<PCR検査を担当する「臨床検査技師」は、国家資格の専門職で「臨時増員」が難しい>

アメリカは、下手をすると新型コロナウイルスの「第3波」となりそうな気配もあります。春に東海岸と太平洋岸で発生したピーク、夏に南部や中西部で発生したピークに続いて、全国における新規陽性者の数は再び上昇に転じているからです。 【写真特集】ポルノ女優から受付嬢まで、トランプの性スキャンダルを告発した美女たち ですが、社会は意外と平静です。その理由としては、PCR検査の件数が爆発的に増加しており、検査を受けたい人はほぼ受けられるようになったという点があると思います。 例えば、ジョンズ・ホプキンス大学のデータによれば、アメリカの場合、現在ではほぼ1日に120万件の検査数となっています。 一方で、日本の場合ですが、厚労省としては、PCR検査の最大検査能力としては、7万5026件(暫定値、10月24日時点)プラス検疫所における検査能力が1万300件(抗原定量検査)となっています。これ自体が決して多くないわけですが、実際の検査数は平日の場合は1日平均2万人程度で推移しています。つまり、アメリカの60分の1というわけです。 この検査数については、アメリカの投資関係者などから、日本のコロナ対策は優良だと思うが、検査数が少ないのでどうしても確証がつかめないということで、「どうして日本はもっと検査をしないのか?」と何度も聞かれました。 <「なぜ日本は検査しない?」> その都度、これは別に隠すためではないし、日本の場合は超過死亡数も大きくないことを説明しているのですが、なかなか納得してもらえません。その一方で、どうして検査数を抑制しているのかということでは、日本国内では様々な議論があるようです。 抑制の理由としては、偽陰性の人が過度に安心して感染を拡大するとか、反対に偽陽性の場合にその接触者に対するトレーシング発生などの問題が出るからという説明がされています。ですが、感染拡大をするという点では、偽陰性の人も、無検査で実は陽性の人も大差はないと考えられます。 つまり、検査数を増やすことで、偽陰性の人がウイルスを撒き散らすマイナス効果が、陽性者が発見されて感染抑止につながるプラスの効果を相殺してしまうとは考えにくいわけです。確かに偽陽性という結果は余計なコストになるでしょうが、それを加えてもプラス効果を打ち消すほどではないと思われます。 検査数については、安倍前総理が8月28日に行った「今後のコロナ対策および辞任の意向等についての安倍内閣総理大臣記者会見」で明言していますが、政府は1日20万件の検査体制を目指すとしています。また検査数拡大によって陽性者が増加しても社会的に対応できるように、「今後は政令改正を含め、運用を見直します。軽症者や無症状者は宿泊施設や自宅での療養を徹底し、保健所や医療機関の負担軽減を図ってまいります(同会見より、原文のまま)。」という方針が示され、菅内閣に継承されています。

<「専門職は正規雇用」>

そうではあるのですが、現時点では検査数は増えていません。その理由ですが、予算不足だとか、いや健保の医療費抑制策が原因だとか、色々なことが言われています。この点に関して言えば、もっと本質的な雇用体系の問題だと考えるのが、一番しっくり来るのではないかと思います。 それは、検査業界や保健所の問題でもなく、医療関係の専門職とか国家資格という問題を越えた、もっと大きな「専門職の定員」という考え方にあるように思います。 日本のPCR検査において常に課題となっているのは、採取した検体を分析する要員には限界があるということです。その作業に従事するには、「臨床検査技師」という国家資格で、これは多くの場合4年制の大学で専攻した後、国家試験を受けて取得するものです。 それだけではダメで、PCRなど遺伝子検査の場合は「2年程度の実務経験」があって一人前となります。ですから、人材の絶対数が限られています。厚労省も、そのことは理解していて、必要な人材を育成する努力はしています。また、「臨床検査技師」になって、遺伝子検査の分析業務に従事すれば、高給とまでは言えないものの正規雇用としての保証が得られます。 問題は、日本の雇用体系の中に「専門職は正規雇用」というと強い縛りがあり、同時に「正規雇用は時給換算で非正規雇用より上」というヒエラルキー制度も色濃く残っているという点です。その上で「正規雇用はコスト的に固定費なので、厳しく定員を管理する」というのが官民共通のマネジメントになっています。 <正規雇用の臨時増員は困難> 専門職の中でも、個人の裁量が大きく、個人事業主にできるような弁護士や会計士などは別ですが、一般的に反復作業を伴う現場の業務で、しかも高度な知識と資格を要求するような職種の場合は、この雇用体系に入ってきます。 つまり、PCRの分析要員は「正規雇用の専門職」なので「定員」がある、従って「数年単位で収束するかもしれないパンデミック」へ対応するための「臨時」の増員というのは難しいわけです。現場が既得権にしがみついて増員を拒んでいるというわけではなく、とにかく制度として臨時の増員ができない仕組みになっていると考えられます。 菅首相は、秋以降はインフルの流行が重なることも考えて検査体制を整えると言っていますが、この問題はそう簡単ではないと思います。専門的な業務を安く買い叩くようでは、結果的に人材の質が下がって仕事の精度が失われてしまいます。ですが、現在のような定員に縛られた体制では対応ができないわけですから、期間限定で有資格の経験者への再研修、再雇用を行うとか、様々な検討がされているのだと思います。 それがある程度形になったところで、対策案をしっかり公表して社会的な認知を得ること、その上で雇用体系を工夫して業務のピークに対応するということは、コロナ後へ向けて日本が国際社会での信頼を更にリードしていくためにも必要だと思います。

https://news.yahoo.co.jp/articles/48df0daf30e6350dae6907f8bb8e2a7b79d7679a?page=2

ニューズウィーク日本版


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