート・フーバー大統領が、民主党のフランクリン・ルーズベルト候補に再選を阻まれたように、トランプ大統領も民主党のジョン・バイデン前副大統領に再選を阻まれる可能性が高くなる。実際、「老いぼれバイデン」と蔑んでいた77歳のライバルに、すでにリードを許している。  崖っぷちに立たされたトランプ大統領としては、一発逆転を狙って、「敵」が必要である。それは、新型コロナウイルスをアメリカに蔓延させた発生源の中国をおいてない。中国というヒール役に立ち向かう「正義のヒーロー」の顔を見せることによって、再選を果たそうとしているのだ。  そんな折、5月28日に「悪の中国」が、香港の民主化を取り締まる国家安全法を制定するという方針を決めたのである。トランプ大統領はこれまで、人権問題にはまるで無頓着だったが、今回ばかりは、「飛んで火に入る夏の虫」と言わんばかりに、強烈な反応に出たというわけだ。

トランプ大統領、怒りの演説

 トランプ大統領は先週末の5月29日午後3時前、わざわざ中国問題のためだけに、ローズガーデンで記者会見を開き、中国に対して罵詈雑言を浴びせた。「通商強硬派」だったトランプ大統領の再選に賭ける中国に向けた怒りに、「軍事強硬派」の激しい主張も組み入れた、盛りだくさんの内容だった。  少し長くなるが、10分間の演説の要旨を訳出する。  「今日は中国との関係と、アメリカの安全、繁栄を守るためのいくつかの新しい対策について話す。  中国の不正行為のパターンは周知のごとくで、彼らは何十年もの間、前代未聞のようにアメリカを食い物にしてきた。年間何千億ドルもが、特に前政権時代に中国との取引で失われた。中国はアメリカの工場を襲撃し、仕事を奪い、産業を根絶やしにし、知的財産を盗み、WTO(世界貿易機関)での関与をエスカレートさせた。さらに悪いことに、中国は発展途上国ヅラして、アメリカを含む他国には与えられない多くの権益を享受してきたのだ。  中国はまた、太平洋の領土を違法に主張しており、航行の自由と国際貿易に脅威を与えている。かつ中国は、香港の自治を保証するという世界に向けた約束を反故にした。  アメリカは中国とのオープンで建設的な関係を望んでいるが、そこへ至るには、こちらも国益を積極的に守っていく必要がある。中国政府は絶えずアメリカや他国との約束を破っているからだ。  これらの明白な事実を見過ごしたり脇へ置いておくわけにはいかない。いまや世界は、中国政府の不正行為の結果に悩まされているからだ。武漢ウイルスの中国の隠蔽によって、疫病は世界に広がり、パンデミック(世界的流行)を起こし、10万人以上のアメリカ人、100万人以上の世界の人々の命が犠牲になったのだ。  中国当局は、WHO(世界保健機関)への報告義務を怠り、自分たちがウイルスを最初に発見した際、WHOに圧力をかけてミスリードした。無数の命が奪われ、世界中が深刻な経済危機に見舞われた。私は中国からの入国禁止措置を強く勧められてそうしたが、これは100%正しい応対だったことが示された。  中国は完全に、WHOを支配している。アメリカは年間4.5億ドル近く払っているのに、中国は4000万ドルしかはらっていないにもかかわらずだ。そこでアメリカが関与するWHO改革を直接、要求したが、WHOは行動することを拒否した。だから今日、WHOとの関係を断ち切り、その資金を他の世界的で価値ある、緊急の公共衛生のニーズに振り向けることにした。  世界は中国からのウイルスに関する回答を必要としている。透明性を持たねばならない。なぜ武漢を封鎖して感染者を閉じ込めたのか? それによってウイルスは北京へは行かず、代わりにヨーロッパやアメリカを含む世界中を回遊した。  計り知れない死と破壊をもたらしたのだ。アメリカだけでなく世界に対する釈明が必要だ。このパンデミックによって、アメリカの経済的独立を築き、重要なサプライチェーンを再構築し、アメリカの科学的技術的先進性を保護するという決定的な重要性を強調したい。  何年もの間、中国政府はアメリカの産業機密を盗もうと多くの違法なスパイ行為を行ってきた。今日、私は、国家の重要な大学研究をより安全にすること、及び潜在的な安全リスクのある中国からの特定の外国人の入国を一時停止するという宣言を行う。  私はまた、アメリカの金融システムを保全する行動を取っている。それは世界最高のものだ。私は金融市場に関する大統領ワーキンググループに、アメリカの投資家を保護する目的で、アメリカの金融市場に上場している中国企業の様々な慣行を研究するよう指示している。投資会社は顧客に対し、同じルールに則っていない中国企業への資金調達に関して、目に見えない過度のリスクを課すべきではない。アメリカは公正さと透明性を付与されるべきだ。  アメリカが取っている最重要の行動の中には、深く込み入った香港で繰り広げられている状況に関するものがある。今週、中国は一方的に香港の安全保障上のコントロールを敷いた。これは1984年の(中英共同)宣言における北京のイギリスとの条約上の義務、及び27年前の香港基本法に明記された規定への明らかな違反行為だ。  今回の中国政府の香港に対する行動は、香港が長年にわたりとても誇りにしてきた地位を低下させる中国側の一連の措置の最新のものと言える。  これは香港人と、中国の国民、それに世界の人々にとっての悲劇だ。中国は、国家の安全を守っているのだと主張する。だが実際には、香港は自由社会として、これまで安全で繁栄してきたのだ。北京の決定こそがそれらすべてをひっくり返すことになる。中国の侵略的な国家の安全保障の範囲を、以前は自由の砦だったものにまで拡大することなのだ。  他の最近の領土の自由を貶める行為と同様の今回の侵犯行為によって、香港はもはや明らかに、中国に返還以降の特別待遇に値する十分な自治が行われていないとみなす。中国は、約束した「一国二制度」という公式を、「一国一制度」に組み替えてしまった。そのため私は、香港の(中国本土とは)異なる特別例外措置を取り外す作業を始めるよう行政府に指示している。  今日の私の発表は、犯人引き渡し条約から双方使用の技術の輸出管理まで、ほとんど例外なく、香港とのあらゆる協定に影響を与えるものとなるだろう。  中国の安全保障機関による監視と処罰の危険の高まりを反映させるため、香港に対する国務省の旅行勧告を改定する。他の中国の地域とは異なる分け隔てた香港の税関、旅行の特恵待遇を解除する手続きを起こす。  アメリカはまた、香港の自治の侵食――それは見ただけで完全に香港の自由を窒息させる措置だ――に、直接もしくは間接に関与する中国と香港の当局を制裁するための必要なステップを取る。アメリカの行動は強力で、意義のあるものだ。  20年以上前、1997年の雨夜に、香港でイギリスの兵士がユニオンジャックを降ろし、中国の兵士が五星紅旗を掲げた。香港の人々は、同時に中国の遺産とユニークな香港のアイデンティティに誇りを持っていた。香港の人々は、その数年、数十年の後に、中国が香港を明るくダイナミックな都市に似合うよう変容させてくれると期待を寄せていた。世界の人々も、香港が過去の中国を反映させた成長ではなく、中国の未来を垣間見るような存在になるという楽観的な目で刮目していたのだ。  以上、私はすべての決定において、引き続き自信を持って、アメリカの労働者、家族、市民を守っていく」  以上である。ずいぶんといろんな要素をてんこ盛りにしているが、トピックとしては次の7つである。  1)貿易・産業上の不正 2)南シナ海の不当な支配 3)新型コロナウイルスの蔓延 4)WHOの支配(WHOからの脱退) 5)中国人研究者・留学生の制限 6)中国企業のアメリカ市場からの追放 7)香港の特別措置の見直し  このうち、紙幅の関係もあるので、以下、香港問題に絞って述べたい。

中国側に勝ち目はない

 アメリカが香港について規定した法律は二つある。  一つは、1992年に定め、1997年の返還時に施行した「米国香港政策法」(United States–Hong Kong Policy Act)。これはトランプ大統領が言及していた「香港を中国とは別枠とみなして各種の優遇措置を取る」というものだ。  もう一つは、昨年11月に成立した「香港人権民主主義法」(Hong Kong Human Rights and Democracy Act)。こちらは、最低でも年に一度、国務長官が香港の「一国二制度」の状況を連邦議会に報告し、「米国香港政策法」を見直すかどうかを検討するというものだ。  私は「香港人権民主主義法」成立後の昨年末、香港で各界の人々を取材した。その模様は新著『アジア燃ゆ』(MdN新書)に詳述したので、興味ある方はご覧いただきたい。香港の経済関係者たちが共通して口にしていたのが、次の言葉だった。  「香港は中国経済の肺のようなものだ。肺がなければ呼吸ができない。そして肺を動かしているのは、アメリカドルにペッグされた香港ドルだ。香港のアジア金融センターとしての地位は、香港ドルがアメリカドルとのペッグを維持することによって成り立っている」  香港ドルは、1983年にアメリカドルとのペッグを開始。1アメリカドル≒7.8香港ドルのほぼ固定レートで、自由な交換を行っている。香港ドルは、イギリス植民地時代から、香港上海銀行(HSBC、滙豐銀行)とスタンダードチャータード銀行(SCB、渣打銀行)が発行していたが、いまでは中国銀行も加わり、3行が発行している。  この香港ドルのドルペッグは、「米国香港政策法」にも明記されているが、「香港人権民主主義法」による見直しの対象にもなる。つまり、香港の生殺与奪はアメリカが握っていることになる。  今後もしも、アメリカが香港ドルのドルペッグを廃止したら、どんな反応が起こるのか。少なくとも、以下のようなことが想像つく。  ・香港ドルの暴落……香港ドルは価値を失って暴落し、遠からず人民元に吸収されるだろう。  ・香港証券取引所の衰退……香港からアメリカドルが流出していき、香港市場は深圳市場と一体化するしか生き残れなくなる可能性がある。  ・グレートベイエリア構想(粤港澳大湾区)の崩壊……習近平(Xi Jinping)政権の肝入り政策である広東省・香港・マカオの経済一体化構想「グレートベイエリア」は、大きく崩れていくだろう。もしくは逆に、3地域が互いにこじんまりと身を寄せ合うかもしれない。  ・人民元国際化の後退……中国は先代の胡錦濤(Hu Jintao)政権の時代から、人民元の国際化を悲願にしてきて、中国―香港―ロンドンという人民元国際化のラインを築いてきた。だが今年、イギリスがEUから離脱して挫折したところに、香港ドルの価値も失われれば、人民元国際化の道は遠のく。  ・輸出基地の価値減退……中国から香港を経由した輸出も、アメリカドルが自由に使えることがメリットになって活発に行われてきた。だがこれがなくなれば、香港の輸出基地としての魅力も失われ、輸出が先細る。  ・マカオ経済の凋落……マカオの通貨パタカ(MOP)は、香港ドルとペッグになっている。つまりアメリカドルの「孫通貨」なわけで、「親と子」の関係が切れれば、「孫」にも甚大な影響が出る。  ・大量移民の発生……ドルとの紐づけがない通貨では、個人財産を保全できないということで、香港の富裕層や中間層の他国・地域への移民が続出するだろう。  こうしたことを冷静に勘案すると、香港を巡る米中のチキンレースは、中国側に勝ち目があるとは思えない。  それでも中国が、「もはや『2047年までの一国二制度』は諦めて、完全統一(「一国一制度」)を早める」と決断したのなら、中国側にもルビコン川を渡る意味はある。だがそうなったら、香港の「百万ドルの夜景」は失われ、ただの鄙びた「広東省香港市」になってしまうに違いないが。

https://news.yahoo.co.jp/articles/5c051842c61d56de49c43c78c74fc8463510f329?page=1

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