バイデン次期大統領の就任式を1月20日に控えるワシントンDC市内の雰囲気は、一変している。議会議事堂、最高裁判所、ホワイトハウスなどの重要防護施設周辺には、近隣州から動員された州兵たちが、検問所を設置して警備にあたる。 主要な交差点や道路にはコンクリートブロックが設置され、中心地への車の乗り入れ、駐車は禁止されている。人通りも、警備関係者のほかは時折、ジョギングの人が通りかかるくらいで、議会周辺は閑散としている。 近隣のレストランは、もともと新型コロナの影響で市当局が屋内飲食をすべて禁止していることもあって、営業しているところは少ない。 規制エリアだけなく、近接するエリアの駐車場もロックダウンされることになり、入庫中の車両は、規制解除まで動かせなくなった。今後は、規制エリア内の地下鉄の駅も閉鎖され、ワシントン名物の赤色のレンタサイクルのステーションも使用禁止となる。 周辺エリアも、車両の乗り入れ、駐車、地下鉄の閉鎖、はてはレンタサイクルまで禁止することで、移動手段を奪い、実質的に人が入って来ないようにしているのだ。 「生きてここを出られないと覚悟した」(民主党アレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員)。襲撃があった議会議事堂には高さ2メートルのフェンスが取り囲むように設置されていた。 議会周辺の警備は、日を追うごとに強化されていて、次々に到着する大型バスが州兵を運び込んでいる。その数は最終的には2万人に膨れ上がる予定だ。議会の廊下や前庭では、非番の州兵たちが雑魚寝で休息をとるのが日常の風景となりつつある。

首都ワシントンはまるで要塞

新型コロナウイルスで低調だった市内のホテルも、政府機関から一気に200人分の宿泊予約が入ることがあるなど、降って湧いた特需で息を吹き返している。 市内には、州兵のほかに、FBI連邦捜査局、ATF米司法省アルコール・タバコ・火器取締局、近隣州の州警察、議会警察、公園警察、連邦保安官などの法執行機関の捜査官、特殊部隊が危機に備えている。いま、ワシントンは、さながら要塞のようだ。 警備にあたる州兵を取材しに議事堂周辺に行ってみると、ある変化に気づいた。 今月6日に投入された当初は、銃も警棒も盾も携行しない軽装備(というより丸腰)だったが、今では、自動小銃を携行していた。一部は防弾ベストも着用している。 当初は、自国民に銃を向けることを避ける配慮の方が優先されていたが、武装した極右団体がワシントン市内での集会を呼びかけている中、兵士の自己防衛を考えれば、ある程度の武装は止むを得ないー。そんな判断が働いているのだろうか。

実は、6日の議会占拠の際に、議会警察やワシントン市当局からの度重なる州兵動員の要請を、国防総省は少なくとも6回、断っていたことが明らかになっている。 米陸軍の将軍は「すぐに派遣してくれ、というが、州兵を闇雲に派遣して事態が急変、悪化したら、どんな問題が起きるかわからない」と難色を示し、州兵の応援を切望する議会警察側を苛立たせたという。 軍の側の懸念はこうだ。州兵は基本的には、軍事訓練を受けて軍事的論理で動く実力部隊であり、警察はまったく機能も発想も異なる。警察組織が、自己、相手、周辺も含めて、犠牲を出さずに目的を完遂することを目指すのに対して、軍事組織は、死傷者や犠牲が出る前提で作戦行動をおこなう。 警察が、暴動の鎮圧といった、市民と直接対峙するシナリオの訓練を受けているのに対して、州兵は、基本的には戦闘訓練を受けているだけで、暴動鎮圧は主任務ではない。 そんな組織を、軽々に自国民に危害を加えることになりかねない状況に投入したくない、というのが国防総省の懸念だ。その意味では、州兵は警察部隊よりも抑制的であるともいえるかもしれない。

暴徒を殺傷せずに鎮圧するシステム

だが、そんな州兵も、自己の対処能力を超える混乱となると判断すれば、実力行使に出ることは十分にあり得る。 その場合、まず使用されるのはActive Denial System(ADS)やLong Range Acoustic Device (LRAD)と呼ばれる非殺傷システムだと言われている。 どちらも暴徒を殺傷せずに鎮圧するためのもので、ADSはマイクロ波を照射し、火傷を負わない程度の熱を皮膚に感じるようになっているのに対し、LRADは、人間の耳に不快な高周波の音を遠距離から発信することができる。 米軍の実験映像を見ると、マイクロ波を照射された人は即座に顔を背けて、耐えられずその場を離れていく。耐えがたい不快な熱による痛みや不快感で、暴徒を無力化しよう、というものだ。 LRADは、黒人差別反対デモが全米各地で起きた2020年6月にポートランドやシカゴ、ニューヨークなどで、実際に警察によって使用された、と言われている。 そして2020年6月1日、ワシントンDCでも黒人差別反対デモが激化した際に、LRADやADSの使用が俎上にのぼったことを、ワシントンDC州兵の少佐が下院に内部告発している。 この少佐が担当弁護士を通じて下院に提出した告発文によれば、ワシントンDCの州兵司令部が、一度はLRADの貸与を軍から受けるかどうかを検討したこと、ワシントンDC市警察がLRADを保有していること、が明らかにされている。 軍が保有するLRADは、ワシントンから車で40分ほどのクアンティコ海兵隊基地に保管されている、と少佐は指摘しており、ワシントン市内に迅速に展開することは難しくないだろう。 ちなみに少佐の告発文には、ホワイトハウス周辺でのデモが激化した昨年6月に、5.56ミリ弾と7.62ミリ弾の実弾7000発がワシントンDC州兵の武器庫に運び込まれていた事実が記されている。デモ隊に対して実弾を使用するシナリオにも州兵司令部は備えていたのである。 続編となる「米議会占拠事件の衝撃【3】」では、事件の容疑者から浮かび上がるトランプ支持者の特徴と、20日の就任式に向けて緊張が高まる中、警備体制に潜む意外な“リスク”について、考察する。


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