<英紙の報道通り、東京オリンピックは中止の情勢か>

[ロンドン発]イギリスで猛威をふるう感染力が最大70%も強い新型コロナウイルスの変異株(イギリス株)について、ボリス・ジョンソン英首相は22日の記者会見で「感染の広がりが速いだけでなく、高い致死率と関連している可能性がある」と警鐘を鳴らした。数値にはまだ不確実性が残るものの、イギリス株の感染者の致死率は65%上昇したとみられるという。【国際ジャーナリスト・木村正人

同国では3度目のロックダウン(都市封鎖)で新規感染者数は急減、80歳以上の71%と高齢者介護施設入所者の3分の2を含む540万人(成人人口の10分の1)に1回目のワクチン接種を終えた。イギリス株に現在のワクチンは有効だが、さらに変異が大きい南アフリカ株やブラジル株には効かない恐れがある。 このため英政府は南米、ポルトガル、アフリカ諸国を対象に水際作戦を強化している。 ジョンソン首相は「1日当たりの新規感染者数は4万261人。現在入院しているコロナ患者は3万8562人で、昨年4月の最悪期より78%も高い。悲しいことにさらに1401人が死亡した。これらの主要因はイギリス株だ」と述べ、2月中旬までに上位4つのハイリスクグループ1500万人への1回目の接種を終えることを最優先にする基本戦略に変わりはないことを強調した。 ワクチン接種の判断はそれぞれ個人に委ねられているとはいうものの、こう釘を刺した。「接種の知らせが届いたら、予約して自分の命を救う保護を受けることをためらわないで下さい。これは私たち全員がこのウイルスを打ち負かして私たちの日常生活を取り戻すための最良かつ最速の方法だから」。ジョンソン首相はなりふり構わず「社会防衛」としてのワクチン接種を鮮明に打ち出した。 <南ア株とブラジル株に既存のワクチンは効かない> パトリック・ヴァランス英政府首席科学顧問は「数値には多くの不確実性があり、正確に分析するにはさらなる作業が必要だが、イギリス株により感染性が増すとともに致死率が増加することが明らかに懸念される」と述べた。その上で南ア株とブラジル株について「ワクチンの影響を受けにくくなる可能性を示す特定の特徴を持っている」と指摘した。 経済的な影響を恐れ早期の封鎖解除を求める保守党内強硬派の声を抑えるため、英政府の新興呼吸器系ウイルス脅威諮問グループ(NERVTAG)はすぐに「イギリス株に感染すると他の株よりも死亡するリスクが増す現実的な恐れがある」と結論付ける報告書を公表した。複数大学や公衆衛生当局の分析でイギリス株と他の株の致死率について明らかな有意差が確認されたという。

60歳で致死率30%アップ

その分析結果を見てみよう。

・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院 イギリス株感染者の致死率が35%増(検査を受けた120万人が調査対象。死者2583人、このうち384人がイギリス株感染者) ・インペリアル・カレッジ・ロンドン 同36%増 ・エクセター大学 同91%増 ・イングランド公衆衛生サービス(PHE) 同65%増(イギリス株感染者9万2207人と同数の他株感染者が調査対象) <不揃いの分析結果は何を物語るのか> 不揃いの分析結果をどう見ればいいのか。 NERVTAG のメンバーで感染症数理モデルのスペシャリスト、英インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン教授は「60歳の場合、他の株に感染すると1000人に10人が死亡するのに対して、イギリス株では1000人に13人が死亡する恐れがあるということだ」と英メディアに対して解説している。60歳なら致死率は30%アップするということだが、その意味をもう少し見ていこう。 NERVTAG の報告書について、英エジンバラ大学のローランド・カオ教授(獣医疫学・データサイエンス)は次のように語った。「提示された証拠はイギリス株に感染した個人はより高い割合で死亡することを示唆している。死亡の増加は、入院したコロナ患者がより多く死に至るのではなく、より多くの患者が重症化して入院した結果だと説明されている」 「イギリス株は特にロンドン周辺で見られる病院での予想以上に高い逼迫の原因と思われる。従って感染者数の減少を示す最近の結果は朗報であり、イギリス株は都市封鎖など既存の対策によって制御可能であることを示唆している。死亡に関するこれらの結果は、病院の負担が引き続き大きく、より長期間の制限が必要であることを意味している」 英レディング大学のイアン・ジョーンズ教授(ウイルス学)は「ウイルスの感染率が上昇すると致死率が高くなる恐れがある。しかし致死率が1%であろうと1.3%であろうと、少数の人々にとって非常に危険なウイルスであり、回避するのが最善だという事実に変わりはない。回避は封鎖措置を厳守し、ワクチン接種の機会が与えられたらすぐに接種する意欲によって達成される」と呼びかけた。 <さらなる変異で再感染の恐れ> 英ウォーリック大学医学部のローレンス・ヤング教授(ウイルス学)は「最近の実験で、イギリス株は米ファイザーと独ビオンテックが共同開発したワクチンを接種した患者の抗体によって細胞への感染を阻止できることが確認されていることを強調することが重要だ。しかし南アとブラジルで特定された変異株はウイルスのスパイクタンパク質にさらに多くの変異をもたらすため、心配だ」と言う。

「東京五輪は無理」の意味

「実験室の研究では、これらの変異により、南ア株とブラジル株は免疫防御を逃れる可能性があり、現在のワクチンの有効性に影響を与えるだけでなく、以前に感染した個人が再感染する可能性を高める恐れがある」と懸念を強めた。 英イーストアングリア大学ノリッジ医学部のポール・ハンター教授(疫学・公衆衛生)は「致死率の増加の可能性についての結論は、本質的には同じデータを使って異なるグループによって行われた分析から導き出される。異なる分析の間で推定される死亡リスクの増加にはかなりの違いがあるものの、大半が死亡リスクの増加を示している」と分析する。 そして「エビデンスの質が最も高いと考えられるイングランド公衆衛生サービス(PHE)の分析結果は基本的にイギリス株に感染すれば他の株より28日以内に死亡する可能性が65%高いことを意味している。本当に残念な発見だが、新規感染者数が急速に減少していることを考えると、今後数週間で死亡者数が減少し始める可能性がある」と締めくくった。 英紙タイムズ電子版は21日、日本の与党幹部の声として「2032年に再び東京五輪・パラリンピック開催のチャンスが与えられる可能性を残して面子を保ちながら、中止を発表する道を探っている」と報じている。 コロナ対策は国境管理の強化、都市封鎖を含めた社会的距離政策、ワクチン接種の組み合わせに尽きる。菅義偉首相は18日の施政方針演説で「コロナに打ち勝った証として、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい」と繰り返したが、ウイルスが急激に変異し始めた現状を直視すると、中止発表はもはや「時間の問題」と言えるだろう。 (おわり)

https://news.yahoo.co.jp/articles/be87fdb4e75b13dad91a8db794070e3ca800288c?page=3

ニューズウィーク日本版


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