フランスでは今、著名人一家の告発をきっかけに、家庭内での性的虐待(近親姦)が大きな問題となっている。こうした事件では、しばしば被害者は「沈黙を強いられてきた」と言われるが、実は、周囲に被害がよく知られていても、問題とみなされてこなかったケースもある。 【画像】父親の子を6人出産…村中が知っていた30年におよぶ性虐待の加害者は、なぜ捕まらなかったのか 約30年にわたって父親が養女に性的暴行をおこなった「グアルド事件」と呼ばれる有名な事件を調査した専門家が、なぜ加害者が処罰されないままなのかを解説する。

30年間の性的虐待で6人の子供を出産

2021年1月7日、フランスの老舗出版社スイユ社から『ファミリア・グランデ』という書籍が出版された。著者はカミーユ・クシュネル。彼女の義父は、憲法学者で政治学協会の会長、上流階級のクラブ「ル・シエクル」の会長であった有名人オリヴィエ・デュアメルだ。 このなかで、クシュネルはデュアメルによる双子の兄への性的虐待を告発した。現在、「権威ある人間による15歳以下の者に対する性的暴力と暴行」と「権威ある人間による性的暴力と暴行」への捜査が、パリ検事局によって開始されたところである。 これを機にフランスでは、家庭内での子供への性的虐待(近親姦)への関心が高まりを見せている。 国立科学研究センター(CNRS)の女性研究者レオノール・ル・ケンヌは、こうした近親姦事件のひとつである「グアルド事件」を1年間にわたって取材し、『ありふれた近親姦──しかし、誰もが知っていた』(ブラン、2014)という本にまとめた。 グアルド事件とは、グアルド一家に起こった家庭内での性的虐待事件だ。2000年代になってからメディアの注目を集めた事件で、この一家では約30年間にわたって父親が養女であるリディア・グアルドを暴行していた。養女は父親の子供を6人出産している。 グアルド一家が住んでいたのは、パリを擁するイル=ド=フランス地方に属するセーヌ=エ=マルヌ県モー近郊の小さな村だった。噂話はすぐに伝わったが、警察や司法が介入することはなかった。 1999年に父親が亡くなり、2001年にようやく捜査が開始された。2008年、リディアの義母に、時効が成立していない犯罪(「犯罪幇助」とリディアの息子のひとりに対する「性的暴行」)に関して、執行猶予つき懲役4年の刑が下された。 2012年12月、Civi(犯罪被害者への補償委員会)は、刑法と同様の時効期間を認めず、婦人科医、精神科医、総合医の診断書に基づいて、28年間(1971~1999年)にわたる残虐行為、暴力、暴行に関して、リディア・グアルドに100万ユーロ以上の損害賠償をおこなった。 被害者のリディア・グアルドは自らの物語を『他者の沈黙』(ミシェル・ラフォン、2008年)という題の本で語っている。 この事件を調査した前出の研究者レオノール・ル・ケンヌは、家族間での性的暴力(近親姦)に対する社会の無知について語る。近親姦は周囲に知られていることもしばしばだが、それが社会で議論されることも、告発されることもほとんどない。たとえば、このグアルド一家が住んだ小さな村では、「誰もが知っていた」が、誰も訴えなかった。

10人にひとりの少女が被害にあう犯罪

──あなたの本のタイトル「ありふれた近親姦」とはどういう意味なのでしょうか? レオノール・ル・ケンヌ 挑発的なタイトルですが、この言い方は正しいものです。モー近郊の村でリディア・グアルドが受けた近親姦の行為は、非常に特別な事件として報道されました。しかし、実際には父親が娘をレイプした事件です。10人に1人の娘が近親姦の犠牲になっているわけですから、これは「ありふれた事件」なのです。 そして、これは、住民たちがまったく当たり前のように知っていた近親姦でした。誰も「近親姦」とは言いません。用いられていた表現は、「彼は自分の娘と子供を作った」でした。そして、彼の娘は、彼の妻としてみなされていました。結局のところ、男が女と子供を作ったということで、まったくありふれたことなのです。 ──この事件がメディアで取り上げられるまでには、少し時間がかかっています。最初は、地元のジャーナリストが興味を持ちましたが、その記事はあまり反響がありませんでした。その後、2007年に仏「リベラシオン」紙のオンディーヌ・ミヨだけがその情報を再び報道し、あの家族と村についてのルポルタージュを掲載しました。しかし、誰もそれには興味を示しませんでした。 オーストリアのフリッツル事件(原注:若い女性が父親によって洞穴に監禁され、性的暴行を加えられ、多くの子供が生まれた事件)という注目すべき事件があって初めて、フランスのジャーナリストは同様の事件がフランスにもあることを語り始めました。 報道はグアルド事件を、監禁、村人たちの沈黙、秘密、「オメルタ」(沈黙の掟)の物語として伝えました。しかし実際のところは、習慣的な近親姦であり、誰もがそれを知っており、噂になっていました。そこに沈黙もタブーもオメルタもありませんでした。

住民はみんな知っていた

──あなたは2008~2009年、1週間に2~3日をその村で過ごしています。研究のためにその村に着いたとき、住民たちはまったく敵対的ではなかったし、沈黙もしていなかったと、あなたは語っていますが、どのような状況だったのでしょうか? 私は、村人たちの沈黙を予測し、それに備えていました。メディアの注目を集めると、多くの猜疑心(さいぎしん)を引き起こしてしまうからです。私は、パリ近郊の小さな村の生活を研究している社会学者だと、自己紹介しました。 住民たちが私をジャーナリストだと思ったことは一度もありませんでした。住民たちは、私に卑劣だと思われることを恐れていませんでした。まったくです。住民たちは、グアルド一家のことを、村の少し変わった家族として話しました。 誰もがそのことを知っていて、まったく恥ずべきことだとは感じていなかった、と住民たちは私に説明しました。彼らの目には、単に、他人とは少し違った方法で成り立っている家族のように映っていたのです。 一家のことは村の住人たちや、さらには人の多い隣町モーの人々の間で話題となっていました。ところが、この近親姦は犯罪とは考えられておらず、「父親が自分の娘と子供を作った」だけのこととされていました。 誰もがそれを知っていても、それが犯罪ではないのならば、誰が告発するというのでしょうか、何を告発するというのでしょうか? 近親姦が、このように考えられていたために、結局のところ、それを司法に訴える理由がまったくなかったのです。 スキャンダルとして扱ったのはメディアだけです。その時から、この件は近親姦と言われるようになり、住民は犯罪への証言をするようになりました。それ以前は、この件はそのようなものとは思われておらず、グアルド家は少し変わった家族、話題になる家族と思われていただけで、住民たちとの関係構築も可能でした。 ──なぜ、住民たちの目には、近親姦が犯罪として映らなかったのでしょうか? なぜなら住民たちは、リディアが父親に28年間暴行され続け、6人の子供をもうけたことを突然知ったわけではないからです。ジャーナリストたちはまるでそうであるかのように語りましたが、違います。 住民たちは、徐々に事実を知りました。家には、男性1人と女性1人、3人の子供がいて、上の子供2人は実家を離れました。そして、男性1人、その妻1人、残った娘で暮らしていました。父親は発言力があり、感じの良くない人物でしたが、フリーの印刷業者として真面目に働き、隣町のモーで名刺作成を営んでおり、その中には地元の名士のものも含まれていました。 彼は働き者で、真面目で気が強い人物だとみなされていました。ある日、娘が妊娠しましたが、誰も娘に会いに来ていた様子はありませんでした。 噂がささやかれるようになりました。住民たちは、誰がその子の父親かを知りませんでした。そこで彼らはお互いに聞いたり、探ったりしていました。そして2人目の子供が生まれました。子供2人はリディアの父親に似ていました。噂話は続きます。 少しずつ、このことを話題にする人が増えてきました。その噂は、村から、グアルドが印刷の仕事に使っていたトラックを停めていたモーの中心街にまで広がりました。多くの人が買い物をするスーパーMのレジでも話題になっていました。誰もが知っていました。次第に、この事実と噂が住民たち、隣近所、モーの名士たちの日常に浸透してきました。 議員たちが話題にしはじめたのです。市長の秘書はそれを知っていることを自慢にしていました。村の古株も、新参者よりも事件の歴史を知っていることに満足していました。その「地方」出身の確かな証拠となるからです。 住民たちは、彼と対立しがちだったとはいえ、商売上の付き合いはあり、近所付き合いもありました。住民たちにとって彼は、強い男で、子供たちを厳しくもしっかりと育て、家族をきちんと支えている人物でした。 グアルドには発言力がありました。彼は筋肉質でずんぐりしていました。住民たちには少し怖がられていました。だから、彼と理解し合って、彼と話すことができれば、それでよかったのです。 住民の彼への対応は問題があります。彼が娘と子供を作ったことは、彼が法律を無視したことを示しています。つまり、彼は法律以上の存在になりました。これにより、グアルドは最終的にある種の力を体現していたのです。彼と接することで、あるいはそうしようとすることで、彼の力を利用できると考える人もいました。 グアルド家の向かいに住む農夫が、彼の家に行ったこと、彼と話ができたことを得意げに語ってくれました。父親が娘におこなったこと、娘が被ったことを心配するよりも、グアルドの家でグアルドと話すことがこの農夫の関心でした。

https://news.yahoo.co.jp/articles/1eeb9b628894112b45963b1487d575457fee9840?page=2

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