クアッド首脳会議の「大きな成果」

日本と米国、豪州、インドの4カ国による初のクアッド(Quad)首脳会議に続いて、3月16日には日米の外務、防衛閣僚による安全保障協議委員会(2+2)が、18日には米中の外交トップ級会談が開かれた。日本は中国にどう向き合うのか。3月12日に開かれたクアッド首脳会議について、私は先週のコラムで「合意できたら、すばらしい」と思う5項目のメニューを列挙した(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81081)。それは(1)クアッド4カ国による合同軍事演習と(2)情報交換の強化(3)対中制裁の共有化(4)中国の人権弾圧に対する弾劾行動、それに(5)来年冬の北京五輪への対応、の5項目である。 【写真】習近平も青ざめる…中国の尖閣侵入に「日本のマジな怒り」を見せる方法 結果はどうなるか、と思っていたら、共同声明には、残念ながら、5項目はどれも盛り込まれなかった(https://www.kantei.go.jp/jp/content/000079174.pdf)。具体的な成果と言えば、インド太平洋地域の途上国へのワクチン供給拡大くらいである。声明は「インド太平洋へのワクチンの公平なアクセスを強化すべく協働する」と書いている。先週のコラムで書いたように、これは、首脳会議に消極的だったインドを取り込むために、残りの3カ国がインドに資金供与というアメを与えた、というのが話の核心だ。インドがワクチン生産能力を拡大できるように、残る3カ国が資金供与し、首脳会議に賛成させた。ただ、それだけだと、いかにも「インドを買収した」形になるので、ワクチンをインド太平洋の途上国に供給するという、きれいな「お化粧」を施したのだ。声明には「インドへの資金供与」部分は一切、盛り込まれなかった。だが、それはよしとしよう。ワクチン生産の拡大は、途上国に限らず、どの国にとっても、悪い話ではない。それで、インドが首脳会談に出てくれるのであれば、安い買い物である。 クアッドの成果はそんなところか、と思ったら、違った。 読売新聞が3月14日、日米豪印にフランスを加えた5カ国が4月上旬、初めてインド沖のベンガル湾で海上共同訓練を行う方向で最終調整に入った、という特ダネを報じたのだ(https://news.yahoo.co.jp/articles/b3da356c7545f9bdb38275c41df6efdfc939c84f)。2面2段という地味な扱いだったが、これには驚いた。 まさに、私が挙げた「合同軍事演習」でクアッドは合意していたのである。読売の記事は「クアッド」に一言も触れていない。クアッドの共同声明にも盛り込まれていない。だが、参加国の顔ぶれといい、タイミングといい、クアッド合意の一環とみて間違いない。訓練海域こそベンガル湾で、私が期待した南シナ海や東シナ海ではなかったが、フランスが参加する。事実上、クアッドにフランスがオブザーバー参加するのも同然だ。英国は空母打撃群を南シナ海に派遣する方針なので、近い将来、英国も加わるだろう(https://www.sankei.com/column/news/210205/clm2102050003-n1.html)。そういう背景も書き込めば、1面トップの扱いでもおかしくない。地味な扱いにした読売の事情は分からないが、記事のクレジットはニューデリー特派員で「印政府関係者が明らかにした」と書いている。中国を刺激したくないインド側の事情に配慮したのかもしれない。

尖閣周辺での大規模演習が実現

一方、3月16日に東京で開かれた日米安全保障協議委員会(2+2)は、会議後に発表した共同文書で、中国の行動が「日米同盟と国際社会に対する政治的、経済的、軍事的、技術的課題を提起している」と批判した。中国の海警法に「深刻な懸念」を表明し、日本の尖閣諸島についても「日米は日本の施政を損なおうとする、いかなる一方的な行動にも反対」と明記した(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100161034.pdf)。 私が注目したのは、共同文書が「閣僚は、同盟の運用の即応性及び抑止態勢を維持し、将来的な課題へ対処するための、実践的な二国間及び多国間の演習及び訓練が必要であると改めて表明した」と、合同演習の実施をしっかり明記した点である。もちろん、尖閣諸島に関する記述も重要だが、肝心なのは、言葉よりも行動だ。「合同演習をやるぞ」としっかり書いたのは、中国に対する明白なけん制になる。ロイド・オースティン米国防相と会談した岸信夫防衛相は16日の会見で、こう語っている(https://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2021/0316a_r.html)。———- 〈抑止力・対処力のためには、自衛隊と米軍が訓練の実施を通じて高い能力を獲得することが重要と考えます。昨日も東シナ海では航空自衛隊と米空軍が共同訓練を実施いたしました。また、自衛隊と米軍は、これまで尖閣諸島周辺を含む南西方面において共同訓練を多数実施してきています。このような取り組みを今後も着実に積み重ねて、日米がともに行動している姿を示していきたい、このように考えています〉 ———- 17日付けの読売新聞によれば、日本側は陸海空の自衛隊、米国側は海兵隊と陸海空軍が参加するという(https://www.yomiuri.co.jp/politics/20210317-OYT1T50058/)。両国の軍事組織がフル参加する本格的な演習である。この記事も読売の特ダネだった。他社は「共同文書の中身を書けば、それでお終い」と思っていたのだろうか。せっかく防衛相がヒントをくれているのに、深堀りしないから、読売に出し抜かれるのだ。こうした下準備を重ねたうえで、米国は3月18日、中国との外交トップ級会談に臨んだ。米国側はアントニー・ブリンケン国務長官とジェイク・サリバン大統領補佐官(安全保障問題担当)、中国側は楊潔篪中国共産党政治局員と王毅外相だ。本稿執筆時点(18日午前)で、会談の内容は明らかになっていない。

日本の方針を示す「シンプルな方法」

さて、こうなると、あらためて日本の姿勢が問われる。米国と合同演習をするのは分かったが、菅義偉政権が中国にどう向き合っていくのか、もうひとつ、はっきりしないのだ。いま、政権は総務省の接待問題と新型コロナ対応で手一杯の様子だが、だからといって、中国は待ってくれない。米国のジョー・バイデン政権が「中国に宥和的なのではないか」という懸念が根強く残る中、だからこそ、日本が米国をしっかり支えて、足並みをそろえて中国に対峙していく必要がある。菅政権が発足して半年過ぎたというのに、いまだに明確な対中方針が見えてこないのは、不安が残る。昨年11月に中国の王毅外相が来日した際、王氏が記者会見で尖閣諸島について「我々は自国の主権を守っていく」と語ったのに対して、同席していた茂木敏充外相がその場で反論せず、批判を招いた件もある(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77983)。菅義偉首相は4月8日から訪米し、バイデン大統領と初の対面による首脳会談をする。それまでには、日本が対中方針を明確にしなければならないのは、言うまでもない。私は、かねて「尖閣諸島に政府職員を派遣すべきだ」と主張してきた(たとえば、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74151など)。 実行するのに、タイミングのいい理由もある。 沖縄県石垣市が尖閣諸島の新しい字名を記した行政標識を設置するために、政府に市職員の上陸を申請するという(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210315/k10012915781000.html)。石垣市は諸島の字名に、新たに「尖閣」の2文字を盛り込んだ。それを受けた標識設置だ。政府が決断する絶好のチャンスではないか。石垣市はこれまで戦時遭難者の慰霊などの理由で3回、上陸を申請したが、いずれも認められなかった、という(https://digital.asahi.com/articles/ASP3J424TP3JTPOB003.html)。 だが、行政標識の設置さえ認めないとなると、日本政府が施政権を放棄した、とみられても仕方がない。そうなれば、日米安保条約の第5条適用に直結する大問題になる。米国が尖閣防衛に動くかどうかは、日本が尖閣諸島の施政権を握っていることが大前提であるからだ。菅政権はこの際、石垣市の申請を認めて政府と市の職員を島に派遣し、行政標識を設置して「尖閣諸島は日本の領土」であることを断固、世界と中国に示すべきだ。日本の領土の話なのに、バイデン政権のスピード感に比べて、肝心の日本がいつまでもモタモタしていると、米国にも呆れられてしまうだろう。———- 「長谷川幸洋と高橋洋一の「NEWSチャンネル」」最新版は、新聞が消費税の軽減税率を獲得した舞台裏を、私と高橋さんが議論しています。ぜひ、ご覧ください。 ———-

長谷川 幸洋(ジャーナリスト)

https://news.yahoo.co.jp/articles/475b12a1371e2131f79037f2d8afbb5323715984?page=3

現代ビジネス


PDF