米国でアジア系住民に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)がまた多発している。いきなり暴力を振るわれる悪質な事件が少なくなく、死者も出たほか、日本の寺も放火などの被害を受けた。日系だけでなく、アジア系社会に不安と怒りが広がっている。【ロサンゼルス福永方人】  ◇「外出も怖い」震える住民  「(人種間の)対立の上に成り立つこの国の社会構造に怒ることにもう疲れました」  西部ロサンゼルスのリトルトーキョーで今月13日に開かれたアジア系への暴力に対する抗議集会。タイ系米国人女性のタニー・ジラプラパスクさんは、スピーチで涙ながらに訴えた。中国が発生源と疑われる新型コロナウイルスの感染が米国で広がり始めた2020年2月、ロサンゼルスの地下鉄車内で男から「あらゆる疫病は中国から来る。中国人は最低だからだ」などと差別的な暴言を浴びせられたという。  集会には日系や中国系、韓国系など1000人以上が参加。「目を背けないで。ヘイトを止めよう」と手書きしたボードを掲げるなどして怒りの声を上げた。日系米国人の大学生、キャリス・ドイさん(21)も大学で、新型コロナを広めたとのデマを流された経験を持つ。「最近は自分も狙われないかと心配で、家から出るのも怖い。同じような気持ちの人たちと集まれば少しは心が安らぐのではないかと思い、参加しました」と話した。  ◇主要16都市で前年の2.5倍に  アジア系へのヘイトクライムは、新型コロナの感染が拡大した約1年前から全米各地で相次いでいる。だが、最近は暴力性の強い事件が続く。  1月28日には西部サンフランシスコで、朝の散歩中だったタイ系男性(84)が道路を渡って突進してきた男に突き飛ばされて、脳出血で2日後に死亡した。男は19歳の黒人で、殺人などの容疑で逮捕された。CNNテレビによると、遺族は以前から「お前たちがコロナを持ち込んだ」と叫ばれ、唾を吐きかけられるなどの被害に遭っていたという。  1月31日には隣のオークランドのチャイナタウンで、歩道を歩いていたアジア系の男性(91)が後ろから男にいきなり押し倒された。CBSテレビによると、チャイナタウン周辺では2月にも、アジア系に対する犯罪が2週間で18件起きたという。  放火などに遭った日本の寺は、ロサンゼルスの東本願寺別院だ。地元紙などによると、2月25日夜、白人とみられる男が柵を乗り越えて院内に侵入し、ちょうちん台に火を付け、灯籠(とうろう)を倒したり石を投げ込んだりした。警察がヘイトクライムの疑いで捜査している。  東部ニューヨークでもアジア系への暴行事件が続発している。2月3日には地下鉄の車内で、フィリピン系の男性(61)が男にカッターナイフで顔を切りつけられ、約100針を縫う大けがをした。地元警察によると、市内では20年、アジア系を狙ったヘイトクライムが少なくとも28件あり、前年の3件から急増している。  ロサンゼルスとニューヨークの日本総領事館は今月、在留邦人にメールを送るなどして注意喚起した。  カリフォルニア州立大サンバーナディーノ校の憎悪・過激主義研究センターの調査によると、全米の主要16都市で20年、アジア系に対するヘイトクライムは122件あり、前年の2・5倍に増えた。また、人権団体「ストップAAPIヘイト」によると、アジア系へのヘイトクライムや言葉による嫌がらせなど差別事案の報告件数は、集計を始めた20年3月19日から同年末までに2808件あった。  ヘイトクライムの原因として、歴史的に根強いアジア系への差別意識がコロナの流行により顕在化したほか、トランプ前大統領がコロナを「中国ウイルス」と呼んだことなどが指摘されている。アジア系の支援団体「アジア系米国人アドバンシング・ジャスティス」のジョン・ヤン代表はそうした見方に加え、「コロナ禍で心身共に不安が高まり、人々が攻撃的になっているのではないか」と分析している。  バイデン大統領は今月11日の国民向けの演説で、「残忍なヘイトクライムにより、アジア系米国人は通りを歩くだけでも恐怖を感じている。(ヘイトクライムは)米国の価値観に反する。止めなければならない」と呼びかけた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/3a8a33f5fb3305df8472682b22a847c5eee200df

毎日新聞


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