日本でアニメ史に残る爆発的な人気となっている『鬼滅の刃』は、同時進行で米国のファンも魅了している。ただ、ここに来て、次の世界的なブームの主役となりそうな作品がでてきた。『呪術廻戦』。米国を始め、世界各地で急速にファンを増やしている。米国ニューヨークで、日本の漫画とアニメ人気の最前線を追った。(山本大輔) 【写真】NYの書店にみるアメリカの『鬼滅』ブーム

NEW ARRIVAL(新着)の棚には、漫画『Demon Slayer(鬼滅の刃)』の18巻が置かれていた。キャラクターの鬼殺隊士・栗花落(つゆり)カナヲが描かれた表紙を始め、中身も全て日本語原作とほぼ同じ。違うのは、全てが英語に訳されていることだ。 米ニューヨーク・マンハッタンにあるアメリカ紀伊國屋書店本店。店舗の2階は、日本が世界に誇る漫画やアニメ関連のイラスト集、フィギュアなどを販売する専用フロアになっている。 「一番売れている英訳漫画は、Demon Slayerです。単価もそんなに高くないので、売れ方がものすごい。売上額については公表できないが、1日に何冊も出ることがあり、補充の注文が大変なくらいです。圧倒的な人気です」 そう説明してくれた、高野耕太郎店長(38)によると、鬼滅の刃の英訳版第1巻が米国で発売されたのは2018年7月。いまや日本で国民的ともいえる鬼滅ブームの火付け役となった同作品のアニメ放送が日本で始まった2019年4月よりも前だった。購入していく人は、現地の米国人。英訳版が出版されるまでは、同店で同様に取り扱っている日本語原作の漫画を買っていく人もいたと言うから、熱狂ぶりに驚く。 ただ、米国を含む海外では、配信サービスなどでアニメを見てから漫画を買い始める傾向が強い。日本のコンテンツを世界各国に配信している米大手クランチロール社(有料会員約300万人、登録者数約7000万人)の統計によると、鬼滅の刃が視聴作品ランキングで世界のトップ20に入り出したのが19年夏以降のため、米国で鬼滅人気が高まり始めたのも、アニメ配信を受けてからだと見られる。

「コレクターズアイテムとしても魅力」

せっかくなので英訳版の第1巻を購入した。価格は税抜きで9.99ドル。日本円に単純換算すると1000円ちょっとになり、日本語原作の約2倍の価格だ。それでも米国のアニメファンにとっては高くないのだという。鬼滅の刃の主役キャラ、竈門(かまど)炭治郎の大ファンだという米国人男性(28)に話を聞くと、「伝統的なアメリカン・コミックの単体価格はもっと安いものもあるが、日本の漫画はページ数が多いし、ボリューム感が違う。しかも英訳という手間もかかっている。それ以上にコレクターズアイテムとしても魅力があるので、10ドルの価格設定はむしろ安いと思う」と話した。 このコレクターズアイテムとしての需要が、米国でのアニメや漫画の人気ぶりを物語っている。同店では、アニメグッズも販売しているが、鬼滅の刃のキャラクターフィギュアは1体134.99ドル(約1万4000円)。それでも漫画同様によく売れるという。ちなみに、グッズ販売などで人気のキャラは、炭治郎と禰豆子(ねずこ)の竈門兄妹。また、日本では空前のヒットとなり、米国では来年に上映予定の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』で存在感を示した煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)の人気も急上昇中なのだという。 高野店長によると、英訳版の漫画は米国独自の複雑な出版・流通構造に組み込まれて販売される英文書籍の扱いとなっている。英訳版漫画の多くは、日本の出版社と連携する米国の出版社が翻訳出版し、米国の書籍流通会社を通じて市場に出る。そのため、全米で15店ある紀伊國屋書店などの日系店に限らず、米国最大手のバーンズ・アンド・ノーブルや、ニューヨーク老舗古本店のストランドブックスストアなど現地の有名書店でも広く取り扱われている。 また、価格設定も米国の仕組みに従い、地元の出版社などがつけている。原作を日本から輸入して米国で販売する場合は、日本での価格を基準にして米ドルに為替換算されることが多いが、それとは全く異なる現地のルールで英訳版は現地の市場に流通しているのだという。 実際にストランドブックスストアを訪れてみると、2階の1角にある3棚が「MANGA(漫画)」のためにあてがわれていた。『ドラゴンボール』、『進撃の巨人』、『BORUTO-ボルト-』、『DEATH NOTE』、『ONE PIECE』。日本でもロングランで人気のある作品の英訳漫画が並んでいるが、シリーズでそろっているものは見つからない。鬼滅の刃は1冊も見当たらなかった。 こうした作品は米国でよく知られており、紀伊國屋書店でも人気作品となっている。ただ、シリーズ全てを読みたい人や、日本で最新のアニメ、漫画を早く知りたい人には地元書店の品ぞろえは物足りない。ニューヨーク本店だけで英文漫画数千種類、1万冊以上の在庫を誇る紀伊國屋書店が、日本の漫画やアニメ人気を米国で広める存在の一つになっているのは間違いなさそうだ。 米国の1日の新規感染者が連日14万人を超える新型コロナウイルスの影響で、ニューヨークでも商業施設から客足が著しく遠のいている。地元の大手書店同様に一般の英文書籍販売にも力を入れている同店でも、多い月で約2万人いた購入者が約1万人に半減。それでも漫画、アニメ関連商品の購入者数はコロナ前とあまり変わっておらず、コロナ禍の現在は同店全体の約50%を占めるという。そんな中での鬼滅ブームに高野店長は「本も売れるし、グッズも売れる。我々にとってはありがたい存在です」と笑顔だった。

『呪術廻戦』 新ブームへ盛り上がり

紀伊國屋書店ニューヨーク本店では、次々と生まれるアニメ作品に対する現地での意識や需要を分析しながら、商品構成やプロモーション、あるいはイベント企画などを展開している。高野店長とともに、その中心となっているのが、漫画・アニメ階の責任者で同店アシスタントマネジャーのアレックス・ベニグノ氏(26)だ。 「米国内での鬼滅の刃の人気は、来年の全米での劇場版公開にあわせて第2波がやってくるのは確実です」というベニグノ氏だが、「鬼滅を除けば、いま米国で最も勢いがある作品がある」という。『呪術廻戦(英語名:Jujutsu Kaisen)』。「すでに人気が出ていますが、米国ではアニメが始まってから漫画が売れるので、今後さらにブームが来ると思います」と強調した。 日本で今年10月にアニメ放送が始まったばかりの呪術廻戦は、人間の呪いの感情が生み出す霊「呪霊」と闘う呪術師の物語で、鬼滅の刃と同じように『週刊少年ジャンプ』掲載の人気漫画だ。日本で普段は漫画やアニメを見ない人までブームに取り込まれている鬼滅の刃ほど人気が沸騰しているわけではないが、少年ジャンプの読者やアニメファンらからは、すでに注目を集めている作品となっている。その日本での人気ぶりが早速、米国でも現れている。 アジア地域以外で呪術廻戦のアニメを独占配信しているクランチロールによって、米国でも日本と同時進行で毎回の放送を視聴することができる。同社広報によると、配信に先駆けて8月からプロモーションを展開したほどの肝いり作品だ。初回放送時には、米国やフランス、スペインやメキシコのツイッターでトレンド入りしたというからものすごい。「すでに各国で盛り上がっている」と喜ぶ同社では、フェイスブックとインスタグラム、ツイッター上で呪術廻戦専用のアカウントを立ち上げており、米国だけでフォロワーは18万人を超えているという。 日本に戻ったら見られないと思い、クランチロールで呪術廻戦の第8話「退屈(Boredam)」を視聴してみた。配信されている映像は日本で放送されているものそのもの。吹き替えはせずに、字幕で英訳を流しているだけなので、声優の声もオリジナルのままだった。スペイン語、フランス語、ポルトガル語、アラビア語、イタリア語、ドイツ語、ロシア語の字幕への切り替えができる。さらにこれとは別に、英語などの外国語に吹き替えられた配信動画も用意されていた。 配信動画の下に、視聴者からコメントが続々と書き込まれていた。「(配信日の)金曜日って、こんなに興奮できる日だったんだね」「毎週金曜日はハイパーアクティブになってしまう」「毎回の視聴まで7日間待ち続けるのがつらい」「待っている7日間は長いのに、放送はあっという間に終わってしまう」 コメントの量があまりにも多くて、画面を下にスクロールしつづけても終わりが見えない。なかには、「物語の展開がほとんどない今週の回は時間の無駄だった」などという厳しいコメントもあったが、それも含めて視聴者の関心は極めて高かった。 鬼滅に続く世界的ブームが来るのだろうか。クランチロールのオリジナル・事業開発(日本・アジア担当)を率いるジュリアン・ライハン氏は、こう強調した。 「クランチロールは10年以上にわたり日本のアニメを世界に配信しています。現在は7000万人を超えるファンが日本での放送とほぼ同じタイミングで最新エピソードを楽しんでいます。呪術廻戦は、最近の私の記憶の中でも最も期待されている作品の一つです。4カ国のツイッターでトレンド入りするなど、その反応は非常に大きく、急速に人気を得ています」

https://news.yahoo.co.jp/articles/5e85d774b90d7fc78644d41e1af556b864b00d84?page=3

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