──LINE利用者の個人情報海外流出が発覚。事業の中心軸を韓国から日本に移す戦略を掲げているネイバーにとっても厳しい船出となった…..

無料通信アプリ「LINE」利用者の個人情報が中国の関連会社で閲覧可能になっていたことが発覚し、総務省は使用を停止、個人情報保護委員会がLINEと親会社のZホールディングスに、個人情報保護法に基づく報告を求めた。LINEとヤフージャパンを運営するZホールディングスが2021年3月1日に経営統合した矢先である。

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経営統合で発足したAホールディングスの社長には、ソフトバンクの宮内謙社長が就任し、韓国ネイバーを創業した李海珍氏が会長に就任したが、ネイバーは事業の中心軸を韓国から日本に移す戦略を掲げている。 ネイバーは役員会議の30%を日本語で行い、プレゼンテーション資料を日本語に自動翻訳するシステムを備えており、日本語を学ぶ職員が増えているという。韓聖淑ハンソンスク)代表が、日本でネットショッピングをリリースする意向を示している。 ■ ネイバーはサムスン発だった ネイバーは韓国でベンチャーブームが起きた1997年、サムスンSDSの社内公募で採用され、98年1月にサービスを開始した。サムスンはインターネット市場が自社には小さすぎると考えて、99年に分社化した。 当時、ネイバーの検索エンジンはお世辞にも優秀とはいえず、韓国語のコンテンツも貧弱で、ダウムやヤフー、ライコスなどに押されて5位にとどまっていた。 ネイバーは、先行するダウムやヤフー・コリアが行なっていないサービスを検討し、知恵袋やブログとコミュニティで構成されたカフェなどを開始した。また、映画「猟奇的な彼女」で主役を務めたチョン・ジヒョンを広告塔に起用した。 インターネットコミュニティの「カフェ」がネイバーの成長を後押しした。さらに、早くからインターネットショッピングが発達した。百貨店はテナント方式が主流で、入店企業の負担で販売員を常駐させる必要がある。大手スーパーは確実に売れる商品のみを取り扱い、コンビニエンスストアも同様だ。認知度の低い商品が店頭に並ぶことはない。 後発企業など、早くからインターネット販売を導入したが、企業が発信する情報は誇張が多いと考える韓国人は少なくない。商品を購入した人がネイバー・カフェに書き込んだレビューを見て、ネイバーショッピングで購入する市場が形成され、企業がネイバーブロガーにレビューを依頼する広告スタイルが定着した。 ネイバーショッピングは、ネイバー社が運営するスマート・ストアの商品に加えて、Gマーケットやオークション、クーパンなど大手ECモールの商品も検索できることから韓国ネット通販検索で70%以上のシェアがある。 ■ 震災がきっかけで、LINEを開発 ネイバーは設立まもない2000年、日本語検索サービスや日韓翻訳サービスなどを開始した。当時の日本はヤフー・ジャパン、インフォシーク、NTTグループのgooやサービスプロバイダ各社がポータルサイトを運営していた。2001年、米グーグルが日本に進出、2005年にMSNが日本語サービスを開始して収益が伸び悩んだネイバーは日本語サービスを終了した。 ネイバーは2007年、日本に再進出すると発表。「ネイバーまとめ」を開始してライブドアを買収、LINEサービスを開始した。ネイバーの李海珍会長は、2011年3月、東日本大地震の被災者が家族や親戚と連絡を取ろうとする姿を目にした。電話回線がまだ完全には回復していなかった。 李会長は、韓国で普及していたカカオトークを参考にLINEサービス発案。子会社のNHN Japanが開発を担当し、会長自身が日本に滞在して陣頭指揮をとった。日本、韓国、中国、米国などさまざまな国籍者が開発に参加したLINEは日本をはじめ、台湾やタイなどアジアを中心に広まった。 ■ LINEの画像や動画は韓国ネイバーのサーバに保管 韓国ネイバーは、検索サービスやコミュニティ、ショッピング、ニュース、不動産、地図など、生活や仕事で必要なあらゆる情報を提供する。同社が開発した翻訳アプリのPapago(パパゴ)は、18年2月の平昌冬季五輪で韓国警察が公式採用し、五輪後は韓国に居住する外国人や訪韓外国人とのコミュニケーションに使われている。 企業や政治家、芸能人の命運もネイバー次第で、ネイバーニュースに掲載されないメディア社が存続の危機に直面するほど影響力を持っている。 ネイバーが圧倒的なシェアを持つ韓国市場だが、グーグルに移行する人が増えている。ヤフー・ジャパンも米国ヤフーのライセンスで、国外では「ヤフー」以外のブランドが必要となる。2社の思惑が合致して経営統合に繋がった。 LINEの画像や動画は韓国ネイバーのサーバに保管されていることが判明している。筆者が数か月前に会った警察官は、韓国サイバー警察はカカオトークの情報にはアクセスできるが、LINEはアクセスできないと残念そうに話しており、日本人利用者の情報が漏れるなどの被害を受ける可能性は小さいが、Aホールディングスにとって厳しい船出となりそうだ。

佐々木和義

https://news.yahoo.co.jp/articles/c1c99122d10618f26b654846a4789af49619d8b5

ニューズウィーク日本版

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