大手通信会社ソフトバンクの第5世代(5G)の移動通信システムをめぐり、ライバル会社の楽天モバイルに転職した技術者の男が、大容量で高速通信が可能な5Gなどに関するソフトバンクの営業秘密を流出させたとして1月、警視庁に逮捕された。業界の技術競争激化の一端も浮き彫りになったが、転職時に情報を「手土産」として流出させる同種事件は後を絶たない。専門家は、社員のモラル意識の醸成に加えて物理的なシステム整備の重要性を訴える。(吉沢智美)

【表】海外の企業に不正に技術情報が流出した主な事例 ●規範意識の欠如

「(業界には)モラルというものがないのか」。捜査幹部がこうあきれるほど、今回の営業秘密の「持ち出し」は、度を超えたものだった。  不正競争防止法違反容疑で警視庁に逮捕されたのは合場邦章容疑者(45)。平成16年7月にソフトバンクに入社し、電気通信関係資格の一つで難関とされる「線路主任技術者」の資格を保有し、携帯電話の基地局整備などを担当していた。  基地局整備を手がけることができる技術者は、業界内では貴重な存在。人材の獲得競争も激しく、合場容疑者にも知人の紹介で楽天モバイルへの転職の誘いが来たとみられる。

 犯行は、その誘いを受けてソフトバンクに退社の意向を伝えた令和元年11月下旬から、楽天モバイルに転職する前日の12月31日までの約1カ月間に実行された。自らに与えられた権限でアクセスできる情報を私用パソコンにメールに添付する形で持ち出していたという。アクセスは約30回に上り、持ち出したファイルは約170点に及んだ。  情報は、5Gの基地局整備に関するものなどで、ソフトバンクの高度な「営業秘密」。合場容疑者が楽天モバイルで業務に使っていたパソコンには、こうした情報が保存され、捜査関係者によると、同僚らと共有されていた可能性もあるという。 ●業界の競争激化も  流出の背景には、業界内の競争激化も一因にあるとされる。  5Gのサービスは、ソフトバンクとNTTドコモ、KDDI(au)の大手3社が昨年3月から運用を開始。一方で、楽天モバイルは半年ほど遅れた同年9月にサービス提供を開始していた。4Gの通信網も整備途中の段階で、業界関係者は「大手3社と比べて明らかに遅れていた」と解説する。  5Gの普及には、より多くの基地局を効率的に張り巡らせることが重要とされており、合場容疑者が持ち出した情報は事業者にとって、「最も囲わなければならない貴重な情報」(関係者)ともいえるという。  今回の事件について、楽天モバイルは「前職により得た営業情報を弊社業務に利用していたという事実は確認していない」としているが、ソフトバンクは「利用された」と主張。利用停止や廃棄を目的とした民事訴訟も検討しているという。  捜査関係者は「現に(楽天モバイルの合場容疑者のパソコンに)持ち出し情報が保存されており、使用の有無は別として、転職の際の手土産とした側面もある」と話している。 ●他業種でも  こうした転職時の情報の持ち出しは、他の業界や業種でも懸念されている。  警察庁によると、営業秘密侵害事件の摘発件数は平成25年は5件だったが、28年は18件、令和元年は21件と右肩上がりだ。  大手総合電機メーカー「東芝」の半導体研究データが韓国のメーカーに流出した事件で平成26年に警視庁に逮捕された提携先の技術者の男は、給与などの待遇面に不満があり「転職のために持ち込んだ」と供述。31年には、スポーツ用品大手「アシックス」で社外秘のシューズデータを退職前に不正に持ち出したとして兵庫県警が元社員の男を逮捕。男は「退職に際し自分の役に立つと思った」と動機を供述したという。  営業秘密漏えいに関する大型事案が顕在化したことを受けて、不正競争防止法は27年に親告罪から非親告罪へと改正された。捜査関係者は「27年の法改正まで企業側の意識も低かった」と打ち明ける。  営業秘密侵害に関する相談件数も令和元年は49件に上るが、企業の労務管理に詳しい西川暢春弁護士は「事件として世間に明らかになるのはごくわずかだ」と話す。  営業秘密と認められるには、秘密として管理されている「秘密管理性」▽有用な情報である「有用性」▽公然と知られていない「非公知性」の3要素が必要。だが、西川弁護士によると、情報が適切に管理されていないなどで営業秘密の要件を満たさないケースもあり、実際の転職時などに情報が持ち出される数は非常に多いのが現状という。  西川弁護士は「社員が企業のデータベースから情報を持ち出した際に警告が鳴るようなシステムを導入したり、社員への(モラル意識醸成といった)研修を行ったりする必要があるだろう」と指摘した。

https://news.yahoo.co.jp/articles/df5f931bb73e09eb3eeac027400e768fabac55d6

産経新聞


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