<アメリカ製の最新兵器をひけらかし万全の体制で中国を迎え撃つと息巻く台湾政府……実際には戦車は壊れ、自腹で修理部品を調達するよう若い兵士に強要する始末>

中国は台湾海峡周辺に軍隊を集結させ、台湾島の奪還には「手段を選ばない」と息巻いている。アメリカとその友好国としては、台湾が自力で中国軍の侵攻を食い止めてくれると信じたいところだ。 【写真】中国の新型ステルス戦闘機FC-31の飛行写真?がウェイボーに流出 しかし現実は厳しい。今の台湾には現役の兵士が少な過ぎ、予備役の動員システムもお粗末過ぎる。それだけではない。驚くなかれ、保有する戦車の半数はまともに動かない。実戦で使えそうな武器はもっと少ない。 そのせいで、中国軍と砲火を交える前から尊い人命が失われている。政治家は血税で買ったアメリカ製の最新兵器をひけらかすが、軍の補給体制は旧態依然。だから、メンテナンスに必要な部品を自腹で買い求めていた若い将校が絶望して自ら命を絶った。 黄志劼(ホアン・チーチェ)は台湾軍の中尉だった。徴兵で入隊し、当初は空挺部隊に配属されたが、志願して将校になる道を選んだ。今は「将校なんて責任ばかり重くて給料は安い」と思われている時代なのに、だ。 黄は第269機械化歩兵旅団に配属され、補給物資の倉庫の担当係になった。台湾軍が徴兵制から志願制への困難な移行に直面していた時期に、彼は大学教育を受けたエリートでありながら、自らの意思で軍隊にとどまる選択をし、職業軍人となった。政府にとっては願ってもないモデル兵士だった。 だが4月16日の夜、黄(当時30歳)は基地の食堂近くの暗い階段で首をつった。黄の母親が正式な調査を訴える蔡英文(ツァイ・インウェン)総統宛ての書簡をフェイスブックで公開するまで、その死はメディアでも全く伏せられていた。 黄の母親は記者会見で、息子が上司からしごかれ、修理部品が足りないなら自腹で調達するよう、上官から圧力をかけられていたと訴えた。 実際、黄は市販の修理用ハンマーや消火バケツなど多くのアイテムを購入して、なんとか足りない物資を補おうと苦労していた。 議会の公聴会に呼ばれた国防部長の厳徳発(イェン・トーファー)は「兵士が自費で備品を購入することは軍規に反する」と述べた。「何かが壊れたり、欠損した場合は、必要な書類を作成し、しかるべき部署に提出して代替品を要求すればいい」 この発言、現場の将校や兵士には悪い冗談にしか聞こえなかった。実際、同じ公聴会で軍の監察官は厳の発言を否定し、部品を自腹で買ってこいという上からの圧力を兵士が受ける事例は「何度もあった」と認めている。黄の死後、彼の担当していた倉庫を調べた監察官は、少なくとも31種類の部品が補充されていないことを確認した。 ちなみに、この第269機械化歩兵旅団は後方支援の部隊ではない。台湾北部の桃園市郊外に戦略的に配置された精鋭の戦闘部隊だ。中国軍が台湾に上陸し、首都・台北へ向けて進軍する事態に備え、地上戦でそれを阻止するのが任務とされている。

<あきれるほど煩雑な手続き>

こんな精鋭部隊でさえ、物資の不足が深刻なのだ。その他の部隊の状況は想像するのも恐ろしい。 軍も政府も、有事に遅滞なく対応できる部隊の実態を公表していない。しかし毎年恒例の「漢光演習」を含め、シミュレーションによる机上演習の際には、兵員の90%が戦闘能力を保持し、兵器類の85%以上が実戦使用に耐えることを前提としている。 「そんな数字は無意味だ。何の現実的根拠もない」。そう切り捨てるのは、台湾の退役陸軍中佐で軍事評論家のジェームズ・ホアンだ。「どれだけの戦車や銃が、本当に実戦で使える状態にあるのか。軍上層部には、それを知る手掛かりもないだろう。なぜなら、軍隊の底辺にいる兵士でさえ、いいかげんな数字を上司にあげているからだ。そうすれば将校連中はバラ色の絵を描き、上層部や政治家を喜ばせることができるわけだ」 <使える戦車はわずか3割> 第542装甲旅団の司令官だった退役少将の于北辰(ユィ・ペイチェン)は、黄の配属先ではあまりに多くの備品が破損または欠損していたため、正規ルートで交換を申請できない状況だったのではないかと推測する。もしも正直に報告すれば、現在の軍の体制では「軍価格」の高額な部品の購入を求められ、どう考えても予算を超過する恐れがある。 それに正規ルートでの申請にはあきれるほど煩雑な手続きが必要で、経験の浅い下級将校の手に余るという。上層部の調査が入ることを嫌うから、上官もいい顔をしない。そこで黄は、おそらく前任者たちの例に倣って書類を偽造して事態を隠蔽し、自分で穴埋めしようとしたのだろう。于はそう推測する。 ネット上のフォーラムをのぞいてみれば、補給部隊や武器庫管理の任務についてぼやく自称「退役軍人」の書き込みがいくらでも見つかる。信じ難い話ばかりだ。自腹で部品を買った、書類や整備記録を偽造した、手抜きの修理作業を見逃してやった、装備点検や演習の時期が近づくと仕方ないから別な部隊から部品を盗んだ、などなど。補給部隊での経験が長く、今も現役の曹長である陳(チェン※現役の軍人なので姓しか明かさなかった)は、悲しいけれどこれが現実だと認めた。「実戦で使える」という文句をどう定義するかによるが、と前置きして陳は言った。「米国製であれ台湾製であれ、装甲兵員輸送車の90%程度は一応走れる状態にある。しかし車軸などの整備状況が悪いから、舗装道路を50キロも走れば動けなくなる」 キャタピラ式だと、もっと悲惨だ。「私の知る限り、走行可能な状態にある戦車や自走砲は約50%だ。運よく走行できても、搭載した兵器が使える保証はない。米軍の基準で言えば、まともに走れて武器も使える戦車は全体の30%程度だろう」

<拙速なリストラのしわ寄せ>

それだけではない、と陳は言う。大規模な演習が始まる時期を除けば、弾薬も燃料も恒常的に不足している。メンテナンスの人材も十分だったためしがないという。 「いま中国が攻めてきたらどうなるか」と陳は言う。「こちらの戦車に実弾を積み込み、走行できる状態に仕上げるまで何日か、あるいは何週間か待ってくれと、敵にお願いするしかない」 <軍備削減のしわ寄せが> 軍備の老朽化には、さまざまな理由が考えられる。だが元軍人たちの言い分には説得力がある。 元海軍大尉で、今は台湾国際戦略研究センターに所属する常漢青(チャン・ハンチン)に言わせれば、最大の問題は台湾軍のあまりにも急激な、そして拙速なリストラだ。1990年代後半から2000年代初頭にかけて、台湾は兵力を50 万人から20万人以下に削減する方針を打ち出した。この改革の大半は台湾国防部の作戦・計画参謀本部が立案したもので、実を言えば常自身も当時のスタッフの1人だった。 「政治家は、軍の規模を縮小して最終的に徴兵制を廃止したいと考えていた。軍の上層部も、その要望に応じるしかなかった。しかし中国の脅威が強まっていることを考えれば、戦闘部隊の削減はあり得なかった。ならば、代わりにどこを削減すればいいか。そう、まずは補給部隊だ。前線で戦う部隊がいれば後方支援の部隊は必要ないと言わんばかりの対応だった」 こうして補給部隊は予算も人員も大幅に削減された。そしてたちまち、膨大な整備作業のニーズに応えられなくなった。一方で、前線部隊の下級将校や兵士らは必要な技術も知識もないまま、複雑な整備作業や交換用部品の在庫管理を任された。その結果、整備不良や故障が増え、交換用部品やリソースの配分が狂う悪循環に陥った。 台湾軍が最近発注したM1A2エイブラムズ戦車もそうだが、アメリカ製の最新ハイテク兵器は従来の兵器よりも大きくて重く、構造も複雑だ。だから今の体制では十分なメンテナンスができない。分かり切ったことだ。 「数週間程度の訓練しか受けていない戦車の操縦士が、200ものメンテナンス項目があるM60戦車の整備を任されたらどうなるか」と于は言う。「適当に書類をごまかして、整備完了と報告する以外に方法はないだろう」 どうすればいいか。考えられる解決策の1つは民間企業の手を借りることだ。軍隊の使うトラックや装甲車両も、民間企業に整備を委託したほうが効率的に、しかも安上がりになる可能性がある。 現に米軍は民間企業を活用している。76万の民間人と56万の民間業者が、予備役を含めて220万の軍人を支えている。台湾軍はどうか。15万3000人の軍人に対して民間スタッフは8000人だ。

<無能な指導部に原因>

黄の残したメモによれば、米軍では幅広い専門分野で競争を経た民間企業が起用されているが、台湾軍に雇われている民間人はたいていさまつな事務作業のみを担当している。そもそも台湾軍は部隊の構成を決める上で「科学のかけらも」考慮に入れておらず、民間の知恵を借りるという発想すらないという。 そうであれば、問題の根本的な原因は壊れた戦車や整備士の不足にとどまらず、もっとずっと深いところにあるのではないか。取材に応じた複数の人物が、機能不全の組織文化や文民コントロールの欠如、(軍や政界の)無能な指導部に原因があるだろうと示唆していた。 台湾国防部には本稿の内容について、何度もコメントを求めた。だが返ってきたのは「国防部はよく知っているメディアとしか話をしない。独自の調査には返答しかねる」という言葉だった。 <いざとなればアメリカに> 今回取材を行った軍の現役および元幹部たちはいずれも、国防部長の厳こそが、長年台湾軍をむしばんできた機能不全の指導部の典型だと口をそろえた。彼らは厳について、派手な仕事や写真撮影を優先する一方で、軍の抱えている問題の少なくとも一部を解決できそうな小さな「修正」さえも妨害していると批判していた。 台湾与党の民進党は、歴史的に軍の指導部に批判的で、軍の包括的な改革を提案してきたことで知られる。だが近年は、蔡政権が国防部をまとめる軍幹部と密接な関係を築いたことから、軍に対する批判的な姿勢はかなり弱まっている。その分かりやすい例が厳の存在で、かつて軍の上級将校だった彼を国防部長に抜擢したのは蔡自身だ。 かつて装甲旅団の司令官を務め、今は野党・国民党系の団体を率いる于は言う。「台湾の軍隊をまともにしたければ、政治家を喜ばせることしか考えないタイプではなく、本気で兵士のことを考え、どうすれば戦場で勝てるかを真剣に考える人材を防衛のトップに据えるべきだ」 国際戦略研の常も、台湾の防衛能力をことさらに誇示する蔡政権の姿勢には問題があると語る。彼のみるところ、蔡政権の体質は敗北主義で、中国との関係は(軍隊ではなく)政治で解決すればいいと考えている。 「本音の部分では、現政権は台湾が軍事力で中国に対抗するのは無理だと考えている」と常は言う。「今の強硬姿勢は見せ掛けにすぎない。アメリカから買った最新兵器を誇示するだけで、本当に中国が攻めてきたらアメリカが助けてくれると信じ、そういうシナリオに懸けている」 しかし台湾の新聞を読むまでもなく、中国側のスパイは台湾軍の兵士が兵員輸送車の部品をネット通販で探しているのを知っている。台湾軍がまともに戦える状態にないことも把握している。しかし、それで台湾の軍人には祖国防衛の覚悟がないと結論するのは間違いだ。于は言う。 「退役軍人の1人として、これだけは言える。わが軍の兵士や将校団の祖国防衛に懸ける決意には一点の曇りもない。いざ戦場に立てば、彼らは立派に任務を果たす。たとえ装備が足りなくても」 From Foreign Policy Magazine

https://news.yahoo.co.jp/articles/ef93145f0379781d1ea87b9b92c7a832d4014a6d?page=4

ニューズウィーク日本版


PDF