最近、中国では、ある日本人女性がネット上に投稿した埼玉県の公立小学校での給食の様子を撮影した動画が出回り、大変な話題となっている。その理由や背景について解説する。(日中福祉プランニング代表 王 青) 【中国のインターナショナルスクールの豪華な給食の様子(画像)はこちら】 ● 中国で話題となっている 「日本の給食」を撮影した動画  9月1日、中国の小中高校は、まる2カ月間の“夏休み”が終わり、新学期が始まった。登校の様子を伝えるニュースが各地のテレビや新聞で報道され、SNSでも賑わった。  「待ちに待ったこの日がやっと来た!」と多くの親たちが思い、早朝から子どもを学校に送り届けた。  あまりにも待ち遠しすぎたのか、登校日を1日間違って、前日に子どもを学校に連れていった親もかなりいたらしく、ネット上では笑い話となっていた。  今年はコロナで2~3月学校が休みになり、在宅期間が長かったため、祖父母らも「孫の面倒をみる」のに疲れ果てて、「これでほっとした」という人も多かった。  しかし、長い夏休みの後、家でのんびりしていた子どもが久しぶりの学校生活に慣れるのか、心配している大人もたくさんいる。

 筆者の知人には小学校4年生の子どもがいるが、「学校が始まっても油断できない、しばらく慣らし期間が必要。一番心配なのは、給食をちゃんと食べてくれるかどうかだ。食べ残しが厳しくなったからね」と話す。  さて、全国一斉に新学期が始まったこの時期、またもやある日本の動画が中国全土に拡散され、話題になっている。  それは、既に8カ国以上の言語に翻訳され、世界中で注目されている。 ● なぜ中国では 日本の給食に驚くのか  この動画の時間はわずか8分間程度。数年前に、米国・ニューヨーク在住の日本人女性により制作されたドキュメンタリーだ。  『School Lunch in Japan – It’s Not Just About Eating!』と題した動画で、埼玉県にある公立小学校の給食の様子を取材し記録したものである。  彼女がこの動画を作成したきっかけは、自分の子どもが通うニューヨークの小学校での昼食の光景を目にして衝撃を受けたからだという。食べ残しの多さのほか、床やテーブルに食べかすがちらかった様子があまりにもひどかったからだ。  本来は、この動画を公開して、ニューヨークの小学校の教育者に参考にしてもらおうという目的であったようだ。その動画は公開後たちまち大きな話題となって、世界中に拡散された。  特に中国では、さまざまなタイトルが付いた記事が出回り、動画が紹介されている。コメント欄は、いつも多くの書き込みで溢れており、常時、注目記事ランキングの上位に入り続けている。  ちなみに、中国にいる筆者の友人や教育関係者らは全員見ており、今や、教育関係者や教育熱心な親の「必見の動画」とも言われている。  なぜ、中国でそれほど注目されているのだろうか。その理由は明白で、現在の中国の小学校とあまりにも異なる様子が衝撃的であるからだ。

● 日本人から見れば あまりに当たり前の光景だが…  その動画は、ユイという5年生の女の子が持参した給食袋の中身(箸、ランチョンマット、歯ブラシ、コップなど)を説明するシーンから始まる。  そして、下記の様子が動画で紹介されている。  ・生徒と教職員ら合わせて約720人分の食事を5人の調理師が3時間以内で作ること  ・各クラスの当番の子どもがマスクやエプロン、帽子を着用し、お互いに「体の調子、手洗い」などの事項を確認していること  ・食べる前、先生が食材の説明をしたり、校長先生が試食したりすること  ・先生たちも生徒と一緒に食べること  ・おかずや牛乳などの食べ物が残れば、ジャンケンで勝った人が食べることができること  特に興味深いのが、次のシーンだ。  ・給食当番が給食を厨房まで取りに行き、「おいしい給食いただきまーす」と挨拶する様子  ・給食当番がテキパキと配膳した後、先生と仲良く机を並べ、給食を食べる様子  ・学校の先生が「このマッシュポテトのジャガイモは6年生が栽培したものです」と説明する様子(この小学校には小さな農園があり、6年生の児童が授業でジャガイモなどの野菜を栽培し、給食の食材として使われている)  ・食べ終わった後、きちんと食器を整理し、牛乳パックを切り開いて、きれいに洗って乾かした後に、リサイクルボックスに収める様子  ・放課後、子どもたち全員で掃除をした後、あっという間に机と椅子を元通りにする様子  こうしたシーンは、日本人から見れば「当たり前」のことであるかもしれない。  しかし、海外の人々、特に中国人にとっては、とても感動し、称賛すべきことなのだ。

● 日本の給食は 単なる『食べる行為』ではない  以前に筆者が書いた記事『中国人の教育ママと子どもたちが日本の小学生を見て驚き、感動したこと』でも触れたが、現在の中国の子育ては、学校の成績を最優先するあまり、勉強はできても、自分で身の回りのことができなかったり、常識に欠ける子どもが増えていることが問題となっている。  実際、筆者が中国上海にいる友人(小学校の副校長)や児童の母親らから感想を聞いたところ、下記のような声があった。  「日本の学校の給食は単なる『食べる行為』ではなく、感謝の気持ちを込めて食事に臨んでいることが、動画からすごく伝わってくる。当番の子どもたちが厨房に給食をもらいに行くとき、食事を作る人に対して、感謝の言葉を述べるシーンには感動しました。これは、もちろん給食を作る人に対してだけではないと思う。食べる前に、手を合わせて『いただきます』と声を発するのも、食材を作る人、料理する人など給食にかかわるすべての人に対しての感謝ではないでしょうか」  「学校の先生が児童と一緒に食べるのにびっくりした。『毒見』をしているのかと思った(笑)。先生が児童たちと同じ内容の食事をするということは、食事に対しての信頼感、安心感を与えられる。また、食べながら、いろいろなお話しができるのも、先生と生徒の間に隔たりがなくなり、良いコミュニケーションがとれると思う」  「給食開始から終わるまでの作業は、当番の児童だけでなくほかの児童も一糸乱れずに行い、助け合いの精神などが、すべての作業の中で表われていた。チームの団結と協調性が完璧に達成できている」  「『いただきます』と『ごちそうさまでした』のような言葉を発するのところに、すごく儀式感がある。マナーの良さも感じとれる。このような教育は、成人してからも一生影響があるだろうなー」  「給食当番の子どもたちの準備作業から最後のみんなのお片付けまで、あっという間に終わるが、この45分間は、まるで『1時限の授業』のようである。生活力、協調力、食べ物への敬意、食べ物を作る人への感謝、食材や栄養に関するさまざまな知識…。国語や算数の授業以上に重要な授業だ。これは日本の食文化そのものが反映されているのではないか」 ● 中国の親や教育者たちの さまざまな感想  中国の親たちや教育者がこのような感想を語るのにはさまざまな事情や背景がある。上述の小学校の副校長を務める知人は、最新の中国の給食事情を教えてくれた。

 「給食を教室の中で食べる日本と違い、中国には給食専用の食堂がある。自家厨房がなければ、給食センターから運ばれてくる学校もある。ほとんどの学校には、教師専用の『教師食堂』が別に設けられている。生徒とはメニューが違うし、一緒には食べない。  われわれの給食は、単にお腹を満たすためのもので、『ストーリー』がない。特に近年、政府が学校給食の管理や監督をきちんとするようになり、食品の安全性にも目を光らせている。以前、『わけあり』の食材が度々使用され大きな問題となったこともあり、また、親の目も厳しいので、給食に関してはコロナ後、さらに衛生面が厳しくなった」  一方、先述した4年生の息子を持つ母親の友人は、下記のように実情を話す。  「うちの子を含め、ほとんどの児童が『学校の給食はおいしくない』と訴えている。口に合わなければ、食べ残して捨てる児童が非常に多いと聞く」  折しも中国では、最近、大量の食べ残しが問題となっており、習近平国家主席が『食べ残しを根絶せよ』と呼び掛けたことで、教師も児童に食べ残さないよう指導している。  このため、この動画を見た人からは下記のようなコメントも寄せられている。  「食べ残しがまったくない!それどころか、最後に残ったものをじゃんけんで取り合うのが、なんとかわいいく、たくましいのか!」 ● あまりに贅沢に育ってしまった 中国人の子どもたちに危機感  中国の都会では、長く続いた「一人っ子政策」や急激な経済成長の影響もあり、一人っ子が圧倒的に多い。一つの家庭では、祖父母を含めて4人の大人に1人の子どもという状況である。  祖父母が孫の育児に深くかかわっているため、どうしても甘やかしてしまう。大人たちが部屋中を飛び回る小さな子どもを、慌ただしく器を持って追いかけ、食べさせる光景は珍しくない。また、食べ物の好き嫌いも多い。  贅沢(ぜいたく)に育った子どもが給食を気に入らないのも当然であろう。  筆者のもう1人の友人の子どもはインターナショナルスクールに通っている。  年間の学費が20万人民元(約300万円)にものぼるだけに、食事も豪華だ。食堂の写真を見せてもらったら、あまりに立派で驚いた。給食はバイキング形式で、中華料理、西洋料理など、毎日十数種類のおかずがある。それでも、友人が小学生の息子に「今日の給食は何だったの?」と聞いても、いつも覚えてないという。記憶に残るほどの食事ではないということだ。  上述の副校長は、「われわれには立派な校舎や食堂はある。しかし『心豊かな生徒をどう育てるのか』という点においては日本から学ぶことが多い。中国の親たちの口癖に『子どもにスタートラインで負けさせない』という言葉がある。日ごろは成績のことだけに目を向けている。中国では、日本のような食育は行われていない。一人の教育者として、このような現象を変えていかなければならないと思うが、あと20年はかかるのではないか」と苦笑しながら説明していた。  ゆえに、このわずか8分間という短い動画にもかかわらず、多くの中国の親や教育者らの心に深く刺さるのだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/39bb4d3e7d874bc15bea7c35175042f42f2a2745?page=3

ダイヤモンド・オンライン

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