「桜を見る会」を巡って秘書が東京地検特捜部に立件された安倍晋三前首相。24日の記者会見に続き、25日には衆参両院の議院運営委員会で釈明に追われた。国会でのウソの答弁が露呈するなか、秘書が悪いと言い張る安倍氏に、有権者の視線は厳しく、冷たくなる一方だ。 そんな安倍氏が首相を退いた今年9月、手放しで褒めちぎった人々がいる。中国だ。 中国最大のSNS、「微博(ウェイボー)」には9月16日、大勢の官僚たちに見送られて首相官邸を去る安倍氏を伝える1分あまりのニュース映像が投稿された。映像は約70万回再生され、「良いリーダーだ」「尊敬に値する」「立派な政治家」など、安倍氏を持ち上げるコメントがずらりと並んだ。 尖閣諸島問題などを抱えて関係が冷却化している中国の人々がなぜ、安倍氏を高く評価したのだろうか。日中関係に詳しい大学教授は「国家による世論工作の結果だ」と語る。 中国は元来、韓国と並んで「安倍嫌い」で知られた国だった。2013年12月、安倍首相が靖国神社を参拝したことに、中国側は激怒。14年11月に北京で行われた日中首脳会談冒頭冒頭の記念写真では、習近平中国国家主席は仏頂面で、安倍首相と握手しながら視線を合わせようともしなかった。中国メディアは当時、日本が進めていた安全保障法制を厳しく批判しながら、安倍政権の崩壊を期待する論陣を張った。 ところが、安倍政権が中国との協調をうたった新たな三原則の提唱など、徐々に日中関係改善に舵を切り始めた。中国も南シナ海問題などで国際的な孤立を深めていた事情もあり、日本との関係改善を模索し始めた。 その際、「大悪人」として宣伝してきた安倍首相のイメージを改善する必要にも迫られた。安倍首相への国民感情が悪いままでは、関係改善の障害になると考えたからだ。外務省幹部は「中国人は実利主義。歴史認識問題でも韓国と異なり、現実的な対応をするところがある」と語る。 2017年7月の日中首脳会談では、それまでと異なり、安倍・習両氏が両国の国旗を背景にして握手する写真が公表された。中国側が会談を公式に認めるというサインだった。このころから、中国メディアでの日中首脳会談の扱いも、スペースが大きくなり、紙面の目立つ位置に配置するなど、目に見えて良くなった。 いつも中央政府の顔色をうかがっている中国地方政府や民間の人々は、「日本との交流を拡大しても大丈夫ということか」と理解し、世間の安倍首相に対する感情もみるみる改善していった。その結果が、安倍首相退任時の微博の反応だった。 もちろん、中国の人々がお上の顔色ばかりをうかがっているというわけでもない。微博には「余力を持っての引退は立派だ」という趣旨の書き込みもあった。これは、「終身皇帝」を目論んでいると揶揄される習近平氏に対する皮肉だろう。

「官邸1強」から権力分散へ

一方、私たち日本人も、安倍氏を批判する際、どうして第2次安倍政権が7年8カ月余りも続いたのか、いま一度振り返る必要がある。 微博に投稿された安倍首相退任時の映像では、当時の菅義偉官房長官ら、首相官邸のホールにあつまった官僚たちが約1分間、一心不乱に拍手を送り続けるシーンが収められている。 霞が関官僚の1人は「今、我々の間ではやっている言葉は、おっしゃるとおりでございます、だよ」と自虐的に教えてくれた。常に忖度が要求されるなか、永田町の政治家たちに意見することなど考えられないという。常に永田町に怒られないことを優先するため、政策を創造する余裕もなくなり、若手を中心に退官者が相次いでいるという。「今や、自分たちが国を背負っていると考えていた、かつての中央官僚の気骨などどこにも残っていない」と語る。 悪いのは官僚たちだけではない。この話を、今も永田町と付き合いがある元政府高官にしたところ、「おまえも、自分の胸に手を当てて考えてみろ」と叱られた。元高官に言わせれば、新聞や雑誌、テレビなどほぼすべてのメディアの政府に対する舌鋒が最近、厳しくなっているという。元高官は「なぜだか、わかるか」と尋ねながら、すぐ自分の見解を披露した。 元高官の見立てでは、安倍政権時代は、「官邸1強」だった。官邸の機嫌を損じればたちまち情報が枯渇するため、メディアもおっかなびっくりにならざるを得ない。 しかし、今は二階俊博自民党幹事長が菅政権発足に大きな影響力を発揮したことからもわかるとおり、権力が官邸と自民党、あるいは「安倍・麻生と菅・二階」といった構図に割れている。情報源が分散してくれるため、取材する立場からは、「官邸に嫌われても党がある」というように若干の余裕も生まれ、必然的に論調も厳しくなっているのではないかという指摘だった。 官僚であろうとメディアであろうと、権力を持つ者に忖度する姿は情けない。同時に、安倍前首相に対する論調の変化は図らずも、自民党の内紛激化を予告しているのかもしれない。

https://news.yahoo.co.jp/articles/28aa95497c69a2bad4d20fc10e8b8395be25ddf6?page=2

Forbes JAPAN


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