中国の覇権的な拡張主義がアメリカ、日本やフィリピン、インド、オーストラリア、台湾などと激しい摩擦を繰り返している。北大西洋条約機構(NATO)もその行動を問題視する。2020年11月には、来日した中国の王毅国務委員兼外相が、沖縄県・尖閣諸島を自国領土とみなした発言を繰り返し、物議を醸した。


【本記事の写真を見る】APFS労働組合の組合員とスマホで連絡をとる執行委員長の山口智之氏
 中国国内における民主化運動への抑圧も各国から批判を浴びている。政府の圧力が極めて露骨な形で見えるのは、香港だ。2020年6月、香港での反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法(国家安全法)」が、中国の全国人民代表大会常務委員会で可決・成立した。12月2日には、違法集会を扇動した罪などに問われた民主活動家の周庭氏らに、香港の裁判所が実刑判決を言いわたした。  このような動きに、数年前から抗議活動をする日本の左翼活動家がいる。  2020年6月21日には、新宿に集まり「香港に自由を!  連帯行動」と謳った抗議デモを行った。APFS労働組合(注)、ATTAC首都圏、ジグザグ会、LACC(反資本主義左翼講座)、NO-VOX Japanといった団体である。  日本の左翼活動家は、戦後長らく基本的に中国政府に親和的であった。例えば米ソ冷戦時代、アメリカなど自由主義陣営の動きには反対を表明するが、ソビエトや東欧諸国、中国や北朝鮮、キューバの圧政や粛清、人権抑圧に抗議することは少なかったのではないか。その意味で、左翼活動家の最近の中国政府への抗議は注目に値する。その1人である、APFS労働組合(東京都新宿区)執行委員長の山口智之氏に取材を試みた。  (注)APFS労働組合  母体は、外国人支援団体の特定非営利活動法人「ASIAN PEOPLE’S FRIENDSHIP SOCIETY(略称:APFS)」。1987年に設立された団体で、外国人からの相談や人権擁護の提言、それに関する啓蒙活動を続ける。組合員は現在約60人。約9割は外国人で、平均年齢は30代前半。国籍はミャンマーが最も多く、7割ほど。それにパキスタンやインド、エチオピアなどが続く。同労組は、個人でも加盟することができる。2007年の結成以来、日本労働組合総連合会(連合)、全国労働組合総連合(全労連)、全国労働組合連絡協議会(全労協)といったいわゆる3大労組には参加していない。外国人労働者の支援に特化し、労組としては独自路線を歩んでいる。

■ 皇室には当然反対、自衛隊と安保にも反対  吉田 山口さんは、いわゆる「左翼」と受け止めてよいのでしょうか。「活動家」だったのですか。  山口 今も、周囲からは左翼と見られていると思います。学生時代の頃(1980年代)、左翼の「過激派」と言われる組織に入っていました。警察からは「極左」と言われるセクトで、ブント(共産主義者同盟)の一分派である戦旗・共産同の学生組織にいました。成田空港(千葉県)の2期工事に反対し、三里塚闘争などに関わっていました。アジトに寝泊まりをしていたから、警察から時々、ガサ入れをされることがありました。逮捕歴もあります。あの頃、三里塚は戦争状態だったのです。  吉田 皇室や自衛隊、日米安保についてのお考えは?   山口 皇室には当然、反対。自衛隊、日米安保にも基本的に反対です。私が10代の頃までは自民党の一党長期政権の時代であり、物心ついた頃から自民党が嫌いでした。自民党が社会の不正義の根源だと考えていました。  吉田 その頃は、左翼過激派=新左翼と言われていた時代ですね。古典的な左翼とも言える日本共産党の青年組織・民主青年同盟とは、ぶつかっていたのでしょうか。  山口 私たちは反日共系のセクトですから、民青同盟とは小競り合いになることがよくありました。大学は中退し、その後、30代前半までは市民運動を支えることをしていました。例えば、獄中に囚われた新左翼活動家の救援活動などです。その後、労働運動をする知人を支援する中で、現在の労組に関わるようになりました。 ■ 中国の覇権主義は明確な形で進んでいる  吉田 なぜ、今、中国政府の香港への介入に抗議をしているのでしょうか。

 山口 私や知人の左翼活動家の中には、中国政府や中国軍(人民解放軍)の近隣諸国への言動に懸念する者が以前からいました。中国は、「実効支配の現状を軍事力で強引に変えようとする」意味での拡張主義や覇権主義をとってきました。例えば、香港やフィリピンの南シナ海の南沙諸島、インドとの国境紛争、日本の(沖縄県)尖閣諸島などです。現在も、中国政府の覇権主義は極めて明確な形で進んでいます。私はその姿勢に強い疑問を感じるし、反対をしてきたいと思っています。  香港では、2019年10月に「警察の暴力の責任追及」などをしていた学生が警察に撃たれました。これは明らかにひどい。この一件に限らず、中国共産党は自分たちが作った政府、あるいは国、社会、秩序を壊されたくないがゆえに、それに対して異議を唱える人びとを抑圧、粛清したいのだろうと思います。  香港のデモを日本で見聞きしている最中に、かねてからの左翼活動家と連絡を取り、我々メンバーで中国政府に抗議の意志を示そうとなったのです。そして2020年6月に新宿でデモを行いました。デモ行進する私たちに、香港在住と思える人が声援を送ってくれました。右翼的な心情、思考を持っているような人が飛び入りで加わり、ともに抗議の声をあげました。  吉田 日本のような高度な民主国家では、政治思想や立場を超えた形で市民運動が広がるべきと思いますが、なかなか難しいようですね。日本の憲法の前文を踏まえれば、現在の中国政府の覇権主義には、右翼から左翼まで、自民党から共産党まで、挙国一致で強硬に抗議を続けるのが望ましいと思いますが、いかがでしょうか。  山口 私も、そうあるべきとは思います。そのような意識は、左翼のほうがある意味で遅れているのかもしれません。右翼は、中国国内の人権抑圧について前々から抗議をしているようです。  6月に新宿でデモをした我々は左翼思想を持ってはいますが、現在は各自が既成政党や特定の市民運動、セクトからある程度は解放されていると思っています。一方、特定の政党や運動、セクトに強い影響を受けているメンバーが足並みをそろえ、中国政府に抗議活動をすることは難しいのです。 ■ 「自由、民主」より「平等」を重視していた  吉田 日本の左翼は、伝統的に中国政府に抗議をしませんね。人民の自由や人権が広い範囲で奪われているにもかかわらず・・・。それでいて、日本国内では自由や人権を主張する。矛盾がありませんか。  山口 その傾向はあるのでしょうね。理由の1つには、おそらく中国政府への遠慮があると思います。かつての私もそうですが、日本の左翼には毛沢東(国家主席)に敬意の念を持つ人は少なからずいます。「革命家としてすごい人なんだよ。その人が作った中国は晴らしいんだ。その国を全面的に批判することはできない」といった意識です。現在は、そこまで露骨に言う活動家は少なくなっているのですが、心の中では思っている人はいるでしょう。  もう1つの理由は、日本の左翼は「平等」と「自由、民主」などの双方を求める意識が希薄だったことです。貧富の差をなくすなど平等を長年求めてきました。一方で自由や民主のために積極的に社会に働きかけることをあまりしてこなかったと思うのです。左翼活動家の中には国会議員になり、一定の社会的地位や収入を得ると、平等を求める志すら失い、堕落してしまう人もいました。  吉田 ご自身の中で「平等」と「自由、民主」を求めるバランスはどうだったのでしょうか。

 山口 想像の域を出ていませんが、(中国共産党や中国の企業と自民党の一部の議員との間に)何らかの利権があるのではないか、と思います。私は政治家の経験があるわけではないからお答えするのが難しいのですが、やはり、自分たちの利権に関わる相手に明確に拒絶することは難しいのではないか、と推察します。政治的イデオロギーや理念とは別のところで、政治は動く場合もあるでしょう。  吉田 本来、すべての政党、右翼や左翼も中国政府の覇権主義には一枚岩になって抗議を続けるべきですね。ところが、それができない。自由や民主を守ることを国是としている国なのに、残念なことです。  山口 私もそれはよく考えるのです。先ほど話したように、政治的な思想やセクトに必要以上に影響を受けていると、活動をする際に足並みをそろえるのは難しいと思います。例えば、我々のデモに日章旗を持って参加をするのはよくないし、我々が赤旗を持参し、右翼的な人のデモに参加するのはトラブルになるでしょう。  活動家は政治思想の右や左を問わず、最も大切な自由や民主を体を張って守る、というところの一点で共闘できるのが理想だとは思います。そのような単純な思いでこそ取り組むべきなのでしょうね。そういう人の方が、むしろいろんな活動に熱心です。 ■ 実効支配を軍事力で脅かすべきではない  吉田 今後、左翼活動家として中国の覇権主義にはどのように対処しますか。さらにお聞きしたいのは、日本の左翼がよく口にする「話し合いで解決」は可能なのかということです。  山口 おそらく、現在の拡張主義、膨張主義は止まることはないだろうと私は考えています。しかし、(日中の)軍事力で決着をつけることには反対します。一方で、中国政府と外交での話し合いでどこまで解決できるのかはわからないものがあります。北朝鮮がその象徴だと思いますが、話し合いで拡張主義、膨張主義を(日本政府が)止めることができるのかと問われれば、難しいと言わざるを得ないでしょう。  例えば、尖閣諸島は日本政府が実効支配をしていますが、仮に中国政府が軍事力で奪おうとして人民解放軍を差し向けてくるとします。その時、尖閣を守るために最終的に前面に出ていくのは米軍なのだろうと思います。私は長年「日米安保反対」と主張してきました。けれども、反対をしているだけで自由や民主が守れるのだろうかと思うのです。  私はかつてのように革命を求めるような大きな物語はもう考えていません。自分のできる範囲で、自由や民主を守るために抗議活動は続けていきたいと考えています。  吉田 最後にお聞かせください。人民解放軍が尖閣諸島をはじめ日本に侵攻してきた時にどうされますか。  山口 当然、中国に反対する立場をとるでしょう。いかなる理由があろうとも、実効支配という現状を軍事力で変えようとしてはならない。中国政府に限らず・・・。実効支配をしている以上、それを脅かすべきではないのです。現場を動かしてはならない。その意味での「現実」には介入してはならないのです。  これは尖閣諸島に限らず、中国の周辺国すべてに言えることであり、世界のあらゆる国や地域に言えることだと思います。強引に動かそうとすれば、必ずトラブルになる。私は、10年程前にはこういう考えを持ってはいなかったのですがね。 ■ 取材を終えて~「リベラル」の本来の姿とは  日本では、左翼と見られる人たちに深刻な矛盾がある。特に活動家や研究者、作家、ジャーナリスト、政治家、報道機関の記者や番組制作者に目立つ。この人たちの一部は、自らの政治的な立場を「リベラル」と位置付けているようだ。  「リベラリズム」とは自由主義のことである。あらゆる強制、束縛、特定の思想信条、偶像から自由でいることだ。ところが、彼らの多くは「反自民党」「反米」「反自衛隊」「反日米安保」「反大企業」という強固な信条が束縛になってしまっている。そこに矛盾がないか。あらゆるものを虚心坦懐のまなざしで見つめ、問題があるならば事実に基づいて指摘し、時に批判するのが自由を守る姿勢だ。それが、リベラルの根幹を成すものなのだと私は思う。  たとえシンパシーを感じる国の政府であろうとも、国内で人民を抑圧し、粛清しているならば問題視すべきだ。他国に軍事的な圧力をかける場合は批判し、その行為が確実に止まるまでしつこく激しく非難し続けるべきだ。これこそがリベラルの姿勢であり、憲法の前文を踏まえた平和外交なのではないか。山口氏からは、それを感じた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/f515eefc9f569ab1ec4aca3272e63270a1ccd280?page=4

JBpress

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