韓国国会で北朝鮮に向けたビラなどの散布を禁止する改正法が成立し、国内外の批判を呼んでいる。韓国国内の「表現の自由」を制限し、北朝鮮住民が体制の問題点や国外の状況を知る貴重な機会も奪うとの観点からだ。北朝鮮に融和的な文在寅(ムンジェイン)政権は法改正の必要性を強調するが、米国で来月、人権問題を重視するバイデン政権が発足することを踏まえ、米韓同盟への悪影響を懸念する声も出ている。 【写真で見る・完璧な北朝鮮】かえって現実感わかず  波紋を広げているのは、14日に成立した「南北関係発展に関する改正法」。ビラなどの散布や、軍事境界線付近からの拡声器による呼びかけなどが禁止され、違反した場合は3年以下の懲役または3000万ウォン(約280万円)以下の罰金に問われることになった。  脱北者団体によるビラの散布を巡っては今年6月、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹、金与正(キムヨジョン)党第1副部長が突然談話を発表し、激しく非難。その後、北朝鮮は2018年以降の南北融和の象徴だった開城(ケソン)の南北共同連絡事務所を爆破した。  韓国統一省は金与正氏の談話が出たその日に、法改正の可能性に言及。6月末には与党「共に民主党」の議員が法改正案を発議した。約半年後の12月14日、国会で3分の2近い議席を持つ与党が、野党の反対を押し切る形で強行採決して成立させた。  法律を所管する韓国統一省は、体制批判を含むビラ散布は北朝鮮を刺激し、軍事境界線付近に住む国民112万人の生命と安全が危険にさらされると主張。表現の自由より、国民の生命を優先すべきだとの理屈だ。北朝鮮の言いなりになっているという意味で「金与正下命法」と批判されていることについては、「08年から一貫して法改正を目指しており、北朝鮮の要求によるものではない」と説明する。  しかし、米下院の人権に関わる超党派組織の共同委員長を務める共和党のクリス・スミス議員は今月11日、「深刻な憂慮」を表明し、公聴会を開く意向を示した。知韓派の議員が集まる「コリア・コーカス」共同議長のジェラルド・コネリー議員(民主党)も17日、非難声明を出すなど、党派を超えて懸念する声が出ている。米政府系放送「ボイス・オブ・アメリカ」は「北朝鮮の住民が事実に基づいた情報に接することはとても重要だ」とする米国務省関係者のコメントを伝えた。  国連で北朝鮮の人権問題を担当するトマス・キンタナ特別報告者も韓国紙「東亜日報」に寄せた論評で「民主主義社会の基盤である表現の自由に基づく行為に対し、懲役刑を科すのは行き過ぎだ」と指摘。施行に先立ち、「民主的な機関」で再検討することを求めた。  韓国統一省担当者はキンタナ氏のコメントに「表現方法を最小限の範囲で制限した。国会で民主的な議論、審議を通じて改正したものだ」と反論。康京和(カンギョンファ)外相も16日、米CNNのインタビューで「表現の自由は絶対的なものではなく、制限できる」と主張した。法改正を進めた与党側は「韓国に対する内政干渉だ」(報道官)とさらに強く反発している。  統一省は月内に予定される公布から3カ月後の施行までに、どのような行為が「ビラなどの散布」にあたるのかの解釈を定めた指針を作成し、在外公館などを通じて国際社会へ説明するとしている。一方、東亜日報は社説で「韓米同盟、北朝鮮の核問題解決にも悪影響を与える」と懸念を示し、京郷新聞は「米韓の対立につながらないように綿密に対応すべきだ。積極的な説明努力が必要だ」と注文をつけた。【ソウル渋江千春】

https://news.yahoo.co.jp/articles/a527e3005659c19649208c9fc83f1eeb114abfb1

毎日新聞


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