トランプ大統領は1月7日、動画による短い声明で「20日には新政権ができる。円滑な政権移行に傾注する」と述べ、これまで拒否し続けてきた“敗北宣言”に踏み切った。大統領の扇動で支持者らが議会を占拠した事件では、罷免や弾劾の可能性が取り沙汰されており、バイデン次期大統領の勝利を認めることで、政治的な苦境からの「逃げ切り」と「保身」を図ったと見られている。

「議会史に残る暗黒の日」とペンス副大統領

 6日に発生したトランプ氏支持者らの議会占拠については、「米英戦争時の1814年8月に英軍が議会に侵入して以来の暴挙」(米連邦議員)といわれるほどの衝撃だった。議会は米民主主義の象徴であり、それだけに社会全体からの反発も強い。  バイデン氏は「民主主義や法の支配への攻撃だ。議会に侵入した者たちはデモ隊ではなく、反乱者、テロリストだ」と述べ、「トランプ大統領が煽った」と非難した。米議会で7日未明、バイデン氏の大統領選勝利を最終的に宣言したペンス副大統領も「暴力は勝利しない。議会史上に残る暗黒の日だ」と暗に大統領を批判した。大統領との“決別”が決定的になったとの見方が強い。  米メディアによると、今回の事件に対しては、民主党だけではなく、共和党からも厳しい声が上がっている。かねてより大統領に批判的なロムニー上院議員が「事件は大統領により扇動された反乱だ」と非難したのを始め、「これはクーデター未遂だ。大統領のレガシーは酷いものになるだろう」(キンジンガー下院議員)、「分断を煽ってきたトランプ氏の醜悪なやり方の結果だ」(サス上院議員)といった具合だ。  暴徒と化したトランプ支持者らによる議会襲撃はバイデン氏の勝利への異議申し立ての審議中に発生したが、この事件でバイデン氏当選に反対を表明していた共和党のロジャーズ下院議員ら何人かが反対を取りやめ、バイデン氏の当選に賛同する側に回った。それでもなお、共和党の140人弱の下院議員がバイデン氏当選に反対を表明したのは同党がいかに“トランプ党化”しているかを浮き彫りにしたものだろう。  議会が「民主主義の砦」という誇りを持っている民主党のペロシ下院議長は怒り心頭だ。議長は上院のシューマー上院院内総務と7日会見し、憲法25条を発動してトランプ大統領を罷免するようペンス副大統領に呼び掛けた。議長は大統領の任期が13日しかないことを指摘しながら、「残りの日々がホラー・ショーになりかねない」と危機感を露わにし、シューマー氏も「トランプ氏は一日も大統領にとどまるべきではない」と述べた。  憲法25条の規定は「大統領が職務不能と判断された場合、副大統領と閣僚の過半数が議会にその旨通告し、罷免することができる」というもの。大統領が異議を申し立てた場合は、上下両院のそれぞれ3分の2以上の賛成で大統領の罷免を決めることが可能だ。ニューヨーク・タイムズはペンス副大統領が拒否したようだと伝えている。  ペロシ議長はペンス氏が応じなければ、大統領の弾劾を検討するとして、ウクライナ疑惑での弾劾に続き、2回目の弾劾手続きを進める意向も示した。だが、実際問題としては残りの任期がわずかな中で、弾劾に持ち込むのは事実上不可能。大統領に圧力を掛けるための政治的な動きと見られている。  トランプ氏を見限っているのは連邦議員だけではない。政権の閣僚や幹部も批判的な姿勢を強めている。チャオ運輸長官は議会占拠を「看過できない」として11日付で辞任すると表明。デボス教育長官も7日、この問題で辞表を提出した。ポッティンジャー大統領次席補佐官、マシューズ副報道官らの辞任も伝えられている。7日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは社説で、トランプ氏に辞任を要求した。

「死ぬ気で戦え」

 トランプ大統領は議会占拠事件が起きる前、ホワイトハウス前の集会で支持者らに約1時間にわたって「自分が圧勝していたのに、選挙が盗まれた」と陰謀論の持論を展開、議会に通じるペンシルベニア通りを行進し、バイデン氏勝利確定の審議に抗議するよう呼び掛けた。大統領は演説の中で「死ぬ気で戦え」とまで煽った。  メディアによると、集会には大統領の個人弁護士のジュリアーニ氏や息子たちも参加して演説した。それぞれ「戦闘で試してみよう」(ジュリアーニ氏)「気概を示せ。議会まで行進しなければならない」(次男のエリック氏)などと扇情的な発言が相次いだ。支持者らがこうした発言に触発されたのは間違いないところだろう。  襲撃事件後、トランプ氏は当初、しばらくは沈黙し続けた。しかし、国内ばかりか、英国など海外からも厳しい批判が沸き起こったことで、事の重大性に気付いたのか、6日夜になって1分間の動画を発表。議会を占拠した暴徒を非難するどころか、「特別な人たち」と呼び、「みんなの気持ちは分かるが、法と秩序が必要だ。帰宅するように」と訴えた。  トランプ氏は7日になって、投稿凍結が解除されたツイッターに2分半の動画を発表。議会侵入を「悪質な暴力」などとやっと非難する一方で、新政権が20日に発足するとして初めて敗北を宣言した。大統領は「素晴らしい私の支持者たちが失望していることは分かっている。だが、われわれの旅が始まったばかりであることも知ってほしい」となだめた。  大統領は2024年の次期大統領選挙への出馬を検討しており、次のステージの政治活動を示唆することで、支持者の期待をつなぎとめようとしたと受け止められている。だがワシントン・ポストによると、ワシントンの連邦検事は議会占拠事件では、トランプ大統領の扇動も捜査対象になることを明らかにしており、退任後の同氏に対する容疑が1つ増えた形だ。  米紙によると、トランプ氏はここ数日、自身の恩赦が可能かどうか、側近らと協議しているというが、今回の扇動の容疑を念頭に置いたものかは明らかではない。大統領を支持する右派メディアなどの間では、議会を襲撃したのは、極左集団の「アンティファ」がトランプ支持者を装って実行したもの、との陰謀論があふれ、トランプ擁護論も強まっている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/dcd78f8c2a9094071b0401d0d3298a2e4e2ed4b8?page=2

Wedge

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