右往左往する文在寅

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 元慰安婦と元朝鮮半島出身労働者(「元徴用工」)問題は解決済みであった。それを再度持ち出したのは韓国の文在寅大統領である。 【写真】日本人は知らない…いま韓国で本当に起きている「ヤバすぎる現実」  しかし、以前韓国に配慮してきた日本にとって韓国の行動はすでに忍耐の限界を超えた。韓国からどのような要求が来ようと、いかなる提案があろうと、それは「韓国で解決すべき問題」というだけで、一切の妥協を拒否している。  そうなると韓国の市民団体は行動をエスカレートさせ、文在寅政権にさらなる圧力を加えるようになる。裁判所は国際法を無視し、慰安婦寄りの判決を出すようになる。市民団体に寄り添ってきた文政権な結局何もできず、右往左往するだけである。  韓国は、慰安婦問題で米国は韓国の味方と考えていたが、バイデン政権になり様子が一変した。日米韓の協力の重要性を唱えるバイデン政権は、韓国が歴史問題にこだわり、日米韓の連携を破損することに不満を抱いている。  バイデン氏は2015年の慰安婦合意を成立させた仲介者であり、これを一方的に破棄した文在寅氏には不信感を持っているはずである。米国は、日米豪印の協力に軸足を移しており、これからはみ出した韓国に大きな圧力となっている。  そうした中、業を煮やした元慰安婦から国際司法裁判所(ICJ)に委託しようとの動きが出てきた。  これまでは、ソウル中央地裁の判決を受け日本が国際司法裁判所(ICJ)への提訴を検討していたが、韓国はICJへの訴えに応じなければならない「義務的管轄権」を受託していないため、ICJへの付託には一切の考えを示してこなかった。  韓国としてみれば、仮に敗訴すれば、歴史問題の当事者から強い批判を受け、政治的に大打撃になるであろう。  慰安婦問題などを巡る状況は文在寅政権の手を離れ、文在寅氏は動きが取れなくなっている。文在寅氏は、歴史問題について「日本は謙虚になれ」「日本は歴史問題を政治利用している」と言ってきたが、「文政権は歴史問題で押しつぶされた」という状況になりつつあるように思われる。  このように元慰安婦の問題、元徴用工の問題で窮地に陥ってきた文政権の現状について分析してみよう。

 そもそも慰安婦問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みである。請求権協定では「完全かつ最終的に解決された」と規定している。  韓国側は、交渉の過程で慰安婦問題は議論されなかったというが、何を取り上げるかは請求する側が考えることである。日本は、元慰安婦の人々が、社会から相手にされず悲惨な生活を送ってきたという事情を勘案、人道的に対応してきた。  元慰安婦には「アジア女性基金」から償い金が支払われ、総理の謝罪の手紙も渡されたが、当時の挺対協の妨害で韓国人の元慰安婦にはいきわたらなかった。そのため、2015年に改めて日韓政府間で合意に至り、一人当たり1億円が韓国政府の設立した財団に日本政府が基金を提供し、一人当たり1億ウォンが支給された。この合意は「最終的かつ不可逆的」なものである。当時存命であった46人中36人がこの合意を認めた。  しかし、朴槿恵政権を継いだ文在寅氏は、国民情緒としてこの合意は認められないと拒否した。この合意を反故にしたことで、日本側は文政権との関係に見切りをつけ、日韓関係は膠着状態に陥り、韓国からいかなる提案があっても受け付けない状態となった。

文在寅政権の「致命的な弱点」

致命的な弱点が明らかに photo/gettyimages

 その一方で、文在寅氏の庇護によって市民社会団体の行動はますますエスカレートする。正義連(旧”挺対協“)の元理事長による不正が発覚し、その活動が元慰安婦のためではなく、寄付金を集めるための政治活動ではないかとの疑惑が持ち上がった。  慰安婦問題を解決したければ、これを政治利用し、解決を妨害してきた正義連を遠ざける以外にない。最近の中央日報報道によれば、韓国政府は正義連に委託していた慰安婦事業を直接担当することし、正義連も「国家・地方自治体の補助金や支援金を受けないで独自に財政を運営する」方針を明らかにしたという。  これは一歩前進である。しかし、文政権は正義連を庇い、被告となった尹美香(ユン・ミヒャン)氏はいまだに国会議員にとどまっている。正義連を完全に切れないのが市民社会を基盤とする文在寅政権の致命的な弱点である。  元徴用工の問題で「個人の請求権は消滅していない」と初めて言った大統領は文在寅氏である。大法院長に春川の地方裁判所の所長だった「民主社会のための弁護士会」の金命洙(キム・ミョンス)氏を抜擢し、文氏の意向に沿った判決に導いた。  しかし、日本政府はこの判決を一切認めていない。

「国際法違反」のソウル中央地裁判決…

 ソウル地裁は1月8日、元慰安婦が訴えた裁判で日本の主権免除を認めず、「原告に一人当たり1億ウォン(約955万円)を支給せよ」とする原告側勝訴の判決を下した。  日本政府は「主権免除」の原則に基づき審理を欠席し、裁判そのものを認めない趣旨から、判決の控訴も見送った。  こうした国際法違反の判決は韓国の多くの有識者も予想していなかったようである。ただ、勝訴したとは言え、原告が差し押さえようとしている日本政府の資産は、実際には執行不可能なものである。この判決は、韓国政府にとっても困り果てたものであろう。

もう八方ふさがり

 茂木外務大臣は、この判決に関し、「国際法上も二国間関係でも到底考えられない異常な事態」と述べ、「あらゆる選択肢が視野に入れて毅然と対応していく」考えを示した。  茂木大臣はさらに康京和外交部長官に電話して、「早急に是正するための措置を取るよう強く求めた」。韓国政府に改善の意思が見られなければ、対抗策としてICJへの提訴も検討するという。与党自民党外交部会でもICJ提訴を求める意見が相次いだ。  この判決は、文在寅政権を苦しめている。文在寅氏は「正直困惑している」と述べ、2015年の合意についても「政府間の公式合意であったことを認め」「(合意を土台にして)おばあさんたちも同意できる解決法を探っていけるよう韓日間で協議していく」と述べ、従来の立場を大転換させた。文在寅氏が公式合意としたことに、元慰安婦団体は反発した。  文大統領とすれば、公式合意を認めるほどにまで譲歩したので、日本側もこれに応えた対応をしてくれるものと期待したであろう。しかし、日本側にとって2015年の合意は「最終的かつ不可逆的」なものであり、日韓間でさらに協議するようなものではない。当然日本側からは、韓国側で対応してほしいとの反応が返ってきた。  もはや、韓国側から日本政府に働きかける余地はない。韓国の市民社会団体もいうことを聞かない。文在寅政権は八方ふさがりである。

バイデン政権の「圧力」が高まってきた

朝鮮半島問題専門家の辺真一氏は慰安婦合意を仲介したバイデン氏に加え、「米国務長官と副長官は『慰安婦問題』では『悪運のコンビ』」だという。  2015年に朴槿恵氏が態度を軟化させ、日本との合意に踏み切ったのは米国の安全保障上「日韓関係緊張は負債である」(当時のラッセル国務次官補)として日米韓の協調体制を急ぐオバマ政権のプレッシャーがあったからである。  国務副長官のウェンディ・シャーマン氏(当時は次官補)は「過去史は韓国、中国、日本すべてに責任があるから早く整理し、北朝鮮の核という当面の懸案に向かうべきである」と述べ、オバマ政権は韓国の味方と過信していた韓国にショックを与えた。  また、国務長官のブリンケン氏(当時副長官)は日韓合意について「我々はすべての人々が両国の合意を支持するよう求める。合意の精神に基づいて行動することを望んでいる」と述べている。  デイリー新潮の鈴置高史氏記事によれば、バイデン政権の当局者は9日、「韓国が(日本との関係で)前に進まないのなら、バイデン政権はパートナーとしての韓国に対する期待を放棄しうる」「我々が韓国から聞かされることといったら、シンガポールの米朝協議の精神と、慰安婦、徴用工だけ」と語ったという。さらに、「同盟強化を図るバイデン政権は、歴史を言い訳に同盟を壊す茶番劇はやめろ、と就任早々から韓国を叱った」というのである。  ブリンケン国務長官は、新任の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官との電話会談で、「日米韓による三角協力」を改めて強調した。外交関係者によれば、3月ごろ予定される長官のアジア訪問をきっかけに、日米韓の外相会談が実現する可能性もささやかれている。  北朝鮮は、現在のところ米国の動きを様子見であり、挑発行動は起こしてないが、元山には砲兵部隊が展開しているといわれ、東倉里のミサイル基地の雪かきをしたともいわれる。いつ挑発行動を再開するかわからない。  また、米国は同盟国と共に対北朝鮮政策の再検討を行っている。日韓関係の緊張要因を取り除くよう米国の圧力はますます強まろう。その時は、日本に対する圧力もあろうが韓国に対する圧力はそれよりも格段と大きなものとなろう。  しかし、市民社会に弱腰の文政権が、その意向に反し、日米に歩み寄ることができるのであろうか。

文在寅の自爆が止まらない

 元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)氏は16日記者会見を開き、韓国政府に対し、慰安婦問題を国際司法裁判所(ICJ)にゆだねるよう促した。韓国にある慰安婦問題ICJ回付推進委員会(推進委)はこれまで李さんの活動を支援してきた専門家・活動家で構成されている。  同委は「(日本側が)主権免除などを理由に法的責任を回避し、韓国の国際法違反を一方的に主張しているため、国際法に則った判断を促す」と主張している。  今回の慰安婦判決のポイントは「元慰安婦に対する反人道的な犯罪行為は主権免除の例外とすべき」というものであった。しかし、これは国際的に確立した見解ではなく、韓国国内でもこの判決に対する疑問がわいている状況である。  そればかりでなく、文在寅氏自身が判決に「正直困惑している」と述べている。こうした状況で韓国政府がICJに行けるのか。元慰安婦のICJ提訴の要求に韓国政府は「元慰安婦の意見を聞き慎重に検討する」と述べるにとどめている状態だ。  文在寅氏は、慰安婦の問題について何もできない状況に陥っている。元慰安婦がICJに行けというのを無視すれば、これまで韓国政府が行ってきたことに対する疑念が生じるであろう。  文在寅氏は、自ら慰安婦問題を再提起することで自爆してきている。それが文政権の実体であることを韓国国民が早く気付いてほしい。

武藤 正敏(元駐韓国特命全権大使)

https://news.yahoo.co.jp/articles/c1d9e4310e1604dc6ddda0ecb17ead669ee827d7?page=5

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