日本政府が「元徴用工問題」で韓国を無視するワケ

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 韓国・大邱地裁浦項支部は6月1日、韓国にある日本製鉄の資産差し押さえの公示通達を決定した。 「韓国が嫌いな日本人」を世界はどう見ているのか  韓国の裁判所は、資産を差し押さえたことを日本製鉄に伝達するよう日本の外務省に海外送達要請書を送っていた。が、日本の外務省はこれを説明なく返送し、再度の送達手続きにも10か月間反応を示さなかったという。  そもそも「公示通達」とは、文書を受け取らず、裁判に応じなかったりする場合、裁判所での掲示や官報公告などにより内容が伝達されたとみなす手続きである。8月4日に効力が発生するという。  日本政府外務省が、韓国の裁判所からの海外送達要請書に応じなかったのは、元徴用工に対する請求権の問題は、すでに日韓請求権協定によって解決済みであり、韓国大法院の判決は受け入れられないとの立場だからである。韓国の裁判所がいかなる動きを示そうと、それに反対なのである。  そもそもの問題の発端は、2018年10月に韓国大法院(最高裁)によって新日鉄住金(現日本製鉄)に対し、元徴用工1人当たり1億ウォン(約900万円)の賠償を命じた判決がだされたことである。これに基づき、日本製鉄の資産が押さえられており、これがさらに現金化されれば、日韓関係に甚大な影響があると日本政府は韓国政府に警告してきた。  韓国の文在寅政権は、大法院の判決は司法の独立による判断でこれに介入できないとして逃げているが、この判決が出た背後には文在寅大統領の意向が強く反映されている。文大統領は、大統領として初めて元徴用工の個人の請求権は消滅してないと記者会見で述べており、大法院の判事には自分の意向を反映する人を次々に任命している。

日本「輸出規制」への報復

 昨年、日本政府はフォトレジスト、フッ化ポリイミド、高純度フッ化水素の3品目を個別許可対象にするとともに、韓国を輸出管理の優遇対象国(ホワイト国)から除外した。  これに対して韓国政府は、「日本側が対韓国輸出規制強化措置を取った際に指摘された3つの理由は全て解消された」として、先月12日、31日までに輸出規制に対する公式立場を明らかにするよう求めていた。  確かに韓国政府が過去1年近くにわたり、輸出管理に関する法規定、組織、人員、制度などの強化を図ったことは事実である。これは、これまでの韓国政府の対応と比べれば、評価できるのかも知れない。しかし、日本側にとってより重要なことは、韓国政府が制度の運用をいかに行うかである。  当初の3品目は、日本側として不適切な再輸出の疑いを持ったものである。また、その他の戦略物資を「ホワイト国」から除外したのは、2015年から19年3月までに156件の不正輸出が韓国政府の資料によって判明した事実があったからである。しかも、再輸出先には北朝鮮と親しい国が多く含まれており、北朝鮮への再輸出の疑いは晴れない。  韓国政府は日本が一方的に北朝鮮への再輸出の嫌疑をかけているというが、もともとは韓国側の資料に基づくものである。嫌疑云々を言う前に韓国政府が疑いを晴らす努力をするのが本筋である。  韓国政府がこうした疑いを晴らす努力なくして、貿易管理体制を正しく運用するとの確証は持てず、韓国政府を貿易管理の優遇国として再度認めることはできないのは当然だろう。  日本が回答しなかった場合には、韓国政府は対抗措置を取ることを明らかにしていた。  韓国政府の対抗措置として考えられるのは、次の3点である。  第1に、WTOへの提訴の再開。 第2に、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了。 第3に、元徴用工に関連する日本企業の資産現金化、である。

「WTOへの提訴」は時間がかかり効果は少ない

 韓国産業資源部の羅承植(ナ・スンシク)貿易投資室長は「WTO紛争解決手続きを通じて日本の3品目輸出制限措置の不法性と不当性を客観的に立証することで、韓国企業の正当な利益を保護し、強国企業のグローバルサプライチェーンの不確実性が速やかに解消されるよう全ての力量を結集して対応していく」として、WTO提訴の再開を発表した。  しかし、WTOでの紛争解決手続きには最終結論が出るまで2年以上を要する。文在寅政権の任期中に結論が出ない可能性が高い。加えて、最終審である上級委員会が機能停止中にあるため実効性が伴わないとの指摘がある。  したがって、WTOへの提訴は日本に対しても圧力にはならないだろうし、韓国政府としても、これが決め手とは考えていないだろう。

「GSOMIAの破棄」は米国を怒らせるだけ

韓国外交部の金仁チョル(キム・インチョル)報道官は6月2日、日本の韓国に対する輸出規制撤回がこのまま行われないのなら、昨年11月に条件付きで延長したGSOMIAの終了を再検討するとの可能性を明らかにした。これは、日本の輸出規制撤回を通じたホワイト国復帰を条件に、GSOMIA終了通知の効力を停止し、事実上GSOMIAを延長したものである。  文在寅政権は直前までGSOMIAを終了させるとの立場に固執し、国内的にはその正当性を強調していた。しかし、最終段階で事実上の延長措置を取ったのは、GSOMIAの終了が日米韓の連携を脅かすと危機感を抱いた米国の圧力があったためである。今またGSOMIA終了を韓国が言い出せば、米国の圧力は一層高まることは必定である。  加えて、トランプ大統領は9月に延期となった、G7首脳会談にロシア、オーストラリア、インド、韓国の首脳を招待し、11か国による首脳会談とすることを提案している。米韓首脳の電話会談で文大統領は電撃的に応諾する意向を示した。「逃げる必要は少しもない。歓迎すべきことだ」とすべてのスタッフに伝えた由である。  韓国政府は、トランプ大統領が11か国の会議にする意向を示した際、実際に参加するかどうかコメントを控えていた。それは米中の対立が激化する中、米国中心のG7+4首脳会議への参加は「中国包囲網」への参加を意味するからである。中国外交部の趙立堅報道官は「中国を狙って仲間外れをすることでは歓心は得られない」「このような行為は関連国の利益にも符合しない」と反発している。  それでも文在寅大統領が応諾したのは、文大統領にとってそれは韓国の先進国入りを意味し、誇らしいからである。特にそれが米国からきていることに意味があるのであろう。韓国のマスコミの反応も、日本は「韓国のG7正式参加は困難と見ていた」「トランプにしてやられた」、「G7招待は国格上昇の快挙」「李明博のG20参加を超えるもの」として歓迎している。  韓国は常に日本に対して対抗意識を燃やしている。韓国が日本と同列になったことは韓国人の自尊心を掻き立てるものである。  しかし、韓国がいまGSOMIA脱退を言い出せば、米国の強い反発を招くことは必定である。仮にG7+4参加の取りやめとはならないにせよ、その扱いは冷たいものになるであろう。  したがって、外交部が何を言おうがGSOMIA終了はないのではないか。

文在寅政権の「誤算」

 元徴用工に関連する日本企業の資産現金化は、輸出規制の撤回に効果はあるのか。結論から言えば、日本がこれによって動くことはない。  菅義偉官房長官も元徴用工の判決は国際法違反の状態だと会見で述べている。それは日韓関係をより一層悪化させるだけの措置である。  輸出規制の強化はひとえに韓国の貿易管理体制に関する信頼性が損なわれたためであり、元徴用工問題とは関係のない問題である。しかし、韓国政府は当初から、日本の輸出規制の強化は元徴用工問題に関し、韓国の裁判所が日本企業の資産差し押さえに動いたことへの報復だと主張してきた。  また、日本が企業の資産現金化に激しく反発しているのは、それだけ現金化が効果的な措置であることを示していると考えており、今回の資産現金化手続きの促進は、日本に輸出規制の見直しを求める切り札と考えているのであろう。  しかし、それは日本が韓国との信頼関係に配慮し譲歩することを前提にしている。元徴用工に関する韓国の大法院の判決は、日韓国交正常化以来の日韓関係の根本を覆すものであり、国際法違反の問題である。  韓国政府がこれを材料に日本に譲歩を求めた時点で、日本は韓国、というより文在寅政権に対する信頼をこれ以上なく失墜させることになるのである。このような措置が、日本にとっていかに望ましくないにせよ、そこに譲歩はない。  こうした事実を客観的に判断できない理由は、今の文在寅政権が独善的な思考に陥っているからである。

常に自分たちが正しいと考える政権

4月の総選挙で不幸だったことは、文政権が一時的に新型コロナを封じ込めたことで、人気が高まり、これまでの政権の危険な体質、内政、外交、経済等あらゆる部門での失政を正しく評価されることなく(拙著『文在寅の謀略――すべて見抜いた』参照)、与党が勝利したことである。  その中には、親日排除を徹底し、日韓関係を破局に導こうとしている事実も含まれる。  慰安婦問題では、せっかくまとめた2015年の合意を、挺対協、正義連と政権が結託して反故にした。元徴用工の問題では、国交正常化時に解決済みの問題を一方的に再提起して、日韓間の信頼関係を損ねた。日本の自衛隊機に対するレーザー照射問題、自衛艦旗掲揚拒否問題など、これまでの緊密に行われてきた、防衛協力を棄損した。竹島問題では一層の強硬姿勢を示している。  独善的、一方的な措置は、日韓関係ばかりでなく、国内問題では一層激しくなっている。  内政では、チョウ・グク前法務部長官、共に国民党に入党した尹美香(ユン・ミヒャン)議員に絡む巨額の不正問題について国民の世論を無視して政権与党ぐるみでもみ消そうと企んでいる。その際、チョウ・グク氏や、尹美香氏を批判するのは親日派の工作であるとする、全くいわれのない、議論のすり替えを行い、左派系市民団体を動員して国民感情を惹起し、政権を批判する世論を抹殺している。  こうした政権与党の体質に鑑みれば、輸出規制の問題を元徴用工の問題で取引しようとする主張が、全く的を得ていないと判断するような政権ではない。常に自分たちの主張を国内的に押し通すことで、反対派を封じ込めてきたのは、今の韓国の保守が分裂し、弱いからである。それと同じことを日本に期待することは無理であることがわからないのであろう。

日韓関係は最悪の事態へ…!

今般の韓国の裁判所の公示通達によって、8月には新たな法廷が開かれ、資産現金化が決まるだろう。特に、8月15日の韓国の光復節(開放記念日)には反日機運が盛り上がる可能性がある。それは9月のG7に向けた外交への慎重姿勢を超えるものかもしれない。  これに対し、日本は対抗措置を取ることになろう。そして、その対抗措置は、金融面の措置を含むかもしれない。韓国のウォンは国際通貨ではないので、韓国の銀行がドルの調達を行う際には、日本の銀行が保証するなどの協力をしてきたが、これをやめれば、韓国の銀行のドル調達コストは高くなり、韓国企業の負担になる。  こうした措置を取るかどうかは今後検討されようが、いずれにせよ、韓国の日本に対する措置よりも経済的効果が高いものとなるであろう。そうなれば、韓国は経済的措置ばかりでなくあらゆる面で対抗措置を取ってくる可能性があり、それは全面的な対立に発展する可能性もある。  いずれにせよ、日韓関係が一層悪くなるのはこれからである。

https://news.yahoo.co.jp/articles/ed3c2562f2dc194daf83a4b3d98b3b4758ae183f?page=4

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