マイク・ポンペオ米国務長官は7月23日、中国との対決姿勢を鮮明にした演説を行うなど、米国と中国の関係は急速に悪化し「戦闘のない戦争」状態にまで発展している。今後、日本はどうすべきか。(国際関係アナリスト 北野幸伯) ● ポンペオは 歴史的演説で何を語ったか  米中関係が、急速に悪化している。  米政府は7月21日、ヒューストンの中国総領事館閉鎖を要求した。理由について、ポンペオ国務長官は、中国総領事館は「スパイの拠点だ」と述べた。  これに対し、中国は7月24日、成都の米総領事館閉鎖を通知した。  7月23日、ポンペオは、歴史的演説を行った。何を語ったのか。  <中国との闇雲な関与の古い方法論は失敗した。われわれはそうした政策を継続してはならない。戻ってはならない。自由世界はこの新たな圧政に勝利しなくてはならない。>(太字筆者、以下同じ)  中国は、「新たな圧政」であり、自由世界(民主主義諸国)は、これに勝たなければならない。

 <(中国共産党の)習近平総書記は、破綻した全体主義のイデオロギーの真の信奉者だ。中国の共産主義による世界覇権への長年の野望を特徴付けているのはこのイデオロギーだ。われわれは、両国間の根本的な政治的、イデオロギーの違いをもはや無視することはできない。>(同上)  習近平は、「全体主義の信奉者」で「共産主義による世界覇権」を狙っているという。  <志を同じくする国々の新たな集団、民主主義諸国の新たな同盟を構築するときだろう。自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国がわれわれを変えるだろう。中国共産党からわれわれの自由を守ることは現代の使命だ。米国は建国の理念により、それを導く申し分のない立場にある。(中略)自由世界は対処しなければならない。過去に戻ることは決してできない。>  ポンペオは、民主主義諸国に、新たな同盟(=反中同盟)の構築を呼びかけている。そして、米国は「それを導く」と言っている。  つまり、米国は責任をもって反中同盟を率い、「中国を叩きつぶす」と言っているのだ。  彼が言っていることを普通に聞けば、「事実上の宣戦布告」だといって過言ではないだろう。  もちろん、これで米国と中国が「戦闘」になるという意味ではない。  核大国同士の「戦争」は、別の形態をとる。情報戦、外交戦、経済戦、代理戦争……。だが、目的は「戦闘を伴う戦争」と変わらない。  米国の目的は、「中国共産党政権を打倒すること」である。 ● 米中覇権戦争は、 5年前にはじまった  ポンペオ氏がここまではっきり語っているにもかかわらず、「米中覇権戦争が始まった」という実感を持つ日本人は少ないだろう。  だが、実をいうと、「米中覇権戦争」は(ポンペオ演説があった)2020年7月に始まったわけではない。長い時間をかけて、エスカレートしてきたにすぎないのだ。  そもそも、米国と中国は1970年代初め、ソ連に対抗するために和解していた。  両国関係はその後、基本的にずっと良好だった。1989~1992年、天安門事件の影響で一時悪化したが、93年からは再び良い関係に戻っている。

米中関係が変化したきっかけは、08年に起こった米国発「100年に1度の大不況」と言われるリーマン・ショックだ。  米国はこれで沈んだが、中国は08~11年まで9~10%の成長を続けて浮上。増長した中国は、攻撃的になっていった。  われわれ日本人は、2010年の「尖閣中国漁船事件」後、レアアースを禁輸されたこと、2012年の「尖閣国有化」後の激しい反日活動を覚えている。  しかし、経済危機の克服に忙しかった米国は、中国と対峙することはなかった。  米国が本気になったきっかけは、2015年3月の「AIIB事件」だ。  この時、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、オーストラリア、イスラエル、韓国など、いわゆる「親米諸国」が、米国の制止を無視し、中国主導の国際金融機関AIIBへの参加を決めた。  ロイター2015年3月24日付には、「英国が米国の制止を無視して、AIIBへの参加を決めたこと」がはっきり書かれている。  <いち早く参加を表明した英国のオズボーン財務相は議会で行った演説で、AIIBが英国にもたらす事業機会を強調した。「われわれは、西側の主要国として初めてAIIBの創設メンバーに加わることを決定した。新たな国際機関の創設の場に存在すべきだと考えたからだ」と述べた。この演説の前には、ルー米財務長官が電話で参加を控えるようオズボーン財務相に求めていた。>  国際社会は、「親米諸国ですら、米国ではなく中国のいうことを聞く」ことを知った。  これは、「米国から中国に覇権が移りつつあること」を世界に示した象徴的事件だったのだ。  オバマ大統領(当時)はこれで、反中になった。そして米国は、今まで無視してきた中国による「南シナ海埋め立て」を非難しはじめた。  ほとんどの人は忘れていると思うが、米中関係は当時、「軍事衝突」が懸念されるほど悪化していたのだ。  <南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島周辺の領有権をめぐり、米中両国間で緊張が走っている。  軍事力を背景に覇権拡大を進める習近平国家主席率いる中国を牽制するべく、米国のオバマ政権が同海域への米軍派遣を示唆したが、中国側は対抗措置も辞さない構えで偶発的な軍事衝突も排除できない状況だ。>

「覇権喪失の危機」を認識したオバマは2015年~16年、中国に厳しい態度を続けた。しかし、トランプが大統領に就任した2017年、米中関係は改善されている。  この年、金正恩が、核実験、ミサイル実験を繰り返し大暴れしていた。トランプは、北朝鮮貿易の95%を占める中国なら、金正恩の態度を変えさせることができると期待していたからだ。  彼は、中国に米朝の「仲介役」になることを依頼し、習近平も、それを快諾していたのだ。  だが、2018年になると、トランプは、習近平には北核問題を解決する意志が「全然ない」ことに気づく。それで、北朝鮮との直接交渉に乗り出し、同年6月シンガポールで歴史的米朝首脳会談が実現した。  「仲介役」としての中国が不要になったトランプは、2018年7月(米朝会談の翌月)から、3カ月連続で中国製品への関税を引き上げた。  2018年10月には、ペンス副大統領が、中国政府を強烈に批判する演説を行い、「中国との冷戦を宣言した」(日経ビジネス2018年10月11日)と報じられた。  そして、「米中冷戦」は、実際にスタートした。  情報戦では、「中国は、ウイグル人100万人を強制収容している」という事実が、急速に拡散されるようになった。今年は、「中国のせいで、新型コロナウイルスのパンデミックが起きた」という情報が、拡散されている。  経済戦では、関税引き上げが何度も行われ、米国は「ファーウェイを5Gから排除せよ」と世界の国々に圧力をかけている。代理戦争として、米国は香港の民主化勢力を支持。また、米国は台湾への武器輸出を大幅に増加することで、蔡英文政権を支援している。  こうした流れの中で、今回のポンペオ演説が行われた。  つまり、彼の「中国打倒宣言」は、「突然出てきた」わけでなく、5年間悪化し続けてきた米中関係の結果なのだ。 ● 米国が「反中同盟への参加」を呼びかけ 日本はどうすべか?  米国が、「反中同盟への参加」を呼びかけている。日本は、どうすべきだろうか?  その答えは明白。迷うことなく、反中同盟に参加すべきだ。  なぜか?それには、2つの視点がある。  1つは、安全保障上の視点だ。米国は、日本の同盟国であり、日本の領土を狙っていない。  一方、中国は、尖閣だけでなく沖縄も狙っており、明らかに日本の脅威である。  中国は2012年11月、ロシアと韓国に「反日統一共同戦線」構築を呼びかけた。そして、「日本には尖閣だけでなく、沖縄の領有権もない」と宣言している。

この話を知らない人は、「ネトウヨ陰謀論者の妄言」と思うだろう。しかし、絶対的証拠があるので、こちらの記事を必ず読んでいただきたい。  ↓ https://rpejournal.com/rosianokoe.pdf  そして、中国は実際、“尖閣を奪いに来ている”と思わざるを得ない行動をとっている。  <第11管区海上保安本部(那覇市)は22日、沖縄県石垣市の尖閣諸島の接続水域(領海の外側約22キロ)内を中国公船4隻が航行していると発表した。接続水域内での航行は、4月14日から100日連続となった。>(読売新聞7月22日)  ちなみに中国は、年初から7月22日までに、領海侵犯を14回行った。  要するに、中国は日本にとって安全保障上の脅威である  わが国の軍事同盟国で日本の領土を狙っていない米国と、「日本には沖縄の領有権はない」とトンデモ主張をし、尖閣を露骨に狙っている中国。  どちらを選ぶべきか。それは、明らかだろう。  もう1つは、「勝つ方につく」という視点だ。  現状、「中国の方が勝つのではないか」と思う人もいるだろう。米国は、新型コロナウイルスの感染者、死亡者数とも、ダントツ世界一だ。  2020年4月~6月期のGDP成長率は、なんと32.9%も減少した。  反黒人差別運動の大規模デモもある。「米国はボロボロだ。勝つのは中国だ」と思えるのも理解できる。  しかし、筆者は3つの理由で、米国が勝つと見ている。  第1の理由は、中国経済が悪化し続けるのは、必然であること。  中国は08~11年、「100年に1度の大不況」に負けず、高成長を続けていた。IMFによると、この国のGDP成長率は、2008年9.6%、2009年9.2%、2010年10.61%、2011年9.5%。  ところがその後を見ると、2012年7.9%、2013年7.8%、2014年7.3%、2015年6.9%、2016年6.72%、2017年6.86%、2018年6.57%、2019年6.14%で、着実に鈍化している。

中国経済が、低成長時代に向かっていることは明らかだ。  中国は、近い将来「一人っ子政策」(1979~2015年)の影響で、日本をはるかに上回る人口減少時代に突入する。  それが、経済成長をさらに困難にする。  中国政府はこれまで、「共産党の一党独裁だから、世界一の経済成長を実現した」と主張できた。しかし、低成長時代が到来する20年代、一党独裁の正当性を証明するのは容易ではない。  第2の理由は、中国の政体が脆弱であること。  既述のように、米国が深刻な問題を抱えていることは間違いない。しかし、米国の政体は、滅びない。  「米中覇権戦争」といっても、人民解放軍がワシントンを占拠するとか、米軍が北京を占領するといった事態は、想像しにくい。  だから、米国が崩壊するといった事態は、想定できない。  トランプ政権が倒れても、選挙が実施され、新たな大統領が誕生するだけだ。これが民主主義政体の安定性であり、強さだ。  一方、中国は共産党の一党独裁だ。  ソ連がそうだったように、共産党の一党独裁体制が崩壊すれば、政体、国体自体が変わる。つまり、中国が「敗戦する状況」は、容易にイメージできる。  第3の理由は、「戦闘なしの戦争」で、中国は勝てないこと。  既述のように、核大国同士の「戦争」は、「戦闘」に発展しにくい。そして、情報戦、外交戦、経済戦、代理戦争などがメインになる。  情報戦で中国がアメリカに勝つのは難しいだろう。理由は単純で、中国が実際に「悪いこと」をしているからだ。  例えば、「ウイグル人100万人を強制収容している」ことで、中国共産党は「ナチス」、習近平は「ヒトラー」と比較される。

 今まで欧米と日本は、中国の人権侵害には目をつぶってきた。理由は、「チャイナ・マネー」が欲しかったからだろう。しかし、中国経済は、必然的に鈍化していく。  今まで中国は、「金がたっぷりある人権侵害国家」だったが、これからは「金がない人権侵害国家」に変わっていく。  「金がたっぷりある人権侵害国家」であれば、しぶしぶながらも、つきあいたい国や企業は、たくさんいる。しかし、「金がない人権侵害国家」は、「ただの人権侵害国家」にすぎない。わざわざつきあう国や企業はいないだろう。  日本を含め、世界の国々は今、「米中どちらに付くべきだろうか?」と自問している。だが、時がたつにつれ、中国に付く国は減り、米国に付く国が増えていくのは明らかだろう。 ● 日本は、 第2次大戦時の過ちを繰り返すな  1939年、第2次大戦が勃発した。  この時、日本は、ナチスドイツの同盟国ではなかった。しかし、その1年後の1940年9月、日本はドイツの正式な軍事同盟国になった。  当時ドイツは、大国フランスをわずか1カ月で降伏させ(40年6月)、破竹の勢いだった。  それで日本は「ドイツが勝つ」と情勢判断を間違え、「ユダヤ人絶滅」を企むような国の同盟国になってしまったのだ。そして、必然的に敗北した。  今の日本はどうだろう?  中国は、新型コロナウイルス感染症の震源地だったにもかかわらず、いち早くコロナ禍を克服したといわれる。そして、第2四半期のGDP成長率は、3.2%だったと報じられている。  同時期、米国がマイナス32.9%であるのを見て、「中国が勝ち、米国が負ける」と勘違いする人もいることだろう。  だが、状況は、総合的、長期的に見る必要がある。  日本は、ナチスドイツ側について敗北した歴史的失敗を繰り返してはならない。“現代のナチスドイツ“ともいえる独裁的で排他的な中国ではなく、“当時の英国”のような立場の米国に付いてこそ、日本は“戦勝国”になれる。

北野幸伯

https://news.yahoo.co.jp/articles/38a89c304548b34f07f9c8f332b86ddcf697884e?page=1

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