「バイデン(Joe Biden)新大統領から電話が来ない」と韓国人が焦る。日米首脳は電話協議を終えたのに、それから5日たっても文在寅(ムン・ジェイン)大統領には音沙汰がないからだ。韓国観察者の鈴置高史氏は「電話協議の遅れ」に米韓の亀裂を見る。 【写真】有名アスリートの「反日行動」 話題を呼んだ“姿”とは

「韓国の方が上なのに」

鈴置:日本時間1月28日未明、バイデン大統領と菅義偉首相が電話で話し合いました。米国が新政権になって初の首脳協議で、日米は同盟強化を謳いました。ところが米韓首脳の電話協議は2月2日の午前になっても実現しない。韓国では「軽んじられた」と騒ぎになっています。 ――「まず日本、次に韓国」が慣例では?  鈴置:それはそうなのですが、韓国では「我が国は日本よりも上の存在になった」との気分が横溢している。「米国は日本よりも先に韓国に電話すべきだ」と考える人が増えているのです。  日米首脳の電話協議の前から毎日経済新聞は、米新政権の国務長官や国防長官が韓国よりも先に、日本のカウンターパートに電話したことを問題視していました。  見出しの「『なぜ、日本の次に韓国なのか』…バイデン政権は異なると思っていたのに」(1月27日、韓国語版)からも分かるように、そろそろ我が国が先になるはずだ、という期待が韓国で高まっていたのです。  そんな中、肝心の大統領までが「日本・ファースト」を実行した。国務長官と国防長官は「日本が先」とはいっても韓国にも同じ日か翌日には電話してきた。それなのにバイデン大統領からは5日たっても電話がない。韓国人はいたくメンツを傷つけられたのです。  日米首脳協議の発表直後に青瓦台(大統領府)は「順番に意味はない。内容が重要」と記者に説明しました。「韓国は後回し」と国民の不満が高まるのを恐れ、予防線を張ったつもりだったのでしょう。  でも、その言い訳が怒りに油を注ぎました。「酸っぱいブドウの論理だ」「もし韓国が日本よりも先だったら、大騒ぎしてブリーフィングしたであろうに」といった批判がネット上で盛り上がりました。 「順番は無意味」を報じた記事、例えば東亜日報の「日本とまず電話したバイデン…青瓦台は『順番に大きな意味無し』」(1月28日、韓国語版)の書き込み欄で、そんな怒りの声を読むことができます。

割り込んできた習近平

――そこまで怒らなくてもいいような気がします。 鈴置:確かに、これまでも「日米」が「米韓」よりも先だったのですから。ただ、韓国人の怒りには伏線があったのです。  文在寅大統領は1月26日夜9時から40分間、習近平主席と電話で協議しました。中国の要求に応じたものでした。韓国が米国の新大統領との電話協議を待っている隙に、中国が強引に割り込んだ形です。 「韓国は米国よりも中国に近いと世界に見せつける狙いであり、韓国はそれに応えたと見なされる」との懸念を中央日報は社説で表明しました。「米中覇権競争の中で問われる韓国外交」(1月28日、日本語版)です。  さらに、この電話協議で文在寅大統領が習近平主席に「中国共産党創建100周年をお祝いする」「中国の国際的な地位と影響力は日増しに高まっている」と語ったことも明らかになりました。  韓国側は隠していたのですが、中国側がこの発言を公表したのです。中国外交部の発表(英語版)で読めます。  中国共産党によるウイグル、チベット、香港などでの人権弾圧が西側で非難を浴びている時に、「お祝い」を述べるのは異様です。  朝鮮日報は社説「文が中国共産党を称賛、中国海軍は我が西海を連日圧迫」(1月28日、韓国語版)で以下のように嘆きました。 ・中国共産党創建日を6か月も前にして「心からのお祝い」を伝え習近平を褒め称えるのは、世界の民主主義国家の指導者の中で文大統領が唯一であろう。 ・中国の人権蹂躙と香港の民主化デモへの弾圧以降、世界で中国共産党体制への警戒心が高まっている時なのだ。 ・ましてや、バイデン政権がトランプの政策のうち唯一継承するのが「中国圧迫」である。安保協力機構としては米日豪印に韓国を加えた「Quadプラス」を、経済協力システムとしては米国を中心としたサプライ・チェーン網などを構想中である。 ・このような韓国を米国はどんな目で見るだろうか。信頼すべき同盟と言えるのか。米国なくして北朝鮮の核ミサイルをただの1発も防げないのだ。

バイデンの顔に泥を塗った文在寅

――なるほど。文在寅政権は米国の顔にしっかりと泥を塗っていた……。 鈴置:そこがポイントです。そんなやましさがあるから、「バイデンからの電話の遅れ」に韓国人は気を揉むのです。習近平主席と先に電話したばかりに米国を怒らせ、冷たくされるのではないか、と悩んでいるわけです。  中韓首脳の電話協議を批判的に見ていた保守の人々にすれば「そら、見たことか!」といった心境でしょう。 ――韓国人は日本より「上」か「下」か、を気にしますからね。 鈴置:日本の首相が先に米国の新大統領と話すと、韓国人のメンツが傷つくだけではなく、実利面でも悪い影響が出ます。米国の朝鮮半島政策が日本に引っ張られると、韓国に不利に働きがちです。  日韓の間では利害が相反することが多い。例えば、文在寅政権は北朝鮮に経済援助したくて仕方がない。一方、日本は非核化前の援助は絶対に反対。北朝鮮の度重なる食い逃げに懲りているからです。  日韓慰安婦合意も同様です。バイデン氏が副大統領時代に保証人となってまとめたこの合意を文在寅政権はいとも簡単に破った。まさか、米国にバイデン政権が登場するとは想像もしていなかったのでしょう。  そこで慌てて「慰安婦合意は認めている」と軌道修正しました。でも、それは口先だけで破り続けていることに変わりはない(「韓国人はなぜ、平気で約束を破るのか 法治が根付かない3つの理由」参照)。  菅義偉首相がバイデン大統領に電話で「文在寅政権は慰安婦合意を守っているフリをし始めましたが、実際は破り続けています」と言ったらどうなるでしょうか。  実際、1月28日(米国時間1月27日)の電話協議でそう伝えた可能性もある。韓国が話題に上ったかを日本政府は明かしませんでしたが、韓国メディアはこの協議の中身に深い関心を寄せています。

日米の「韓国外し」が始まった? 

 ただ、日米首脳の間で韓国問題が話し合われたのなら、「悪口」や「陰口」であっても韓国にとってまだ、幸せかもしれません。もっと不幸なのは、「韓国無視」で日米が合意した場合です。  日米両国は首脳の電話協議について公式な文書を出しましたが、登場するはずの「韓国」が見当たらないのです。  米国側の発表によると、「両首脳は朝鮮半島の完全な非核化の必要性で合意した」とありますが普通、言及される「米日韓の協力によって実現する」という部分がありません。  米国時間1月26日(日本時間1月27日)の茂木敏充外相とA・ブリンケン(Antony Blinken)国務長官の電話協議に関する米国側の発表では「米日韓の協力」がちゃんと入っていました。  なお、日本側の発表は「首脳」にしろ「外相」にしろ韓国には一切触れていません。中韓首脳が電話で協議したことは韓国・日本時間の1月27日午前に発表されました。  日米の「外相」協議には間に合わず、28日の「首脳」には間に合って「韓国外し」が行われたのかもしれません。あくまで推測ですが。

「中国に賭けるな」と脅したバイデン

――米国が「韓国無視」戦略を採るでしょうか……。

鈴置:厳密には「無視して見せる」作戦です。韓国は構ってやると「自分が必要なのだ」と勘違いしてつけ込んでくる。「無視」あるいは「軽視」すれば、焦って言うことを聞くとの判断です。 ――「離米従北」の文在寅政権にも効くでしょうか?  鈴置:この政権には効かなくてもいいのです。どうせ2022年5月に政権交代します。「中国や北朝鮮の言いなりのままなら捨てるぞ」と韓国人を脅せば、次の大統領選挙で親米派が返り咲く可能性が増します。 ――バイデン政権にそこまで読み切る「韓国通」がいるのでしょうか。 鈴置:案外と多いのです。まず、バイデン大統領本人です。デイリー新潮の「韓国の嘘を暴いたバイデン 『恐中病と不実』を思い出すか」で指摘したように、副大統領時代からバイデン氏は「韓国人の恐中病」を見抜いていた。  2013年12月に訪韓したバイデン氏は朴槿恵(パク・クネ)大統領と会談した際、「米国の反対側(中国)に賭けるな」と発言しました。  当時、韓国政府は「日本が慰安婦に謝罪しないから韓米日の軍事協力に参加できない」と屁理屈をこねていた。この言い逃れに対し「嘘はいい加減にしろ。本当は中国が怖いだけだろ」と図星を突いたのです。  米国を出し抜いての中韓首脳の電話協議を見て、バイデン大統領は「恐中病の韓国がまた、米中の間で二股をかけているな」と苦笑いしたことでしょう。  先ほど申し上げたように、副大統領時代の2015年12月には、日韓慰安婦合意の保証人も務めました。韓国が平気で約束を破ることもよく知っています。

「いわゆる慰安婦」と発言の国務副長官

 バイデン政権の国務副長官に就任したW・シャーマン(Wendy Sherman)氏も「米国の同盟国である日本を叩く韓国」を批判したことがあります。  国務次官だった2015年2月27日、「Remarks on Northeast Asia」と題するワシントンでの講演で「民族感情は悪用されかねない。政治指導者が過去の敵を非難し、安っぽい拍手を受けるのは容易だ。だが、そんな挑発は発展ではなくマヒをもたらす」と述べたのです。  名指しはしませんでしたが、韓国を念頭に置いたと誰もが分かります。また、この講演の中でシャーマン氏は「いわゆる慰安婦(so-called comfort women)」という単語を使いました。  韓国政府は「性奴隷(sex slave)」という単語を使って世界に「強制連行イメージ」を広めようとしていますから、それを牽制したと受け止められました。韓国世論は激昂しました。  朝鮮日報は社説「米国務次官の誤った過去史発言、このまま見逃すことはできぬ」(2015年3月3日、韓国語版)で「B・オバマ(Barak Obama)大統領も訪韓した際に『慰安婦は非常に恐ろしい人権侵害』と言ったではないか」と米政府の「変節」を猛烈に非難しました。  この社説の載った翌々日の3月5日に、M・リッパート(Mark Lippert)駐韓米大使はソウルで韓国人に襲われ、重傷を負いました。  犯人は刃物で切りつけた際「オバマはなぜ変わったのか」と叫んだと報じられています。朝鮮日報など韓国メディアの扇動が引き金となった可能性が大です。

「人権運動を抑圧」と批判の次官補代理

――副長官は国務省のNo.2ですからね。 鈴置:ええ、シャーマン氏の任命は韓国にとって痛手です。もう1つ、文在寅政権が大いに困惑したであろう人事があります。国務省で朝鮮半島を担当する次官補代理にJ・パク(Jung Pak)氏が就任したのです。  韓国系米国人で、韓国の内情を知り尽くしている人です。CIA(中央情報局)で分析官を務めた後、ブルッキングス研究所に移りましたが、政権入り直前の1月22日、「North Korea’s long shadow on South Korea’s democracy」という論文を発表しました。  J・パク氏はこの論文で「文在寅政権は人権運動家や北朝鮮からの亡命者に圧力をかけている。北の体制に批判的な記者の取材を妨害もした。権力を自身に集中させる点では、過去の保守派の大統領と変わらない」と言い切りました。  米国務省で韓国を担当する高官が、就任前の論文とはいえ、韓国の民主主義に大きな疑問符を付けたのです。  見出しに「北朝鮮の影」とあるのは「保守派の大統領は悪名高い国家保安法を使って親北朝鮮的な情緒まで取り締まった。一方、文在寅政権は親北政策への反対を抑え込むために、(保守政権から)やられたことをやり返している」との論理で説明したからです。  韓国保守の「従北政権」批判と通じる主張です。また、リベラル派の代表的な論客ながら、文在寅政権下での民主主義の後退を厳しく批判する崔章集(チェ・ジャンジプ)高麗大学名誉教授の意見を繰り返し引用しています。  これを読んだ韓国人の多くが「こんな政権が続く限り、韓国をまともな国扱いしないぞ」と米国から通告されたと思うでしょう。  そもそも韓国人が「日本よりも上」と考えるのは「経済力で日本を追い越しそうなうえ、民主主義の面ではとっくに日本を超えた」と信じているからです。その「日本よりも上の民主主義」を米国から否認されれば、自分の国の左派政権に怒りが向くでしょう。

韓国に通貨でお仕置きした米国

――米国は「警告」のために米韓首脳の電話協議をさらに遅らせる?  鈴置:それは分かりません。中央日報の「バイデンの『ベル』はいつ鳴るか…『首脳電話会談順番表』でみる韓半島の運命」(1月29日、日本語版)は米国の新大統領が各国首脳に電話をかける順番を分析しました。  それによると、D・トランプ(Donald Trump)大統領は日本にかけた翌日に韓国に電話した。オバマ大統領が韓国に電話したのは日本の5日後だったそうです。  この相場観から言って、いくらなんでも、そろそろ米韓電話協議は開かれるでしょう。一応は、同盟国なのです。それに、米国が韓国に「お仕置き」をする手はいくらでもあります。  1997年、金泳三(キム・ヨンサム)政権が通貨危機に陥った時はドルを貸さず、日本の通貨スワップも止めました。同政権が米国の軍事情報を中国に渡していたことが原因と見られます(『米韓同盟消滅』)第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」参照)。  韓国経済が縮み始めました。2020年には人口減少を記録しました。生産年齢人口はすでに、2017年をピークに減り始めています。  というのに今、韓国の株価は急騰。金融当局がバブルと警告しています。韓国の場合、株価の暴落が通貨危機を呼ぶ可能性があります。ウォンが国際通貨ではないためです。米国がつけ込むチャンスはいくらでもあるのです。 鈴置高史(すずおき・たかぶみ) 韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。 デイリー新潮取材班編集 2021年2月2日 掲載

https://news.yahoo.co.jp/articles/006a6c17bc4a1b6af24093d50c238f083a79f540?page=6

デイリー新潮


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