42センチの巨大な足跡

 1810年の1月、旅行中の会社員が、アメリカのオレゴン州のコロンビア川沿いで、長さ42センチ、幅は24センチほどもある巨大な足跡を発見したという記録が残されている。その大きさは人々を非常に驚かせ、その主に関して「クマ」や「太古の猿人の生き残り」など様々な説が検討された。

 それから200年以上経った今でも、「ビッグフット」はアメリカやカナダで目撃され続けている。こう呼ばれることになったのも、姿は見えずとも巨大な足跡は確認できたというケースが非常に多かったからだ。  こういったUMA(未確認生物)に関する議論は、たいてい極端な意見が飛び交う。  テレビや書籍が未確認生物を扱う場合、送り手側も受け手側も「絶対にいる」もしくは「いてほしい」という思いを抱いていることが多い。そのため、肯定的な情報ばかり提示するものが大半だ。  その一方で「UMAはいない! インチキだ」と断言するアンチのメディアも少なくない。両者の意見は時にぶつかり合い、歩み寄る可能性は低い。  筆者自身は、「ビッグフットが実在していてほしい」と強く思っている。しかしここでは出来るだけ冷静に、肯定・否定のどちらか一方に偏ることなく、ビッグフットの生態やこれまでの目撃情報についてまとめてみたい。

毛むくじゃらの巨大な獣人

ビッグフットのイメージ写真[Photo by iStock]

 ビッグフットとは、身長2~3メートルの巨体を持つ毛むくじゃらの獣人である。ただしこれは平均的なサイズであり、目撃情報談の中には10メートル近いサイズのビッグフットを見たというものもある。  ゴリラなどと違って、常に直立の二足歩行をしていることから、非常に人間に近い存在であると考えられている。そのため、我々人類の先祖である猿人や、ネアンデルタール人などが生き残っており、それがビッグフットの正体であると唱える研究者も多い。  目撃報告が多いことから、アメリカでは「ビッグフッター」と呼ばれる熱狂的なファンも数多くおり、ビッグフットを題材にした映画やコミック、玩具なども登場している。  ビッグフットの歴史は、ある意味アメリカの歴史よりも古い。  アメリカ合衆国が成立する以前から、先住民の間では「サスカッチ」という名で獣人の存在が伝わっていて、それがビッグフットを指していると考えられたからだ。その後も冒頭のように、ビッグフットやその足跡の目撃した記録が残されている。  「ビッグフット」という名称が広く使われるようになったのは、1958年以降のこと。北カリフォルニアの建設現場で複数の足跡が発見され、その写真を通信社が全国規模で報道したことで、名前が広まったという。

ビッグフットをとらえた疑惑の映像

 そしてビッグフットの目撃事件としてもっとも有名なのは、1967年10月20日にロジャー・パターソンとボム・ギムリンという2人の男性がした体験である。彼らはその年の夏にビッグフットの足跡が発見されたカリフォルニア州のブラフ・クリークという場所で、ビッグフットを捜索していた。そして、実際にビッグフットを目撃しただけでなく、16ミリの映画フィルムで撮影することにも成功したのだ。  近年は、真偽はともかくとして未確認生物を撮影した映像が多く出回り、テレビやネットを賑わせている。だが、1960年代には未確認生物を捉えた映像もまだ数少なく、あったとしてもかなり不鮮明に映っているものが多かった。2人が撮影した映像にはビッグフットの姿が鮮明に映し出されており、ビッグフッターはもちろんのこと、世界中の未確認生物ファンを熱狂させた。  2人の証言によると、ブラフ・クリークにある川の近くを捜索していたところ、異様な悪臭を感じたという。臭いのするほうに目をやると、2人から30メートルほど離れた川の対岸にビッグフットが立っていたのだ! パターソンは慌ててバッグからカメラを取り出すと、撮影しながらビッグフットに向かって走り出した。  最初のうちは、走りながら撮影したため画面が揺れていて、ビッグフットの姿もハッキリとは映っていない。だが、その後はカメラも固定されて、移動するビッグフットの姿をハッキリと捉えている。ビッグフットは撮影者を襲うようなこともなければ、慌てて逃げ出すようなこともなかった。堂々と歩いて、一度だけカメラのほうを振り返った後、藪の中へと消えていった。 動画内でパターソンらが撮影した映像が使われている  発表された映像を巡っては、その真偽を巡る論争が今も続いている。  映っている生物が、ゴリラやオランウータンのような類人猿ではないのは確かだった。つまり、本物のビッグフットか、精巧な着ぐるみを着た人間によるフェイク映像のどちらかである。  映像が撮影された1967年は、映画『猿の惑星』公開の前年。ビッグフット肯定派は、莫大な予算を掛けた大作映画の映像と比較してもリアルに見えることから「この映像は本物である」と主張した。  2020年現在でも、この議論に決着はついていないが、フェイク説を支持している人間のほうが多いのが現状だ。というのも、「この映像に登場するビッグフットの着ぐるみを作った」「着ぐるみの中に入った」と告白する人物も現れているからだ。しかし、彼らが着ぐるみを制作したという証拠写真や映像などは出てきていないため、彼らの証言こそがフェイクだという再反論もある。

都市伝説化するビッグフット

アメリカに実在する「ビッグフット注意!」の標識[Photo by iStock]

 興味深いのは、パターソンが撮影した映像が話題になってから、ビッグフットの目撃例が急増したことだ。単に目撃報告の数が増えただけではなく、目撃されるエリアも広がった。それまでは人里離れた場所での目撃例が大半であったのに、1970年代に入ると、ミシガン州、ペンシルベニア州、フロリダ州など人口密度の高い州でもビッグフットが見られるようになったのだ。  人気の少ない場所ならともかく、人口も多いエリアに2メートル以上の生物がいたら、簡単に確認どころか捕獲されてしまうように思うのだが……。  人口密度の高い場所に度々出現しながらも、未確認生物であり続けるビッグフットの正体に対しては、不可思議な仮説も続出している。宇宙人説、異次元の生物説、妖精説などである。ただの猿人ならとっくに捕獲されてしまっていただろうが、宇宙人や妖精なら、今の人類の科学力では捕獲出来なくても不思議じゃないというわけだ。  筆者は、生物としてのビッグフットの存在は否定できないと思っているが、1970年代以降のビッグフットは都市伝説的存在としての側面が強まったとも考えている。わざわざ人気のない山奥にまで探しに行かなくとも、町に突然やって来る妖怪のような存在に変化したのだ。かつて日本でも社会現象になった口裂け女や人面犬のようなものである。  都市伝説にはどんどん尾ひれが付いていく。10メートル近いサイズのビッグフットが登場したり、UFOから降りてきたビッグフットも目撃されるようになった。

続々と寄せられる「目撃情報」

 今なお議論が続くパターソンの撮影した映像であるが、その後はあまりクオリティーが高くない(一目で作り物とバレる)ビッグフット映像も続々と公開されている。  なかには、ビッグフットの撮影に十数回成功したと語り、自分が撮影したビッグフット映像をまとめたビデオを販売する者まで現れた。ある意味、ビッグフットは1つのビジネスとなったのかもしれない。それだけ撮影に成功できるのなら、物的証拠(体毛など)も入手できるだろうし、然るべき機関と連携すれば捕獲だって出来ると思うのだが、当然そのような動きはない。  近年話題になったビッグフット映像としては、2017年に公開された「ビッグフットを食べる男」 がある。  これは、アメリカのニューヨーク州でドックトレーナーをしているピーター・ケインという男性がネット上に公開した動画で、本人がビッグフットの巨大な手や足などをフライパンで炒めて、口にしている様子が収められている。  一体どうやってビッグフットの肉を入手したのか? ピーター曰く、1953年に父親がビッグフットを射殺して、その死体を冷凍保存していたのだと言う。  60年以上もの時を経て、そのことを公表し、肉を解凍して食べ始めた理由は不明だ。何の生物の肉であろうと、60年も前のものを食べようとは普通だったら考えないと思うが。  この動画は大変な反響を呼んだが、本気で本物だと信じている人はほぼいないだろう(ピーターは、DNA鑑定を行うことも検討していると語っているが、3年経った今も鑑定したという話は聞かない)。  ビッグフットと何度もコンタクトをしていると語る呪術師もいる。ビッグフットについて特集した雑誌の記事やドキュメント番組などにも登場しているマーガレット・カールソンという女性で、アメリカのカリフォルニア州にあるレッドウッド国立州立公園で、何度もビッグフットに遭遇しているらしい。  彼女の話によると、ビッグフットは別次元の世界からやってくる存在であり、人間の前に現れるのは何かを貰いたい時であるらしい。マーガレットはビッグフットが現れると、魚かタバコを与えているという。それらを与えると、ビッグフットは満足して、別次元に帰っていくらしい。ビッグフットは愛煙家だったのだ! …という珍しい目撃例である。

「イエティ」より有名になった裏事情

イエティのイメージ写真[Photo by iStock]

 これだけ多くの目撃情報が寄せられるようになった背景を考察する場合、他のUMAと比較すると理解しやすい。  ビッグフットはネッシーに次ぐ知名度を持つ未確認生物である。しかし、特に40代以上の方は「ネッシーに次ぐ未確認生物と言ったら、あれじゃないの?」と思ったのではないか。  1990年代頃までは、未確認生物を扱った書籍やテレビ番組で、ネッシーに次いで紹介される機会が多かったのは、ヒマラヤ山脈で目撃される雪男「イエティ」であった。 イエティもビッグフットのように二足歩行で移動する獣人であり、むしろビッグフットが「アメリカ版イエティ」と語られることもあった。  雪男と言うのは、イエティが目撃されるエリアが雪で覆われていたことから付けられた名称であるが、日本でも1970年代に広島県で、未知の獣人が目撃された際には「日本の雪男」としてメディアで取り上げられた。  しかし、今では世界各地で目撃される獣人が「〇〇のイエティ」と言われることは少なくなった。それはイエティの知名度をビッグフットが上回るようになったことが原因だと、筆者は考えている。  イエティと比べると、ビッグフットは写真や映像が多く残されている。かつては「〇〇を見た人がいる」という話だけでも、テレビや書籍で大きく扱われていたが、現代は写真や映像がないと取り上げられる機会も少ない。  一般の人が気軽に足を踏み入れるにはハードルが高いヒマラヤ山脈と比べたら、アメリカのかなり広いエリアでも目撃されているビッグフットは新ネタも次々に登場しやすい。  フェイク映像を作る人間にとっても、ヒマラヤ山脈にまで行くより、近所で気軽に撮影できるビッグフットのほうが題材として選びやすかったのだろう。  さらに、人間の知らない未知の秘境があり、そこに怪物が棲んでいるというロマンをかつての人々は本気で抱いていた。だが、地球の隅々まで探検されグーグルアースなどで世界中を見渡せる時代となってしまうと、人が足を踏み入れられないような秘境に住む未確認生物にはリアリティーを持てなくなったのだろう。だからこそイエティはUMAとしての人気を失っていったと考えられる。  どうせ、秘境に住む未確認生物が信じられないのなら、すぐ身近な世界から突然現れる妖怪やビッグフットのような、いつも隣にいるのに見えない存在を欲すように、人々は変わっていったのではないだろうか。ビッグフットの目撃情報については、こういった分析も可能なのである。  どれだけ科学的に否定されても、我々が「未確認生物の存在を信じたい」と思う気持ちを失うことはない。ビッグフットの歴史は、人間が持つ信念の強さを教えてくれる。だからこそ、科学技術が発達し多くの人がUMAにリアリティーを感じられなくなった現代でも、筆者は「それでも地球上のどこかにいるかもしれない」と思い続けていられるのだ。  「別次元からやって来た」説や「UFOに乗ってきた宇宙生物」説も面白いとは思う。しかしそういった突飛な説を持ち出す前に、自分の信念に従ってみてもいいのではないだろうか。ビッグフットという未知の生物が、今も地球上のどこか人目につかない場所で生きているという仮説は、まだ真剣に検証するだけの価値があるはずだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/686498a410b173fb222b738f9591fe0dc16cd0c7?page=1

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