【北京・坂本信博】中国政府は、北京に駐在する外国人への国産新型コロナウイルスワクチンの任意接種を始めた。中国では全国民への無償接種が進み、投与数は約7500万回に上る。ただ、副反応を心配して接種を望まない人も少なくない。不安がないといえばうそになるが、西日本新聞の海外特派員が読者の調査依頼にこたえる「あなたの特派員」に「中国のワクチン接種の実情が知りたい」との声も寄せられており、23日に接種を受けてみた。 【動画】中国でコロナワクチン受けてみた

「副反応ゼロを保証するものではありません」

 「北京に駐在する外国人ジャーナリストのみなさんへ」。中国外務省から、北京に駐在する外国メディアの記者と家族にワクチン接種の案内文が届いたのは17日。最初の接種から3週間後に2度目の接種が必要で、半年間は他のワクチン接種が受けられないこと、あくまで任意であること、18~59歳が対象であること、母国の本社の了解が必要であることなどが記されていた。中国人の場合、接種は無料だが、今回は1回90元(約1500円)の支払いが必要という。  接種するワクチンは、中国医薬集団(シノファーム)製。中国国家薬品監督管理局が条件付きで承認したワクチン4製品の一つで、ウイルスの毒性をなくして感染力と複製能力を失わせ、人体の免疫反応の活性を保つ不活化ワクチンだ。  シノファーム傘下の研究所が昨年末に発表した最終治験の中間結果によると、有効性は79・34%。同じ不活化ワクチンのインフルエンザワクチンと同様に、重度の副反応はまれとされる。  ただ、中国産ワクチンを巡っては、治験データの開示が不十分との指摘がある。案内文には「比較的安全であることが実験で確認されているものの、副反応がゼロであることを保証するものではありません」と書かれていた。  日本でも、医療従事者や高齢者を皮切りに国民へのワクチン接種が計画されている。ただ、記者も含め幅広い市民が接種を受けられるようになったとしても、日中の往来制限のため一時帰国のめどは立たない。リスクがあることへの理解や、健康状態の報告に間違いがないことを宣誓する文書を提出した上で、指定された23日夕に接種を受けた。

5秒の筋肉注射、じわじわと感じた痛み

 会場は北京市中心部の展示施設。かなりの規模のスタッフや警備員が配置されている。金属探知機のゲートをくぐって検査を受けた後、当日の健康状態の問診コーナーに誘導された。問診スタッフは日本語を含め複数の言語に対応していて驚いた。  待ち時間はほとんどなく、小さな個室が並ぶエリアに案内された。手術着のような青い衣服を身に着けた医療従事者が「24時間以内はシャワーを浴びないで。お酒はなるべく控えて」と英語で話しかけた。  傍らの冷蔵庫からワクチンを取り出すと腕をまくるように言われ、上腕三頭筋に注射された。筋肉注射は採血や皮下注射に比べて痛いと聞いていたが、針を刺す痛みはほとんど感じない。ただ、5秒ほどかけてワクチンを体内に流し込む際に、筋肉の内部に薬液がじわじわと染みこんでいくような痛みが走った。  その後は「観察区」というエリアに案内され、容体の急変に備えて30分間待機。気分が悪くなることはなかったが、注射された腕にかすかな痛みがしばらく続いた。退出する際は、接種から30分以上過ぎているか確認され、会場の壁には「接種をしたからといって油断しないで」との趣旨の注意書きも張られていた。  案内文にも、2回目の接種から2週間が過ぎるまでは体調の異変に注意するよう書かれており、緊急連絡先となる担当医の携帯電話番号まで記されていた。

69の途上国に無償提供、43カ国に輸出

 不活化ワクチンは、インフルエンザワクチンと同様に一般的な冷蔵庫で保管できるのが特長だ。日本国内で接種が進む米ファイザー製やモデルナ製のワクチンは不活化ワクチンとは異なり、ウイルスそのものではなく「メッセンジャーRNA」という遺伝子を人工的に合成して投与する新たな技術を活用。このため、長期保管にはそれぞれ零下75度、零下20度ほどでの冷凍が必要となる。  海外に暮らす邦人へのワクチン接種について茂木敏充外相は2月の衆院予算委員会で「国ごと、地域ごとにきめ細かく検討したい」と述べた。ただ、海外への移送が容易ではないことも課題の一つ。北京の在中国日本大使館によると「具体的な対応は決まっていない」という。  その点、中国産ワクチンは、超低温環境で大量のワクチンを保管するのが難しい発展途上国などでの使用に適しているとされる。世界で新型コロナのワクチン争奪戦が激化する中、中国は国産ワクチンを69の途上国に無償提供し、43カ国に輸出して影響力を強める「ワクチン外交」を展開している。取り扱いが比較的容易な不活化ワクチンの特長が一役買っているのを実感した。

接種から数分、スマホに「1回接種済み」

 ワクチンに期待される効果は(1)感染を防ぐ(2)感染しても症状が出るのを防ぐ(3)症状が出ても重症化するのを防ぐ-の三つ。インフルエンザワクチンもそうだが、接種すれば絶対に発症しないというわけではない。  中国の陝西省西安では今月19日、約1カ月ぶりの国内感染例として発表された医療従事者がコロナワクチンを2回接種済みだったことが判明し、話題を呼んだ。ただ、重症化はしていないという。コロナ対策を担う中国疾病予防管理センターは「ワクチンの有効性は100%ではない。接種後も絶対に安全とは言えない」と呼び掛けている。  米国では、ワクチンの接種完了から2週間以上たった人同士は、小規模なら公共の場を除く家の中など屋内で、マスクを着けずに距離を気にしないで交流できるとする行動の手引が発表された。相手がワクチン未接種でも、若くて持病がないなど感染時の重症化リスクが低い場合は、マスクなしで会えるという。  中国では、ワクチン接種後もマスク着用や他人との身体的距離を取る対応が必要で、入国時などにPCR検査や隔離生活を求められる点も変わらない。ただ、行動履歴や感染リスクが分かるスマートフォンアプリで、公共施設や商業施設に入館する際に提示が必要な「健康コード」に「ワクチン接種済み」の表示が出るようになる。記者のスマホにも、接種を受けてわずか数分で「1回接種済み」と表示されるようになった。

北京五輪開幕まで1年。着々と準備進める中国

 在日中国大使館は、中国渡航時の査証(ビザ)申請に関し、中国産ワクチンを接種した人に対してはビザ申請時の必要書類を一部免除する便宜を図ると発表した。北京では最近、「ワクチン接種済み」というバッジやステッカーを付けた飲食店の接客スタッフやタクシーをよく見かけるなど、国家を挙げて、ワクチン接種を勧める風潮がある。今回、外国メディアへ接種を呼び掛けた背景には、その姿勢を国内外にPRする狙いもあるのかもしれない。  新型コロナの収束が見通せず、ワクチン接種も緒に就いたばかりの日本は、今夏に予定される東京五輪・パラリンピックの海外客受け入れ断念を決めた。一方、2022年2月の北京冬季五輪開幕まで1年を切った中国は、着々と準備を積み重ねている。  多くの人がウイルスへの抗体を持つことで、社会全体が守られる「集団免疫」の効果もあるとされる。中国疾病予防管理センターの高福主任は、中国メディアの取材に「22年の初め、あるいは今年の終わりまでに国内のワクチン接種率70~80%(接種者9億~10億人)を達成し、基本的な集団免疫の獲得を実現させたい」と語っている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/fd466f365212f564eb0cbbff38e0e2c06274db5a?page=3

西日本新聞社


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