■ ワクチン初投与とバイデン当選正式確定  米国で12月14日、新型コロナウイルスワクチンの接種が始まった。  米国の感染者・死者数は、いずれも世界最多。累計の死者数は30万人を突破した。  ワクチンの供給量が限られる中、当局は医師や看護師といった感染や重症化のリスクが高い患者の接種を優先させている。  今春以来、明日にも接種ができるかのような独り善がりの「希望的幻想」を振りまいてきたドナルド・トランプ米大統領も短くツイートした。  「最初のワクチンが投与された。おめでとう米国!」  さすがに「俺がやった」とはツイートするのは気が引けたのだろう。  保守系でトランプ支持派の政治学者の一人は「トランプ氏はコロナで負けた。コロナがなければ勝った」と筆者に未練がましく語った。  この日、憲法で規定されている次期大統領を正式に決める各州の選挙人投票が実施され、ジョー・バイデン氏の当選が確定した。  これまでバイデン氏の勝利を認めようとしなかった議会共和党トップのミッチ・マコーネル上院院内総務は15日、バイデン氏の大統領選勝利を認め、祝辞を述べた。  11月3日の投開票後、バイデン当確を真っ先に打ち、トランプ氏から「フェイクニュース」と罵られたCNN、その看板コメンテーターは声を弾ませてこう報じた。

 「コロナのワクチンがついに投与された。ワクチンが救世主になるかどうか、まだ分からない。だが、先の見えなかったトンネルに一筋の光が差し始めた」  「この日、バイデン氏の当選が正式に決まった。選挙人が憲法に基づいて一般投票の結果通りに票を投じた。1月20日に向けての新しいモメンタムが確立した」  (https://www.nytimes.com/live/2020/12/14/world/covid-19-coronavirus? campaign_id=57&emc=edit_ne_20201214&instance_id=25040&nl=evening-briefing®i_id=69368345&segment_id=46938&te=1&user_id=17632edeee5f827919dd90a37562ab3c#health-care-workers-breathe-a-sigh-of-relief-as-they-receive-the-first-vaccinations) ■ コロナ禍は21世紀3大カタストロフィの一つ  ぬか喜びはできない。  新型コロナウイルスの勢いは収まるどころか、強まる一方だ。  12月16日現在、世界規模での感染者数は7452万6806人。死者数は165万5044人。約100年前のスペイン風邪による死者数は数千万人といわれている。  コロナ感染数はすでにスペイン風邪感染者数を超えている。誤解されることを承知で言えば、それでも死者数を160万人台に抑えているのは現代医学と最前線で戦っている医療関係者の献身的な努力によるものだろう。  経済活動維持か感染阻止かで優柔不断な対応に終始している政治家たちへの人々の期待は遠の昔に消えてしまっている。  (https://www.worldometers.info/coronavirus/)  指導者が「マスクは役に立たない」とほざいても、感染の拡大を防ぐために世界中の人たちがマスクを着用し、人と人が接触する機会をできるだけ減らすソーシャル・ディスタンシングを実施している。  無論、トランプ氏のように科学的根拠もないのにこれを拒否する指導者もいた。  後述する米ジャーナリスト、ファレード・ザカリア氏は、コロナ禍のパンデミックについてこう定義づけている。

 「9・11の米東部中枢同時多発テロ、リーマン・ショック、そしてコロナは21世紀の米国(そして世界)を襲った最大の危機、カタストロフィだ」  感染阻止に失敗している指導者たちにはその現状認識が欠如しているとしか思えない。  日本からの報道で知ったという米シンクタンクの政治学者は筆者にこうコメントしている。  「国民には三密の徹底をお願いしながら、自らは与党重鎮や野球関係者、芸能人ら数人と長時間飲食に興じる一国の宰相がいたらしい」  「招かれた民間人も断るべきだよ。こういう指導者は『トランプ並み』としか言いようがない」  「米国でも能天気な指導者がいる。マイク・ポンペオ国務長官が国務省に900人を招いてクリスマスパーティーをやろうとした」  「しかし、集まったのは数十人。その後、ポンペオ氏は感染者に接触したといって自主的に隔離生活に入っているそうだ」  「コロナは、産業革命以降の社会を根底からひっくり返そうとしている。仕事、人的接触、社交、ショッピング、健康管理、教育現場、家族・親族関係など、ほぼすべての行動様式を根本的に変える必要がある」  「その根本を分かっていないようだ。ぼた餅的に総理大臣になった無能な政治家が馬脚を現してしまったということだ」  普段は菅義偉首相の動向についてはあまり報道しないワシントン・ポストやブルムバーグ通信といった米主要メディアも「会食」を皮肉っぽく報じている。  (https://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/japan-coronavirus-suga-dinner-masks/2020/12/16/65461082-3f5e-11eb-b58b-1623f6267960_story.html)  (https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-12-16/steak-dinner-party-could-worsen-woes-for-japan-s-premier-suga)

■ 感染拡大阻止で問われる国家のクォリティ  コロナ禍が進行中、パンデミック以後の世界を語るのは気が引けるが、今英語圏の知識層の間で読まれている本がある。  閉塞状況下での「頭の体操」とでもいうべきか。  タイトルは「Ten Lessons for A Post-Pandemic World」。  前述のザカリア氏の新著だ。同氏はムンバイ生まれのインド人で、ハーバード大学で博士号を取得。  「文明の衝突」で一切を風靡したサムエル・ハンティントン氏の薫陶を受けたジャーナリスト兼政治思想家で、ワシントン・ポストのコラムニストとして健筆を振るっている。  同氏は、コロナは現在存在するグローバル世界における加速要因(アクセス)だとの仮説を立てて、劇的に変化するパンデミック以後の世界を予見している。  10の教訓とは、環境破壊、政府機能、マーケット、専門家・一般大衆、デジタル化、ソーシャル・アニマル(社会的動物としての人間)、社会的平等、グローバリゼーション、世界両極化、現実主義・理想主義。  政府の機能の章では、コロナ感染拡大を阻止したかに見えるウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアと習近平国家主席の中国、これに対し、拡大を阻止できない米国、英国、フランスといった民主主義国家とを比較している。  「コロナの世界的拡散の最大の原因は、発生当時のデータの公開を渋り、遅らせた共産党一党独裁国家の中国の責任である」  「独裁体制を敷いていたから拡散を抑えたわけではない。独裁国家のイラン、トルコ、ブラジルは散々だった」  「民主主義国家が独裁国家に屈服したわけではない。民主主義国家でも当初は、ドイツ、デンマーク、オーストリアは拡散を抑えていたし、ベルギー、スウェーデン、英国はうまくいかなかった」  「台湾や韓国は権威主義的な政策をとることなく早期にコロナを沈静化させた」  「問題は、イデオロギーや国家の規模ではない。国家の質(Quality)なのだ。優秀な官僚に支えられた政府の政策立案能力、機能力、国民から信頼された政府だ」  「その政府を効果的に動かせる政治家のリーダーシップだ。コロナ感染拡大阻止にはイデオロギーは無関係なのだ」  「米国のトランプ政権には政策立案能力も結合力もなかった。特に米国の場合、公衆政策を担当する当局は、連邦、州、郡市町村の2600の役所が存在し、連邦政府のトップダウンの政策実施は極めて困難だった」

■ コロナ禍の遠因はグローバリゼーションか  パンデミックを引き起こした背景には、グローバリゼーションがあるとの指摘がある。  グローバリゼーションは、ヒト、モノ、カネ、情報が国境を越えて移動、生産のサプライ・チェーン化を加速させ、IT企業をはじめとするテクノロジー産業を主役に単一の価値基準、つまり金融キャピタリズムによって世界を極限まで合理化してしまったというのだ。  その副産物として富めるものと貧しいものとの格差が拡大し、社会的脆弱性を堆積させた。そこにコロナが入り込んだ、という仮説だ。  (https://thinktank.php.co.jp/voice/6305/)  ザカリア氏はこう主張する。  「グローバリゼーションにより世界中の人々は計り知れないほど恩恵を受けてきた。だが同時に安全装置をつけないレースカーのように超スピードで進歩・発展を続ける人類によって脅されてきた」  「パンデミックは新世界への扉を開いた。グローバル・キャピタリズムによって豊かになった富裕層はもはやその恩恵を受けることはなくなる」  「ネオリベラリズムの時代はラジカルな変革期に入るだろう。各国政府は貧富の格差を是正する経済によりアクティブに取り組まざるを得なくなる」  「政府は公共サービスを投資として考え、再分配をアジェンダに盛り込む。富裕層だけが得てきた特権は検討の対象になる」  「政府がすべての国民に一定の現金を支給するベーシック・インカムと富裕者対象課税を検討する時期がやってきた」

https://news.yahoo.co.jp/articles/f4e31665e7a8eef18df057a130e7066ee3fad6a3?page=4

JBpress


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